日経などの国内メディアと、ウォールストリートジャーナル(WSJ)等の米国メディア。両者でもっとも違うな~と思う点が主語。主語が違います。日本のメディアは「企業は」と言うことが多いのに対して、米国のメディアは「投資家は」ないし「株主は」と言うことが多いです。

企業って概念的な存在でしかありません。「企業は」というだけでは具体性に欠けます。経営者なのか、従業員なのか、それとも株主なのか、誰を指しているのかわかりません。日本企業は終身雇用で社員はみんな家族という考えが古くからあり(最近はだいぶ変わってきているけど)、従業員 vs 経営者・株主という対立構造が見えづらいことが、「企業は」という主語が頻繁に使われる理由の一つかなと個人的には思っています。

WSJは「~のため、投資家はしばらく辛抱が必要だろう」みたいな感じて、投資家(株主)を明確に主語にしていることが多いです。米国株投資家として自分事としてニュースを読めます。

この延長線上で日米メディアで違うなと思う点がもう一つあります。それは一株当たりの金額で言うか言わないか。

日本のメディアには一株当たり利益・配当の情報が極端に少ないと感じます。決算関連の記事でもそうです。 営業利益100億円、純利益20億円といった全社レベルの金額は報道されるけど、一株当たり情報(EPS、BPSなど)にはあまり言及されません。

一方で、米国のメディアは一株当たり利益(EPS)を当然のように報道します。むしろこっちがメインなくらいです。全社レベルの情報は売上高くらいで、あとは一株当たりの金額で議論されることの方が多い気がします。

一株当たりで考えるのって投資家として大事なことだと思います。その方が、株価との関係性を掴みやすいからです。株価とは”一株当たり”時価純資産額です。株価が一株当たり情報だから、利益などの情報も一株当たりで言ったほうがわかりやすいです。

純利益が予想より10億円増えたって聞いてもピンときません。でもEPSが予想より10円増えたって聞くとイメージできます。もし株価が1000円なら益回りで言うと1%です。投資額×1%くらい投資利益が増えるんだなって思えます。100万円株を持ってるなら1万円の利益です。

投資先企業が健康被害で訴訟を起こされて50億円の費用が掛かりそうだというニュース読んでも、それが自分の保有株の価値(株価)にどれくらい影響するのかわかりづらいです。一株当たりに換算した方がわかりやすい。こういうニュースは日米ともに一株当たりでは報道しないことが多いので、気になる時は自分で換算します。

たとえば、最近EUがマスターカード(MA)に対して約700億円の制裁金を科すと発表しました。独禁法違反という理由みたいです。700億円とは巨額です。でも、マスターカードほどの大企業にとっては軽いもんでしょうか。どうだろう。なんかいまいち分からないですよね。

こういう時は一株当たりに直すとイメージしやすいです。700億円とは1ドル110円でドルにすると6.4億ドルほど。マスターカードの発行済み株式総数は約10.5億株です。つまり、6.4億ドルを一株当たりに換算すると0.6ドル。現在のマスターカードの株価は200ドル前後。

MA株価:200ドル前後
一株当たり制裁金:0.6ドル

株価200ドルに対する一株当たり制裁金0.6ドルの割合はたったの0.3%。 EUの制裁金はマスターカード株主には、ほとんどダメージがないことがわかります。

700億円という絶対額を見ると「あ、マスターカードと言えどもやや大きな負担かもな」って感じそうですが、冷静に計算してみるとこんなもんです。サラリーマンが、ちょっといいお店でお酒飲むくらいの負担感です。軽くはないけど、別にそんなに痛くもない。1カ月経ったら忘れているレベル。

もういっちょ例を出します。なんか制裁金と聞くとEUばかり思い付くのはなぜだろうか。EUってしょっちゅう制裁金出してますよね。

去年の夏、EUがグーグルに約6000億円の制裁金を払うよう命じました。これも独禁法絡み。自社の検索システムを不当に優遇したとか、そんな理由でしたか。

個人では想像できない金額規模で驚きますが、これも一株当たりで考えないと実際の影響はわかりづらいです。6000億円ってことは55億ドル。グーグル親会社アルファベット(GOOGL)の発行済み株式数は約3.5億株。つまり、一株当たり制裁金は55億÷3.5億で約16ドルとなります。アルファベットの株価は1,100ドルくらいでしたっけ。ざっくりそんなもんですよね。

GOOGL株価:1100ドル
一株当たり制裁金:16ドル

株価に対する一株当たり制裁金の割合は1.4%。まあまあ大きいですね。年収500万円のサラリーマンにとっての国内旅費って感じでしょうか。軽くはない。でも、存続にかかわるような金額じゃないです。間違っても、この制裁金が原因で倒産するようなことはありません。当然ですけど。

こんな感じで一株当たりで考えると、ニュースとか読んでる中で出てくる数字が株価にどれくらい影響するのか、ざっくり想像することができます。見た目の金額ほどインパクトがないケースが多いかと思います。

投資成果は極論カネ計算の結果です。何でも数字で客観的に捉えるよう意識することは大事かなって思います。総額ベースだけでなく、一株当たりでも考えれるとベターです。

一株当たりの金額で考えるって、日本ではあまり馴染まないんですよね~。先に言いましたが、日本では「株主は」という発想が希薄なことが原因だろうと推測しています。でもそれは仕方ない。日本株式会社の大株主は日銀だし、個人はほとんど株式を持ってませんから。

これは経理の現場でも感じることです。上司も同僚も一株当たりの金額で議論しているのを見たことがありません(自分もだけど)。有報で開示するEPSを計算する時くらいです。誰も顧客である株主、投資家の財布のことなんて気にしてないからです。まあ、そんなもんですかね。所詮サラリーマンだし。