株主であるあなたは、自社株買いを大いに喜ぶべきです。割高なタイミングでない限り、自社株買いは既存株主にとって経済的にお得な取引です。
なぜ自社株買いで株価が上がるのでしょうか?
それは先日の記事でご説明しましたが、将来の一株当たり配当金(DPS)が増加するからです。
(今回はここからさらに突っ込みます、ちょっとマニアックかも。。)
一株当たり利益(EPS)が上昇するって説明もちょっと弱くて、正確には一株当たり配当(DPS)が上昇することで株価が上昇します。金融商品の価値とは将来キャッシュフローの現在価値です。株式にとっての将来キャッシュフローとは配当です。利益ではありません。利益は配当できちんと還元されないと資本家全体としては利益を確定できません。(個々の株主を見れば途中売却で利益を確定できるが。)
株価=予想一株当たり配当金(DPS) / 金利(割引率)
自社株買いをすることで、分子の予想DPSが上昇するから株価が上がるんでしたよね。
なぜ、予想DPSが増加するかというと、自社株買いをすることで発行済み株式数が減少するからだと言いました。今までずっとそう言ってきました。
DPS=配当金総額 / 発行済み株式数
分母の発行済み株式数が減少するからDPSが増加するんだって説明してきました。
なんですが、、実はこれ正確ではありません。
自社株買いをしたら本当に発行済み株式数は減少するのでしょうか?
答えはNOです。
自社株買いをしても発行済み株式数自体は変わりません。
ある投資家が保有していた株式を企業自身が持つようになって、その所有権が変わるだけです。
今までコカ・コーラ社の株式を持っていた人がAさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんと5人いたとします。コカ・コーラ社が自社株買いをしてDさんとEさんがそれに応じて株を売却したとします。
そしたら、コカ・コーラ株の持ち主は、Aさん、Bさん、Cさんの3人に減少する?
いやいや、、コカ・コーラ社自身が自分で株を保有していますよね。
コカ・コーラ社はDさんとEさんから買い取ったコカ・コーラ株を保有しています。
自社株買いをしても、実は発行済み株式数って減少しないです。最終的に「自己株の消却」をしないと発行済み株式数は減りません。
自社株買いをしても発行済み株式数は減少しない、
じゃあ結局DPSは増加しないんじゃないの?
え、じゃあ株価はなぜ上がるの?
という疑問が出てきます。
大丈夫なんです。
自社株買いをすると、発行済み株式数は実質的に減少するからです。
「実質的に」ってどういう意味か?
それは、企業は自分自身に配当を払うことができないということです。
さっきのコカ・コーラ社の例で言うと、コカ・コーラ社はDさんとEさんから自社株を買い取ったわけです。ってことは、コカ・コーラ社が自分自身に配当を支払うってこともできそうではありますよね。
だって、、一応株式を持っているわけですから。
でも、感覚的におわかりだと思いますが、それはできません。自社株に対して配当金を支払うことは法律で禁止されています。
それが、会社法第453条です。会社法って昔の商法です。会社の設立とか組織について規定している法律です。
株式会社は、その株主(当該株式会社を除く。)に対し、剰余金の配当をすることができる。
会社法第453条
カッコ内に注目です。
株式会社はその株主に配当をすることができるけど、、「当該株式会社を除く」とありますね。
これはどういう意味でしょうか?
株主が当該株式会社の場合ってどういう時でしょう?
そう、自社株買いをした場合ですね。
会社法は企業が自社株買いをすることを想定して、それに配当を出すことを禁止しています。なぜかと言えば、自分で自分に配当を払うって矛盾しているよねという単純な理由です。
もし仮に自社株に対して配当できると仮定すれば、自社株買いをしても既存株主への配当金は増えないことになります。つまり、自社株買いをしても株価は上がらないでしょう。
自社株買いをすることで、株を売った既存株主の株式の所有権は企業自身に移る。発行済み株式数自体は変化しない。でも、企業は自分自身に配当を払うことはできない。だから、結局既存株主の一株当たり配当金は増加することになる。という理屈です。
自社株買いで株価が上昇する背景には、会社法のサポートがあります。まあ、この条文がなくても企業が自社株に配当を払うとは思えませんが、きちんと法律で保証されていると投資家として安心感は持てます。
これは日本の会社法の話ですが、アメリカの会社法(連邦法と州法があるのかな?)も同じように規定されていると思います。
P.S.(むしろこっちが本題か!?)
重箱の隅を突っつくような細かい記事で恐縮です。
なぜ、こんな記事を書いたかというとそれは会社法453条の存在を知って欲しかったから、、ではありません。あんなのどうでもいいです(笑)。忙しい社会人のあなたが覚える意味はない。
自社株買いってのは配当とはちょっと異なる性質があるものの、立派な株主還元だということを是非知って頂きたいと思い、自社株買いに絡めて半ば強引に記事を書きました。
シーゲル教授は、長期投資で市場平均を超えるリターンを達成したいなら、株主還元に積極的な高配当な株を積極的に買うべきだと言っておられました。(単に配当利回りが高い株を買えばいいという単純なものではないですが。)
私は、恥ずかしながら昔は無配こそ正義だと思っていました。企業に利益を留保すればするほどインカムゲインではなくキャピタルゲインとして株主利益が繰り延べられて、税金がお得になるじゃんって思っていました。
でも、それは大きな間違いでした。
過大な内部留保を持ち過ぎると、いくら米国の優秀なCEO・CFOとはいえ色々と必要のない無駄なことにお金を使ってしまいます。CEOとて感情ある人間ですから仕方ないです。
だから、過大な内部留保なんて持たずに、株主に配当課税が発生してもいいから余った金はドンドン株主に返還すべきなんですね。これはなんかとても納得でした。そうだよな~、確かに会社内にお金をたくさん貯めても、それが株主の為に使われないと意味ないよなって、そんな当たり前のことに気づかされました。
そんな感じで自分の投資脳のパラダイムシフトを起こされて、2016年からVTなど時価総額型のインデックス投資から撤退して、高配当な米国株に集中投資するようになりました。
で、このブログがきっかけでもあるのですが、主要米国株の銘柄分析をエクセルでやっていました。
で、、無知な私はそこでめっちゃ驚いたんです!
うぇーー、米国企業ってこんなに自社株買いしまくるんだ!!って。
知らなかったです。
平気で配当総額の2倍とか3倍の自社株買いを行っていますよ。
例えば、2012年~2014年のIBM。2014年~2016年のアップル。2016年のマクドナルド。2013年~2015年のスリーエム。などなど、枚挙にいとまがありません。
インデックス投資をしていた頃も時価総額が大きい米国企業には必然的に結構な金額を投資していたのですが、米国株への集中投資に切り替えてから初めて知りました。
「そうか~、米国の企業ってこうやって株主還元をするんだ~」って思いました。
まあ私は自社株買いも広い意味の増配だと思っているのですが、やっぱり普通の増配とは違いますよね。ただ、諸々の理由があって米国企業は自社株買いをガンガンすることで株主還元をやっているんですね。
米国株長期投資で市場平均を超えるリターンの達成を目指す上で、「自社株買い」って一つにキーワードなんじゃないかなって思ったんです。今でも思っています。
だから、今までも結構な数の記事で自社株買いに言及しています。これからも言い続けると思います、自社株買い、自社株買い、自社株買いって。「こいつ、何度同じこと言うんやキモいな!」って思われるくらい言い続けると思います(笑)。
配当って単なる株主へのキャッシュの支払いだからわかりやすいですよね。
でも、自社株買いって今一何やっているかピンと来ないところがありませんか?
なんでこれで既存株主への利益になるのか、腑に落ちないって思ったことありませんか?
是非この点を頭スッキリさせて、これから長く長く続く米国株長期投資を忍耐強く続けてほしいなって思います。別に自社株買いの知識有無で投資リターンが上がるとは思わないんですが、やっぱりきちんと理解したほうがニュースも理解できるし、自分の中で納得感持って投資を続けれると思うんです。特に個別株に投資されている方は。
と、こんな偉そうなこと言っておりますが、私も多分すべてを完全には理解できていません。間違ったこと言っていることもあるかもしれません(その時は、コメントで指摘頂けると勉強になるので嬉しいです)。
ですが、一応今までそれなりに会計の勉強をしてきて、かつ経理部で自社株買いの実務に携わったことのある者として、少しは自社株買いの理論について理解しているつもりです(そんな自信満々なわけではないですが)。
自社株買いについて、少なくとも今現在自分の頭にあることはすべてブログに吐き出して、ブログを読んで下さっているあなたに共有したいという強い思いがあります。なぜなら、米国株での長期投資を志向している私たちの株主リターンの大半は自社株買いによってもたらされる可能性があるからです。もちろん、自社株買いをするための原資はビジネスによって生まれることは言うまでもないですが。
ってことで、これからも自社株買いについてはしつこいくらい言及すると思いますがお付き合い頂けると嬉しく思います。
PPS
自社株買いが株主リターンに有益ってことは、その反対は最低だということです。
自社株買いの反対とは、新株発行です。増資です。
ホントに安易に増資するのは正真正銘クソ企業だと思います。私は増資は倒産の淵に立たされている場合とか、アーリーステージの成長企業が将来の成長資金を確保するためくらいしか、してはならぬと思っているくらいです。新株発行が不要なステージまで来てから有配にして欲しいです。
減配したら株を売れっていう人がいます。確かに減配もよくないですが、新株発行の方がダメだと思います。新株発行したら株を売れって言ってもいいかも。
まあ米国の優良企業が新株を発行するなんてあり得ないとは思いますけど。
自社株買いについて以前から疑問に思っていることがあります。
それは、「自社株を買い尽くした会社は誰の所有物になるのか?」というものです。
Hiroさんはどう思われますか?
ありうるケースとして私が思うのは・・・
①法規制等により、自社株買いつくしはそもそも無理
(会社法はあまり詳しくないので、これから勉強します)
②税引後純利益を誰も引き出せなくなり、
内部留保が永遠にたまり続ける
&普通の意味での株主がいないので、
ガバナンスが効かなくなる
(誰の所有物でもない怪物法人の誕生)
③税引後純利益が、従業員に還元される
(協同組合化?)
もしもの話なので、実際には起きないと思いますが・・・。
現実的には自社株をすべて買い上げることは不可能に思います。
仮に一人株主になれば、マーケットに流通している株はゼロなので。
一人株主(つまり100%支配)の意思決定で自社株買いをしようと思っても、自分以外に株主がいないです。
それを承知で法人に自分の保有株買いを買い取らせるとしたら、、うーんなんか難しくてわからないですね。
結局、法人か個人かの問題に帰着するような気もします。
株式すべて買い取りは極論として、自社株買いで株数を減らし続けると会社の所有構造はどうなるのかという問題は興味深いです。
成熟優良企業はほぼ増資はしないので、非現実的な話ではないです。
結局、自社株買いを続けたら少数の永久保有投資家が結果として会社を支配することになります。
コカコーラ社の発行済み株式の約10%がバークシャー保有分ですが、これは過去の自社株買いも大いに貢献しているはずです。
相続も含めて数百年と優良株を保有し続けた家系は気が付けば、帝国企業の実質オーナーになっている可能性もありそうです。
自社株を誰かに割り当てたり売り出したりとかするときにも増資と同じような手続きが必要らしいので、自社株の消却には経済的な意味がほとんど無い(気分の問題?)という理解で良いでしょうか?
自社株を買収の対価にする場合も、自社株を消却する時も厳格な手続きが必要です。
取締役会、場合によっては株主総会決議まで必要です。
>自社株の消却には経済的な意味がほとんど無い
そこは難しいですね。
消却すると、二度と市場に流通しない(つまり利益の希薄化が起きない)という安心感が生まれます。
それは株価を押し上げるだろうなって思います。でもどれくらい影響あるのか定量的に測るのは難しそうです。