株式会社は常にマーケットで投資家に時価評価される存在。一時点の情報に過ぎないバランスシートが投資家の情報ニーズに応えるのは難しい・・

企業は法律で求められているので、毎四半期BS(バランスシート)を作成して投資家に報告しています。損益計算書の利益だけじゃなく、バランスシートも大切な情報に違いありません。ですが、現代の株式会社のバランスシートはもはや企業の経済的実態を表しているとは言い難いです。

企業のBS上の純資産価値と、実際の時価総額には圧倒的な乖離があります。特に米国企業で顕著です。たとえば、米国コカ・コーラ社(KO)を見てみましょう。直近決算である2017年9月末のKOの純資産金額は$22,119Mです(M=Million=百万)。日本円で約2.4兆円です。
純資産とは帳簿上の企業価値です。帳簿上の資産総額から負債総額を差し引いた金額が純資産です。

一方でKOの直近の株式時価総額は$194,243Mもあります。日本円で約21兆円です。

ものすっごく差がありますよね?

帳簿上の(純資産)価値は2.4兆円なのに対して、株式マーケットでの評価額(=株式時価総額)は21兆円もあります。その差は約9倍です。この倍率のことを専門用語でPBR(株価純資産倍率)と呼びます。コカ・コーラ社のPBRは9倍もありますが、これはコカ・コーラ株が帳簿上の純資産価値の9倍で取引されていることを意味します。

なんで、コカ・コーラ社の純資産価値と実際のマーケットプライスには9倍もの格差があるのでしょうか?

それは、コカ・コーラ社が持つ高いブランド力、マーケティング力などの無形資産価値が同社のBSに反映されていないからです。正確に言えば、会計基準的に反映してはいけないからです。「うちの会社のブランド力には10兆円の価値があるから、それをBSに資産計上します」と主張しても、それは認められません。そういう価値根拠が曖昧なものは財務諸表に計上することが禁止されています。

でもコカ・コーラ社に高いブランド力があって、それが将来の高い収益を生むことは確実です。少なくとも、マーケットはそう判断しています。だからこそ、コカ・コーラ社のバランスシート上の純資産価値は2.4兆円しかないのに、同社を21兆円の価値があるとマーケットは判断しています。

こんな状態です。ここまでバランスシート価値(帳簿上の純資産価値)と実際の株式時価には乖離があるのです。そんな中、KOのバランスシートは一体全体何を表しているのでしょうか? KOのバランスシートに存在意義はあるのでしょうか?

いや、もちろんKOのバランスシートには存在意義はありますよ。バランスシートがあるからこそ、今現在現預金がいくらあるのか、売掛金がいくらあるのか、銀行からの借金がいくらあるのか、といった情報を読み取ることができます。バランスシートが提供してくれる情報に価値があることは疑いようがありません。

ですが、バランスシート上の純資産の大きさ内容から企業の経済価値を読み解くことはもはや不可能です。目前の資金繰りやレバレッジ比率を把握することはできますが、その企業への投資価値を判断することは不可能です。

時間が経つにつれてバランスシートはより一層、実際の企業価値を反映しなくなります。なぜなら、時間が経てば経つほどブランド価値や従業員への教育、風通しの良い企業風土の醸成などの目に見えない無形資産が増えていくからです。企業内にはドンドン無形価値が増えてそれに伴って株価は上昇していくけど、そのような無形資産価値は現代の会計基準ではバランスシートに計上できないケースが大半です。

バランスシートは大切な情報ですが、PBRが9倍にも拡大しているコカ・コーラ社のバランスシートから、同社の真の実力を読み取るのは不可能です。

そもそもマーケットの時価評価額なんてものが存在するから、バランスシートの純資産価値と株式時価総額との乖離なる問題も出てくるわけです。でも、それは仕方ありません。投資家は常に将来キャッシュフローを割り引いた時価を気にしています。簿価なんてそんなに興味ありません。

投資家の関心が将来の利益である以上、期末時点の財産目録であるバランスシートに高い情報提供能力を求めるのは無理難題です。バランスシート自体そのものの存在意義というよりは、もっとも財務諸表に関心のある我々投資家、株主のニーズにバランスシートが適していないと言った方が正確でしょうか。投資家が企業のバランスシートだけを見ても、そこから得られる情報には限界があります。

 

家計はマーケットで時価評価されるわけじゃない。家計のバランスシートは「購買力」を示すことができればOK。家計ではバランスシートはとても優秀。

一方で、家計のバランスシートはその存在意義が企業とは全く異なります。家計は企業みたくマーケットで時価評価されるわけじゃありません。家計は株式みたいに将来CFの割引現在価値で時価評価する必要はありません。

個人のバランスシートはその家計の購買力を示せば十分です。購買力を示すためには、今ある資産と負債を淡々と並べることが重要です。ブランド力に基づく将来の収益力とかを無理に織り込んでしまったら、むしろ実際の購買力を示せなくなります。

私の9月末のバランスシートです。
このバランスシートの純資産18,922,937円は、私Hiroの購買力をほぼ正確に示しています。実際に、これだけの買い物をする能力があると言えます。

投資家が企業の財務諸表を見る時、そこから「将来」を読み解こうとします。PLやBS、キャッシュフローを見てその企業の将来性を探ります。一方で、個人が家計の財務諸表(家計簿など)を見る時、そこから将来予測する人なんてほとんどいません。

家計管理で大事なのは「今」の財産状態を正確に把握することです。企業と家計とでは財務諸表の作成目的が違います。家計は「今」の情報をどれだけ正確に把握できるかに焦点を当てるケースが大半です。だからこそ、家計ではバランスシートが活躍するんです。なぜなら、バランスシートとは今時点の財産(と負債)の状況を一覧にした表だからです。「今」にフォーカスしたのがバランスシートです。家計ではバランスシートはとても優秀なんです。たくさんの上場企業がバランスシートを作成して開示していますが、もっと多くの個人や家庭にバランスシートが普及すればいいのになって思ってます。

なんかね~、現代の企業のバランスシートってそれ単独では存在意義がかなり曖昧になっています。でも、それは仕方ないんです。ビジネス環境の大きく変化する中で会計基準は難解になっていき、会計利益の計算方法も複雑になってきました。利益計算が複雑化するとどうしてもBSに”ゴミ”が溜まりがちです。現代企業のバランスシートは物置倉庫みたいになっています。色んなものがごちゃごちゃ置いてあるだけで、その倉庫の利用目的はあまりない。とりあえず、物が溢れて困るからバランスシートに置いておきます、、、みたいな。

要は目的の曖昧さでしょうか。企業のバランスシートの存在目的は漠然としていてよくわからない状態です。一方で、家計のバランスシートの存在意義は明確で、それは家計の購買力を示すことです。少なくとも、私はこの目的に沿って自分のバランスシートを作成しています。

家計のバランスシートには購買力を示すという明確な目的があるから作成方針も明確になります。目標、ゴールがあってこその手段ですよね。「現時点の購買力を示す」ことが目的なのだから、変に将来利益や自分のブランド価値(そんなものないけど)なんてバランスシートに反映させないです。今実際にある資産と負債を淡々と並べるだけ。そして、資産と負債の差額としての純資産を素直に計算します。

自分にはどれだけ経済的な購買力があるのかということを視覚化するには、バランスシートを作成するのが一番手っ取り早いです。作成方法は簡単です。仕訳とか不要です。あなたが持っている資産をなるべく網羅的に表の左側に列挙して下さい。あなたが抱えている負債をなるべく網羅的に表の右上に列挙して下さい。それで終了です。資産と負債の差額が右下の純資産であり、それが今のあなたの購買力を示しています。

 

P.S.

このブログを始めたきかっけは、自分が株式投資について考えていることを社会に問いかけてみたいと思ったからです。もう一つブログで伝えたいと思っていたことがあります。それは会計的な物事の考え方、視点です。会計ってカネカネして冷たい無感情な印象を持たれがちです。まあそれは事実な面もありますが、会計的な視点、バランスシート観を持つことで、経済的な豊かさを追求しやすくなると思います。経済的な豊かさを得ることは幸せな人生の礎になります。経済的な豊かさ=幸福な人生とは思いませんが、必要条件にはなるだろうと思います。