リチャード・クラリダFRB副議長は、11月の講演で(低金利の)別の理由を挙げた。彼によると、過去の投資家は、インフレ率が予想より高くなる事態に備え、金利リスクプレミアムを要求していた。現在の投資家は、中銀がインフレ率を低く維持すると強く信じているため、そうしたプレミアムを必要としていない。

ウォールストリートジャーナルより ()内は筆者注記

低金利が高い株価を支援していると言われます。確かにファイナンス理論的にその通りだとは思うのですが、株のリターンという意味では低金利というより低インフレこそが高い株価を正当化するのだと思います。

「実質リターン=名目リターン-インフレ率」です。今の低いインフレ率が今後も持続するのであれば、名目リターンは過去と同じほど高くなくても問題ありません。予想PER18倍強というS&P500指数のPERも悪くないかなと思えてきます。

しかし、その低いインフレ期待が株価に織り込まれている以上、もしインフレ率が上がった時の反動は大きくなります。

資本に対する需要は全体的に減少していると思いますが、だからってそれが低金利、低インフレを保証するものではないと思います。ましてや、最近話題に上がるMMTなどの財政出動が積極的に行われるようになれば、インフレ懸念はさらに高まります。

株式は長期ではインフレに負けません。賃金などコスト上昇は利益マイナス要因ですが、販売単価を上げて顧客に転嫁できれば問題ありません。顧客に対する強い交渉力を持つ企業が有利ですね。まあS&P500指数に投資しておけば問題ないでしょう。ただし、たとえ強い企業であっても10年レベルでは株式はインフレに弱いです。

なんで株は長期ではインフレに負けないかと言うと、インフレ率上昇は割引率だけでなく将来利益も押し上げるからです。株価=将来利益 / 割引率です。分母も分子も上昇すれば株価は変わりませんよね。ちとファイナンス的な説明で恐縮ですが。

では、なぜ短中期では株はインフレに弱いのか。それは、確かにインフレ上昇は将来利益も割引率も押し上げますが、短期的には割引率上昇の影響の方が大きいからです。インフレ率が上昇して本当に将来の利益が高まるのか、投資家はどうしても懐疑的な目で見ます。保守的に考えるのは当然のこと。ましてや、私も含め現役の投資家はインフレ経済を経験してない人が多いですから、余計にそのきらいがあるでしょう。

インフレ率が上がれば、先ず間違いなく金利も上がりますから、株価の公式「株価=将来利益 / 割引率」の分母たる割引率はすぐさま反応します。つまり株価が下落します。んで、度重なる決算発表を経て物価上昇に伴う利益の拡大を投資家が確認する中で、徐々に将来の利益見通しが上がって株価は戻っていきます。

そういうフローを経ることで、米国株は過去200年、物価調整後の実質で7%弱のリターンを達成してきました。

なので、今後30年を見据えている長期投資家はインフレ率なんて大して気にする必要はないかもしれません。が、2020年代の10年間の株式のパフォーマンスという点においては、インフレは最大のリスクファクターだと思っています。