残余財産分配請求権なる言葉があります。会社法105条で定められています。会社が解散した場合、株主は清算後に残った利益を株数に応じて受け取ることができます。

が、業績低迷で会社をたたむ場合、株主には1円も残らないことが大半です。なぜなら、株主の請求優先度はもっとも低いからです。労働者やサプライヤーなど債権者への支払いを先ずは行う必要があります。すべての支払いを終えて、それでも残ったお金が株主の口座に行きます。

株主に帰属する利益は損益計算書の一番下にある税引後利益です。純利益とも言います。最終利益、ボトムラインなんて呼ばれることもありますね。

サプライヤーへの原材料費、機械設備費、不動産オーナーへの賃借料、従業員への給料・賞与、コンサル会社への報酬手数料、航空会社への旅費、マーケティング会社への広告費、地方・中央政府への税金。売上高からこれらのすべてのコストを差っ引いた残りが株主に帰属する利益です。まさにボトムです。株主はすべてを搾り取られた後の残りカスを分け合います。

私が株式投資って凄いなあって思うことの一つが、これだけすべてのコストを支払った残余利益にもかかわらず、株式(米株の場合)の実質リターンは平均で約7%もあることです。

不動産はきちんとメンテしないと価値が落ちていきます。メンテコストをかけても価値を維持するので精一杯。年々、時価が上がることは期待できません。特に日本市場はそうです。買ったときより高く売れることは稀です。

一方で、株式は何もしなくても、価値を維持できる、どころか上昇していきます。もちろん、株価が下がる銘柄もあるけど全体としては株価は右肩上がりです。歴史が証明しています。

が、「何もしなくても」というのは本当に正しいでしょうか?

そんなことありません。株式=企業ですが、企業はほったらかしだとあっという間に衰退します。厳しい資本主義の競争社会を生き抜くわけですから。ほったらかしでも大丈夫なのはどちらかと言うと不動産の方でしょう。

うちの会社はアフターコロナの経営戦略を練るために、マッキンゼーとアーサー・D・リトルにそれぞれ億単位の報酬を払っています。どれくらい効果があるのかわかりませんが、それくらいしないとマズイという経営陣の危機感があるからでしょう。変化の早い時代と常々言われてきましたが、その変化がさらに早くなってますからね。

企業は社員を研修し、また人事異動で様々な経験を積ませ、将来の経営を担える人材になれるように育てようとします。快適な仕事環境を作るためにオフィスや備品、ITシステムを準備します。それらすべてに莫大なコストが掛かっています。正社員一人を雇うのに年収の2倍以上かかっていると言われます。

投資家としては何もせずにただ株を持っているだけで(長期的には)株価が上がってウハウハなわけですが、企業自身は常に「自己投資」にお金をかけています。

そういう諸々のコストを払った上で残ったお金が、私たち株主に帰属する利益です。株式のメンテコストはすでに差し引かれています。

一方で、不動産は違います。家賃収入を元手にアパートの改修工事、修理対応、管理会社への委託を行う必要があります。家賃収入は「残りカス」とは言えません。そこから色々と搾り取られます。

投資額と家賃の利回りは表面利回りと呼ばれます。そこから維持・管理コストを差し引いた収益率を実質利回りと言います。

株式の利回りと比べるなら、表面利回りではなく実質利回りにすべきです。いや、それでも甘いかも。株式の利回りは企業を成長させる投資コストも差し引かれたものですが、不動産投資の実質利回りは維持管理費だけが控除されているだけで、追加の投資コストまでは織り込まれていませんから。

株式の実質利回りの過去平均は約7%。インフレ率が2%なら名目9%。企業を存続させ、また将来に向けた投資まで行った後の残余利益でこれだけの利回りがあるのです。これはめちゃくちゃ凄いことだと思います。この株式の利回りと伍するためには、不動産の利回りは実質利回りで最低でも10%は欲しいところです。でないと割に合わないです。

たまに新聞などで不動産投資の広告を見ると、現実では表面利回りで7%とか普通ですよね。それなら、どう考えても株式を買った方がお得だと思います。

あ、なんか株式投資と不動産投資の比較記事みたいになっちゃいました。別にそういう主旨ではなかったですが。言いたかったことは、私たちがいつも決算で見ているEPS(一株当たり利益)って、ホントすべてのコストが差し引かれた後の利益ってことです。

だからこそ、株主はほったらかしでいいんです。企業内部では経営陣、従業員が大忙しなわけです。あなたもサラリーパーソンとして働いているのでよくわかると思いますが。

S&P500指数のPERは30倍くらいあってもおかしくない。益回り3%ちょい。その程度でも文句は言えまい。だって、企業を維持・発展させるコストもすべて払ったあとの残余利益ですよ。実際は米株の平均PERは10倍台です。最近はもっと高いけど。

株式投資って凄いと思う。改めてそう思います。ポジショントーク、、確かにそうなんだけど、冷静に客観的にあらゆる投資対象を比較しても株式の優位性って際立ってると思うんですよね。