ケインズは株式投資は美人投票だと言いました。自分が美人だと思う女性に投票するんじゃなくって、皆が美人だと思う平均的美人に投票すべきだと。

皆が投資するからその銘柄の株価が上がる。株価が上がれば、投資家は利益を得ることができるという理屈です。一見正しそうな説明ですが、こと長期投資に限って言えばケインズの美人投票理論は誤りです。長期投資の結果は株価がどれだけ上がるかではなく、投資した企業のビジネスがどれだけ社会に価値を生んで利益を稼ぐかに依存します(稼ぐ企業の株価は結果として上昇しますが)。

ただ、株式の中でも「資産株」についてはケインズの美人投票的な発想が求められます

まず、「資産株」とは何でしょうか?

「資産株」とは長期保有に適した優良株という意味合いがありますが、この記事ではそういう意味では使っていません。ピーターリンチが言う「資産株」の意味で使っています。

ピーターリンチは株式を以下の6つに分類分けしました。
(参考:『ピーターリンチの株で勝つ』)
・低成長株
・優良株
・急成長株
・市況関連株
・業績回復株
資産株

リンチが言う「資産株」は、バランスシート上に現預金や有価証券などの多額の資産を保有していて、そのBS価値が株式価値の主要な源泉になっている銘柄のことです。

こういう会社はレアです。一般的に言って、株式価値の源泉は将来のキャッシュフローです。もちろん、今現在バランスシートにある保有財産も株式価値を構成しますが、それはごく僅かなのが普通です。株式価値の大半は企業が将来稼ぐキャッシュフローです。

「資産株」は将来キャッシュフローよりはむしろ、今現在手元に持っている資産だけで株式価値を説明できるような銘柄です。

一般的な株式の価値の源泉はPLですが、「資産株」の価値の源泉はBSです。

つまり、「資産株」の価値は不確実な将来に依存しないのです。だって、今現在すでに保有している資産があるのですから。現実に持っている資産です。ただ、その資産がなぜだか株価に反映されてないことがあり、その「市場の歪み」に気が付いて先んじて株を買っておくことが「資産株」投資での儲けのスタイルです。

たとえば、極端な例ですがこんな企業があるとします。

借金をすべて返済しても70億円の現金が余ります。

もし、この会社の株式時価総額が10億円だったとしたら、メチャクチャ割安だと思いませんか?
ネット70億円の現金があるのに、10億円で投資できるのです。千円札を両替機に入れたらなぜか一万円札が出てくるようなものです。

現実にはこんなに分かりやすい例はあり得ないですが、これが「資産株」の例です。

さて、あなたはこの会社に70億円の価値があると気付いたとします。
70億円の価値があるのに、10億円相当の株価で取引されていると賢明なあなたは気が付いた!!

が、、ここで問題が生じます。

あなたは個人投資家で少数株主にしかなれないということです。この会社を10億円で100%買収して、会社を清算して70億円のキャッシュを自分にもたらすことはできないのです。あなたは100万円(持分比率0.1%)を投資するのが限度です(そういう設定にします)。

その持分100万円は本当は7倍の700万円の価値があるんです。
あなたはそう確信して100万円を投資した。

果たして、その株は本当に700万円まで値上がりするのでしょうか?

それはひとえに、他の投資家があなたと同じように、この「資産株」の本来の価値に気が付くかどうかに依存します。そうやって、みんなが「この会社のあるべき株式時価は70億円だぞ!、投資した方がいいぞ!」と思わない限り、その資産株の価値は上がりません。

つまり美人投票なんです。あなたは美人だと気が付いたけど、それだけじゃダメなんです。みんなが美人だと気付いてくれないと、あなたは利益を得ることができません。M&Aなどで全株買い取ってくれる巨大投資家が出てくるのが一番ハッピーなシナリオです。

 

株式投資とは本質的に他力本願だが・・

ですよね。
投資家がやれることは資金を投じて待つのみ。

株式投資、特に長期投資は本質的に他力本願です。

その「他力」が誰なのかきちんと理解しておくことが大切です。

長期投資家が信じるべき「他力」は企業の経営者と従業員です。株式投資とは人に投資することです。株式はペーパーアセットなんかじゃありません。その裏には、企業のビジネスがあり人がいます。株式とは究極のリアル・アセットです。

CEOと従業員がきちんと仕事をしてくれなかったら、株式の価値は上がりません。配当も増えません。もしそうなったら投資家は諦めるしかありません。信じて待った結果、成果が出ない時もあります。それは結果として仕方ないことです。投資家として受け入れなくてはならないリスクです。

「資産株」では信じる対象が違います。

「資産株」の投資家が信じるべきは、経営者や従業員というよりは、自分以外の他の投資家です。「みんなもこの企業にはもっと高い価値があると気付いてくれよ、頼む!!」こういう投資スタイルになります。

一番のリスクは、「みんなこの会社の価値に気付いてくれ!」と願って時間が経つ内に、企業の「資産」が食い潰されることです。先の例で言えば、現金100億円を経営者が30億円まで溶かしてしまうなどです。そうなれば、借金30億円返済して残る財産はゼロです。もはや「資産株」ではなくなります。株式はただの紙切れになってしまいます。

資産株への投資が投資が良い悪いという話ではありません。こういう性質があるということを、客観的に理解しておくことが大切ということです。

私は「資産株」投資を実際にやったことはありませんが、理論的に考えて浮かび上がる優良株投資(S&P500のホールド等)との違いを書いてみました。日本株マーケットでこういう資産株を探すのは面白いかもしれません。