土地は償却しない

マンションの資産価値は立地がすべて。すべては言い過ぎだけと8割は立地で決まると言われます。どの本を読んでもここは意見に相違が見られません。それくらい立地が重要ということです。

それは会計的に考えても納得です。

減価償却という会計技術があります。

100億円で工場を建設したら、そのコストは約50年かけて費用化されます。100億円なら1年あたり約2億円ですね。

固定資産台帳を見ていると、自分が生まれるより以前に行った投資が今なお費用化され続けており、なんだか不思議な感覚を覚えることがあります。

各固定資産の経済的価値が維持される年数を見積もって償却年数を決めるのが一応のルールですが、実務的には税法で定められた償却年数を使うことが大半です。じゃないと税務調整が面倒になるからです。

税法の耐用年数をいくつか紹介します。

住宅用の鉄筋コンクリート造(47年)
店舗用の鉄筋コンクリート造(39年)
公衆浴場用の鉄筋コンクリート造(31年)
木造住宅、店舗(22年)

税法が何を根拠にこれらの年数を決めているのか詳しいことは知りませんが、まあ鉄筋コンクリート造のマンションが50年くらい使えるのは異論はないですよね。木造は22年ですが、最近の木造建築はもっと丈夫だから、これは実態にそぐわないかもしれません。

兎にも角にもこんな感じで、建物はその用途、構造によって償却年数が細かく規定されています。

一方で土地は償却しません。100億円の土地を買ったら、一切費用化されず半永久的に100億円の土地がバランスシートに計上されたままになります。土地は建物のように劣化しないからです。

ただし、地価は変動します。それは原則として財務諸表には反映させないのがルールなので見えませんが。

住宅の資産価値は立地次第

マンション探しをしていると、物件によって価格はピンキリです。

都内でも辺鄙なところでかつ駅から遠いところなら坪100万円台もあります。これが、都心になると中古でも坪400万円超えは最近は普通にあります。地位(じぐらい)の高い有名なエリアだと坪1000万円とかもあります。

この価格差はどこから生じるのか?

建築費は物件によって大きく変わるわけではないです。建築費=人件費ですが、高級物件の工事に携わる作業員の人件費が特別高いことはありません。

すべて土地の価格差です。高額物件は設備等のグレードが高いのもありますが、それよりも何よりも土地が高いわけです。

それがいいんです。土地に高いお金を支払うことが資産価値的には良いことなんですね。なぜなら、土地は償却しないから。

年々価値が落ちていくのは建物と設備です。そりゃ当然です。排水管、手すり、共用のソファ、エレベーター、すべて時間の経過とともに機能劣化していきます。定期的に修繕コストが必要です。

それに対して、土地は何十年経っても土地のままです。機能的に劣化しません。だから、会計の世界で非償却なわけです。

A:3000万円(うち建物価格2000万円、土地1000万円)
B:8000万円(うち建物価格2000万円、土地6000万円)

こんなAB2つのマンションがあったとしたら、年々の減価率はAの方が高くなります。なぜなら、全体に占める建物の割合が高いからです。

A、Bどちらも2000万円相当の建物価値は同じ速度で減価していきますが、減価率には差が出ます。マンションBの方が価値の下落速度が緩やかになります。土地の割合が多いからです。

土地が非償却というのはあくまで会計の話で、実際は地価は上がったり下がったりします。土地は機能的な劣化はないですが、その土地に対する社会のニーズは変化します。

建物、設備部分はどんな物件であろうと価値が一定速度で下落していきますが、土地の価格変動は物件毎に異なります。人口、世帯数が増えていく場所は需要が増えるので土地の価格は上がります。一方で、人口が減少して過疎っていくエリアの地価は下がります。

建物、設備部分の価値
→どの物件も共通して年々下落
土地の価値
→物件によって上がることもあれば下がることもある

つまり、マンションの資産価値で差が生じるのは土地部分ということになります。

・物件価格に占める土地の割合が多い方が資産価値は保全されやすい
・さらに、その土地の人口、世帯数が増える都心エリアの方が価値が維持されやすい

ということです。

なるべく都心寄りで坪単価の高い物件を狙うべき、という結論になります。

家選びをすると、どうしても設備や見た目の華やかさに目が行きがちです。ディスポーザーや食洗器は付いているか。バルコニーは広いか。共用部分は豪華か。コンシェルジュはいるか。

確かにこれらは生活の質を豊かにするし、資産価値にもいくらか影響はあると思います。しかし、どれも立地の重要度には敵いません。

高級な建物、設備を買うのではなく、高級な土地、街を買うという意識が大切になります。

あくまで資産価値という観点での話ですけどね。住宅は資産価値だけで決めるわけではありません。そこの落としどころを探るのが非常に難しいです。

というのも、日々の生活の質という点では立地だけでなく、広さや設備の充実度も無視できないからです。