円安でむしろ業績は悪化する

アナリストや証券会社の担当者に説明してもなかなか納得してもらえないのが、円安ドル高が利益にマイナスという点です。

「いや、御社は海外売上比率が高いから円安はプラスではないですか?」とよく言われると、IR担当の同僚が言ってました。

確かにドル建ての売上高の円換算額は円安ドル高で大きくなります。そこは円安はプラスと言えます。

しかし、それ以上にドル建ての費用があるんです。北米に多くの工場がありますが、その生産コストは当然ドル建てです。北米圏での販促、管理費用も同じくドル建てです。

ドルの売上が100あっても、ドルの費用(原価、SGA)が110あったら、円安ドル高は営業利益にはマイナスに作用します。

それは過去20年に及ぶ米国への直接投資(M&Aや設備投資)の結果です。円高に負けない収益構造にするためなのか、当時の経営陣の意図はわかりかねますが、とにかくドルが強くなっても利益には何の恩恵もないのが現実です。

じゃあ、工場を国内に戻しましょうって、そんな単純な議論にはなりません。為替関係なく、コロナ禍の影響でサプライチェーンの国内回帰の議論が盛んですが、これはすごく時間とお金がかかる話です。

生産設備の移管という話は年に数件ありますが、当初予定通りに進むことはほとんどないし、稼働が安定するまで初期コストが嵩みます。円安だから工場をアメリカから日本に戻そうなんて、そんな安易なことを考える経営者はいません。

シムシティのゲームだったらボタン一つで工場ぶっ潰して、同じくボタン一つでそこに発電所を作るなんて荒業も余裕でできちゃいます。

が、現実の世界ではそんなことできません。

上海のロックダウンでまた物流が一部停滞しています。原油価格の上昇で国際輸送費は高止まりが続いているし、緊急でAirを使えばさらに輸送費は上がります。それをいかに販売価格に転嫁すべきか企業は苦慮しています。

短期売買はシムシティの世界、長期投資はリアルな街づくり

物を移動させるって大変なんです。お金がかかるんです。

ましてや生産工場の移管なんて、金さえ払えばできるってもんでもないです。旧工場の社員はレイオフするのか。人手不足の中、新工場の社員をどう集めるのか。色んな問題があります。

そんな時代にあって、相変わらずビュンビュンと世界をローコストで飛び回っている奴がいます。

マネー、資本です。マネーはデータ上の操作で移動できるので、物や工場みたいに移動にコストがかかりません。

マネーはまるでシムシティのゲームの世界にいるみたいです。ボタン一つで好きなように動かすことできます。

ネット企業の業績が今一つと思えばそれらの株からあっさり資金を引き揚げます。そして、儲かってそうな中東の株式市場に殺到します。

無責任のようにも見えますが、別にルール違反ではありません。儲かりそうな場所に資本が動くことで社会の資源配分は最適化されるわけで、資本移動の柔軟性は私たちの豊かな社会に不可欠な性質です。

誰でも金さえあれば今日にもアマゾン株を買えますし、やっぱり嫌だと思えば明日には売ってエクソンモービルの株を買うことができます。

株式投資は参入障壁が低いです。誰でも低コストで自由に資本を移すことができますから。

参入障壁が低いと競合が大勢入ってきて儲からなくなるのがビジネスの原則です。それは株式投資も同じです。誰でもクリック一つでアップル株、アマゾン株、トヨタ株、S&P500、TOPIXを買えるわけで、株が簡単には儲からないのは当然と言えます。

でも、参入障壁が高い株式投資法もあります。

それは長期投資です。

1日20回売買を繰り返すのは誰でも簡単にやれますが、20年マーケットに居続けることは簡単には成し遂げることはできません。

株の価値が成長するのを何年も悠長に待ってられない投資家が大半だからです。人生の時間は有限なので、それは何もおかしなことではないですね。

ネットの世界にいると感覚が狂いますが、リアルな世界の成長には時間がかかるものです。シムシティでは数日もあれば人口100万人の大都市ができあがりますが、リアルの世界での街づくりは10年レベルです。

子どもが成人するには18年かかります。

株式は本質的には実物資産です。その成長の果実を得るには最低でも5年、できれば10年、いや20年は欲しいところです。