米企業の国内経済への投資が不足しているのは、目先のことしか見ていない企業幹部が、自社株買いをするからだ!、自社株買いばかりするのは悪いこと!、もっと米国経済へ投資すべきだ!
この意見を聞いてどう思いますか?
ウォールストリートジャーナルによると、
バフェット氏はNO(=自社株買いを推奨)
フィント氏(ブラックロックCEO)はYES(=事業投資を推奨)
さて、このお偉いさんの議論に素人のHiroも勝手に参加します。
私はNO、バフェット氏に1票を投じます。
そもそも株式会社というものは、出資する経済的余裕のある人がお金を持ち寄ってビジネスしましょう、お金儲けしましょうといって作った組織です。
お金を奪うのはただの海賊、盗賊です。もちろん、そんな悪いことをするのではなくビジネスをしてお金を稼ごうという人たちの集まりが株式会社です。
ビジネスでお金を稼ぐということは、自分以外の第3者の生活を向上させる商品やサービスの提供を行ってその対価を得ることです。だから株式会社が収益を上げるためには必然的に社会貢献活動を行うことになります。
その活動とは、世界の子どもたちに美味しいジュースやお菓子を提供したり、世界中で通信サービスを提供したり、世界の病院に高性能な医療機器を提供したりなど、様々です。
特に医療などは顕著ですが、収益性どうこうは関係なく社会的に事業を継続せざるを得ない場合があります。患者さんの人数が少なくて大赤字な事業なので終息したいけど、たった一人でも病で苦しんでいる患者さんがいるなら事業は継続せざるを得ない、とかは実際にあります。
確かに、現代の大企業の高度なビジネスは極めて社会性が高く、それなくしては人々の生活が成り立たない場合が多くあります。
グーグルが検索エンジン事業を廃止したらみんな困るでしょう(まあ別の会社がその事業を買収するでしょうけど)。
マイクロソフトのOfficeソフトは世界のビジネスマンの仕事に必須のツールで、これがないと世界の仕事の生産性は大幅に低下してしまうでしょう。
前述の医療に関して言えば、日常生活や仕事どころか人の命にさえ関わります。
そう、株式会社が提供しているビジネスには確かに社会性があります。
私企業ではあるけど、公的企業が提供している電力・ガス・水道に匹敵するほど社会性のあるビジネスを営んでいる企業はたくさんあります。
それは認めます。特に大企業のビジネスには高い社会性があることは認めます。
認めるんですが、株式会社のビジネスの拡大縮小の判断は、株主の意思を超えるものになってはならないと思います。語弊を恐れずに言いますが、ビジネスの社会性よりも株主の金儲けが優先だと私は考えています。
公共性よりも金儲けを優先すると聞くと悪い印象を持ってしまうかもしれません。
特に日本人はお金そのものやお金を稼ぐことを汚いこと、悪いことと感じてしまう風潮があるように思います。
それは間違いです。お金をたくさん稼ぐとはそれだけ多くの価値を社会に提供できた証です。お金とは社会からの「ありがとう」です。
社会性より金儲け優先とは、決して自分さえ良ければいいというエゴではありません。
株主は最後の最後に残った利益を頂けるだけです。
きちんと株主利益(会計的に言えば税引後当期純利益)を確保するためには、適切なコストで社会に価値貢献して、従業員やサプライヤーなどすべてのステークホルダーに報いる必要があります。
確かに、株主利益を犠牲にしてでも設備投資や研究開発投資を続けると、それが最終的には社会に利益をもたらすことはあります。株主利益の犠牲のもとに社会に技術革新が早く浸透することはあります。
私はITバブルの時がそれが起こったと考えています。
結果としてそれが起こることは仕方ないと思います。投資家の判断ミスですから。投資は自己責任なのでそれは仕方ない。
でもね~、株主利益を無視した設備投資を政府やメディアが企業に強制するのは間違っていると思います。間違っているというか、「余計なお世話だ!」って思います。
株主も個人も、基本的に自身の利益の最大化を考えて行動すればいいんだと思うんですね。そうやって社会のすべての構成員が自己利益を追求することで社会全体の利益も増えていって、より多くの人が幸せに過ごせるようになると思うんです。
ただし、あまりに自己利益の追求が暴走すると不利益が生まれます。
日本もかつては企業の成長を優先するあまり公害問題で国民の健康を犠牲にしてしまった苦い過去があります。古くは足尾銅山鉱毒事件があり、1960年代には水俣病やイタイイタイ病、四日市ぜんそくなど全国規模で公害問題が広がりました。
今の中国の大気汚染もそうです。
また、所得の再配分もある程度は行わないと、一部の富裕層に富が偏り過ぎるという問題があります。
ビジネスで成功した人はそれだけ社会に価値貢献しているので、お金持ちになる権利があります。美味しいお酒を飲みながら美女をはべらせてクルーザーで旅行するだけの社会貢献をしているわけです。
ただあまりに政府が所得の再配分を行わないと、最低限の生活すらできない貧困層が増えて社会が不安定になります。多少はお金持ちから恵んでもらって、みんなで協力して頑張ろうという発想も必要だと思います。そこはバランスです。ビジネスで成功したい!と思わせる金銭的インセンティブを優秀な起業家に与えつつ、国民全体の福祉も支える必要があります。
各人が自己利益を追求すべきとは言え、一定の歯止めは必要です。
必要なんですが、こういう歯止めは法律で対応すればいいことです。
きちんと議会を通過させて法律で規制すればいいんです。
ドット・フランク法やSOX法など企業が規制に従うコストがあまりに高すぎるなど問題も生じています。議員や学者も神様ではなく人間ですし、様々な利害関係があるし、完璧な法律なんて作れません。でもそこはトライアンドエラーで改善していくしかないと思います。
法律という一定の規制を作りそれを守りさせすれば、後は各企業個人が自己利益の最大化を目指せばいいんだと思います。
そこを精神論で「株主としての自分の利益は無視して、社会のためにもっと設備投資しろ!」と言うのは野暮です。
人間って自分にとって得だと思わないと行動しないものです。
なぜ嫌でも会社の上司の指示に従って仕事をしているのでしょうか?
それは、上司に従うのは就業規則で決められていることだし、何より上司はあなたの給与や賞与を査定する立場にいるからです。上司に従うことはあなたにとってメリットがあるからそうしているまでですよね。あなたが今の会社を辞めたら、もう当時の上司にどうこう指示されても無視するはずです。それは、もはやその上司に従うことのメリットが無くなってしまったからです。
他部署に仕事の協力をお願いしても簡単には良い返事を貰えないのは、その仕事に協力しても他部署にはメリットがないからです。
女の子が男に食事に誘われて断るのは、その男と一緒に食事をしても自分になんのメリットもないと判断しているからです。
企業に向かって「自社株買いをするな、もっと投資しろ!」なんていうことを政府やメディアが命令するのは筋違いです。
企業は株主にとって得だと思う資本政策を淡々と続ければいいだけです。株式会社の経営者は株主資本の管理者として、真摯に株主利益を追求すべきだと思います。
リスクが高く収益性の低い投資案件しかないのであれば、自社株買いをして株主に資金を還元するのは当然です。
ってことで私はバフェットに1票
ブラックロックCEOフィンク氏は自社株買いではなく事業投資にお金を回すことが、究極的に株主利益に貢献するはずという意図を持っているのは理解しています。
ただ歴史を振り返れば、過剰な事業投資は株主利益に貢献することは少なく、地味な事業をコツコツ続けてガンガン株主還元を行ってきた企業の株主リターンが高いのです。
設備投資の拡大による大きな損失、無残な結果のM&Aなどは、株主が自社株買いや配当することができた資金を間接的に失っているということですよね。
内部留保の貯めすぎはこういった投資失敗のリスクを高めることにもなりますね。
だったら株主に還元してくれですね。
というわけで私もバフェットに1票です。
もちろん設備投資やM&Aをすべて否定するわけでは当然ありません。
株主としてはそこは経営陣を信じて任せるしかありませんね。
ただ、やはりノーリスクで株主還元できるお金を多額に投じる価値があるのかはよく検討して欲しいところです。
「社会のため」「世の中のため」「顧客のため」「政府の要求」という言葉に惑わされず、「株主のため」を真摯に考えて欲しいと思います。
ただ未来は常に不確実ですから、投資の評価をコンサバに見過ぎると常に株主還元が正解となってしまう面もあると思います。
そこは難しい判断です。
ですが、長期投資の対象とはそれくらい保守的な企業が丁度いいと思います。