「情報」を売る企業は顧客に対して強気に交渉できる
企業と顧客、基本的に交渉力が強いのは顧客です。企業の営業マンが必死に自社製品をアピールし、時に頭を下げて顧客に買ってもらいます。企業は在庫をさっさと捌いて売上を計上したがります。その理由は大きく2つあると思います。製品の劣化と資金繰りです。
コンビニに陳列されている食品や飲料を思い浮かべると分かりやすいですが、商品は時間と共に劣化することが多いです。機器関係でも法律で定められた使用期限があるケースがあります(一部の医療機器など)。一方で、顧客が商品と交換するお金は時間が経っても劣化しません。企業は商品が劣化する前に売りたいけど、顧客にその焦りはありません。
あと資金繰りという問題があります。企業は常に生産活動を続けています。材料を仕入れたり、賃料を支払ったり、従業員のお給料を支払ったりと資金需要があります。そういった運転資金を確保するためになるべく早く在庫を資金化する必要があります。さもなくば、利息を払って借金しなくてはなりません。もし借金を断られたら最悪倒産です。
このように、ビジネスは対等な取引ではあるものの、往々にしてお金を支払う顧客側の交渉力が強い傾向にあります。しかし逆に言えば、上記の2条件(商品の劣化、資金繰り)を気にする必要がない企業は顧客に対して強気に交渉できます。高い販売単価を請求でき、結果として高い利益率が実現できます。
商品の劣化・陳腐化が少なく、生産活動による資金繰りの懸念がない企業。つまり、情報をコア・コンピタンスにしている企業です。情報は少なくとも物理的な劣化はないし(陳腐化はあり得るけど)、追加生産するために大きな工場も要りません。そんな企業が長期投資に向いている優良企業ではないでしょうか。
バフェットは「有形固定資産が企業の競争優位を生み出すとかつては思っていたが、それは誤りで無形資産がより重要であることに気が付いた。」という主旨のことを株主への手紙の中で語っています。
情報(無形価値)を競争上の強みにしている企業を財務的に見極める一つ方法として、PBRを見ることが挙げられます。PBRとは株価純資産倍率のことで、簿価純資産と株式時価総額(時価純資産)の比率を指しています。PBRが高いということは、バランスシート上の簿価純資産に対してマーケットの評価が高いことを意味しています。つまり、バランスシートには表れていない「見えない価値」がたくさんあると投資家が判断しているということです。
高PBR=「見えない無形価値をたくさん持つ」
主要米国企業のPBR
というわけで、主要な米国企業のPBRを見てみます。構造上PBR≒1倍となる金融機関は除きます。あと、純資産マイナスでPBR算定不能な会社(フィリップモリス、ボーイング、マクドナルドなど)は除きました。2019年10月27日時点。ヤフーファイナンスから数値を拾いました。
会社名 | PBR |
アップル | 10.9 |
マイクロソフト | 10.5 |
アマゾン・ドットコム | 19.9 |
フェイスブック | 6.4 |
ジョンソン&ジョンソン | 5.7 |
ウォルマート | 4.6 |
プロクター&ギャンブル | 6.5 |
ビザ | 10.6 |
エクソンモービル | 1.5 |
AT&T | 1.5 |
ベライゾン・コミュニケーションズ | 4.7 |
インテル | 3.4 |
ウォルトディズニー | 4 |
コカ・コーラ | 13.5 |
メルク | 8 |
コムキャスト | 2.9 |
ファイザー | 3.3 |
シスコシステムズ | 5.9 |
ペプシコ | 17.6 |
オラクル | 8.4 |
アボット・ラボラトリーズ | 4.7 |
メドトロニック | 2.8 |
アドビシステムズ | 14.1 |
コストコホールセール | 8.6 |
ユナイテッド・テクノロジーズ | 3.2 |
アムジェン | 10.2 |
IBM | 7.2 |
ネクステラエナジー | 4.8 |
ナイキ | 15.7 |
スリーエム | 9.8 |
アップル、マイクロソフト、アマゾンといった経済を牽引するIT企業のPBRは高いですね。PBRは10倍を超えています。コカ・コーラ、ペプシコ、ナイキといった世界的に有名な消費財企業のPBRも高いです。これらの企業は物を売っているように見えますが、本質は「情報」の販売と言えるかもしれません。
高PBR企業は長期投資向き
「PBRが低い企業は割安でお買い得、PBRが1倍未満の企業を探そう!」なんてフレーズをマネー誌などでたまに目にします。確かに簿価純資産以下で評価されている企業の中には、保有する資産が適切に株価に反映されておらず割安に放置されている企業もあります。マーケットが正しく価値を反映することを期待して、そういった割安株に投資する方法もあります。
しかし、こと長期でのバイ&ホールドに限った話をすると、PBRは低いよりも高い方が望ましいと私は思っています。長期投資では株価の割安度よりも企業の強さの方が重要ですが、高PBR企業は長期的に廃れない無形価値を持つ強い企業と言えるからです。
高PBR企業は株価が上がり過ぎて割高になっているだけの可能性もあります。そこは注意。買値は常に重要です。ただバリュエーションはシンプルにPERで見ればいいです。PBRで株価の妥当性を判断するのは難しいです。
PERが許容範囲内でPBRが高いなら、価値ある無形資産をたくさん持っていることを示唆しています。無形資産が利益を生んでいるということです。
低PBR戦法はニューニュートラル時代のROE至上主義の時には不利になりがちですね。資産インフレ時には有効となると思いますが。
いずれにしても、定性要因は出来るだけ排除して、あらゆる指標をバランスよく見ることが大切なようですね。
No.2:PBR-ROEの投資戦略
吉野貴晶のクオンツトピックス 2017年09月21日号
https://www.nam.co.jp/market/column/quantstopics/2017/170921.html
金言ですね。同意です。
未来をあれこれ考える前に、先ずはあらゆる角度から数字、指標をチェックすることが重要だと思います。
これをきちんとやれている投資家がどれだけいるか(私も完璧にできている自信はありません)。