米国企業の株主還元は成長企業と成熟企業とでメリハリがあります。

成長企業は無配で自社株買いもほとんどしない、とにかく成長に資金を投じる。惜しみなく金をかけて、他社の追随を許さない深いエコノミックモートを作ろうとします

そして一度堀を築いてしまえば、後は豊富になる果実を好きなだけ味わうのです。

今のアマゾンがその成長フェーズの典型例です。

現在、アマゾンはインドの電子商取引市場でトップに立つため莫大な金を投じています。ジェフ・ベゾス氏は言っています、「コストは気にせず成功するためにあらゆる手を尽くせ!」と。アマゾンは現在インドのEC市場で2位まで上り詰めています。

強い競争優位を築いたらようやく配当や自社株買いを始めるのですが、その規模は半端ではないです。少しずつ有配にしていくというよりは、180度方向転換するイメージです。

今まで無配だった企業が、急に総還元性向100%オーバーになったりします。

それは成熟企業の証です。成長ステージが終わり、還元ステージに入りますよっていう経営陣からマーケットへのメッセージです。

かつてのマイクロソフトや、数年前のアップルがいい例です。

  低金利→借入金→自社株買い

借金して自社株買いするファイナンス的意味

2008年のリセッション以降、世界の中央銀行は緩和的な金融政策を続けてきました。

米国もようやく利上げをし始めるところまで来ていますが、まだFF金利誘導目標は僅か0.25~0.5%であり緩和的な水準と言えるでしょう。(2016年11月現在)

12月のFRB利上げは確実視されていますが、仮に利上げが実施されても政策金利は1.0%未満です。

2008年10月頃まで米国10年国債利回りは4.0%ほどありましたが、2012年には1%ほどまで下落しました。最近になって国債利回りは上昇してきましたが、それでも2.3%ほどです。

この低金利を利用して、米国の大企業は借入金を増やして自社株買いをすることが珍しくありませんでした。

借金をして自社株を買う、なぜか?

金利が安いから。うん、それは間違いない、でももう少し深く考えてみましょう。

ファイナンス的に論じると、どうなるでしょうか?

それは最適資本構成の調整だと言えます。

負債コストが安いんだから、デットを増やして(借金をして)エクイティを減らす(自社株を買う)。

資金繰りに危険が迫るまで借金をして自社株買いをするなんて、そんなアホな資本政策は当然しません。優秀なCEO、CFOが自社にとって最適だろうと判断した自己資本比率になるまで借入金を増やして自社株買いをするということです。

銀行から金を借りて自社株を買うという企業行動を不思議に思う人もいるようですが、これは株主価値向上に寄与する賢明な資本政策です。

この「借金+自社株買い」をしているイメージがある企業はマイクロソフトですね。

以下はマイクロソフトのキャッシュフロー計算書から取得した借入金と自社株買いの推移です。

 (百万USD) FY12 FY13 FY14 FY15
借入金 4,883 10,350 10,680 13,884
自社株買い -5,360 -7,316 -14,443 -15,969

銀行から金を借りて自社株買いをしている様子がよく理解できますね。

これに伴ってマイクロソフトの自己資本比率は50%強から40%弱まで低下しました。これは業績が悪くて自己資本比率が下がっているわけではなく、最適資本構成にして資本コスト(WACC)を下げるために意図的に行っているだけです。

自己資本比率低下=財政状態悪化と否定的に思ってはいけません。

借金して自社株買いをすることの株主から見た意義

借金をして自社株買いをするファイナンス的意義は資本コストの低下でしたね。

では、この経済行為を株主から見るとどういうことでしょうか?

会社は経済的には株主のものです。マイクロソフト社の所有権はマイクロソフト株主にあります。

そのマイクロソフトが銀行からお金を借りて、借りたお金を株主に返還する(自社株買いする)とは、つまりどういうことでしょうか?

それは詰まる所、株主自身が銀行から借金をしているということです。

しかも、この借金のいいところは株主個人の信用リスクではなく企業の高い信用リスクで(低い金利)で調達できていることです。

2010年以前から、米国の優良企業の株を保有している方は多くいらっしゃると思います。

非常に低金利な環境が続いており、「住宅ローン借りるなら今だ!」みたいな不動産業者や金融機関の営業文句もよく聞きましたね。

あなたも思いませんでしたか?
せっかくの低金利環境なんだから、この間に低コストでお金を借りておきたいなって。

でも、いくら低金利環境と言っても住宅ローンでも組まない限り銀行は信用力の薄い個人に低利で資金を貸してくれることはありません。

でもね、米国優良企業の株をホールドしている人は知らず知らずの内にこの超低金利環境を利用して、銀行からお金を借りることができているのですよ!

そのお金はバンク・オブ・アメリカからあなたの預金口座に振り込まれるわけではありませんが、あなたのマイクロソフト株の株価が上昇することで、間接的に振り込まれているのです。

2010年から米国ブルーチップを保有している人は当時より豊かになっているはずですが、それは企業が収益を上げたからという理由もありますが、この低金利環境でこっそり借金できたからという秘密もあるのです。

  持てる者は益々豊かになる

日本の成人で無貯蓄の人が30%とか、統計によっては50%にも上ると言われます。

日本では格差は比較的小さいと思いますが、それでも経済のグローバル界とローカル界の差は広がるばかりです。持てる者と持たざる者の差は広がる一方です。

このブログをご覧になっている方は、米国株(ETF等含む)を保有している方が多いことでしょう。

米国優良企業の株を保有している人なんていうのは、完全に”持てる者”に属するほうです。嫌味な言い方をすれば経済的勝ち組の方です。

株式とは価値増価証券であり、それが優良企業の株であれば持っているだけで豊かになることができます。株主利益の意識高い米国企業の株であればなおさらです。

でもそれはいいことです。株式を保有して豊かになるとは別にズルいこと、フリーランチを食べているわけではなく事業リスクを取り続けたご褒美なのです。

あなたがマイクロソフト株を保有し続けることは、マイクロソフト社の事業リスクを背負い続けるということであり、マイクロソフト社に万が一のことがあれば株券がパーになるリスクを背負い続けることを意味します。

でも、マイクロソフト社がOfficeソフトやクラウド事業などのビジネスで社会に貢献して利益を得ることができれば、その利益はあなたに属します。そうやって、社会に貢献する利益率の高い事業を持つ企業の株を保有し続ければ株主は勝手に豊かになっていきます。

そして、その豊かさの源泉は実は企業利益だけではないんですね。

上で述べた通り、あなたはマイクロソフト社の高い信用力(S&P格付AAA)を利用して借金までできるんですよ。

それがどれだけ凄いことか理解して欲しいです。

マイクロソフト社の3年社債の表面利回りは0.87%とかでしたよ。

いやいやホントに社債なの、国債かよ!!って感じですね(笑)。

マイクロソフト株を持っているそこのあなた(当然S&P500ETFにもマイクロソフト株も含まれていますよ)、金利0.8%で無担保借入できますか?
無理でしょ。

でもね、マイクロソフト株を持っているだけ実はそれができているのですよ。

だって、マイクロソフトはその借入金で自社株買い(=株主への資金還元)をしているのですから。

そうやって、優良株を持っている人は低金利の恩恵までフルにエンジョイして益々豊かになっていくのでした。