日本は高齢化先進国です。総務省の国勢調査によると2015年時点で人口100人当たり65歳上の人は26人でした。国連調査によると、イタリアが22人、ドイツが21人、アメリカが15人、中国が9人です。いずれの国も2050年に向けて、65歳以上の比率は増えていく見通しです。

(データソース:国勢調査及び国連調査)

人口動態はほぼ正確ですから、これは「既に起こった未来」と言って差し支えないでしょう。ちなみに私は2050年には63歳になっています。全く想像できませんが・・。

アメリカも日本の後を追うように高齢化が進んでいく見通しです。

(ウォールストリートジャーナルより)

このような世界的な高齢化が株式投資に与える影響は何かあるでしょうか?

よくこんなことが言われます。

仕事を辞めて引退した多くの高齢者の方々は、年金収入を補うために保有株を売却するはずだ。その売り注文を買い支えられるほどの資金を今の若者は持っておらず、株式相場の売り圧力は強まり株価は下落する。そして、投資家は損失を被るだろう。

ジェレミー・シーゲル氏の『株式投資の未来』にもこのような記述があります。

ベビーブーマー世代(要は高齢者)が貯め込んだ株式・債券を、ブーマー世代(要は若者たち)が支払った価格で買い取ってくれるはずだった。買い手がいないとき、資産の価格は下落する。場合によっては、暴落する。

『株式投資の未来』

あなたはどう思います?
不安を感じますか?
世界的な高齢化によって株式のリターンは下がるんだ、トホホ・・て思いますか?

いいえ、それはNOです。安心してください。

高齢化によって株の買い手が減ることは、むしろ株式の期待リターンを押し上げます。これは今後も株式投資を続ける我々現役世代にとって、むしろチャンスです。

 

投資家の資金需要と企業のビジネスの実態とは何ら関係性がない

株価は将来キャッシュフローの割引現在価値で決まる云々かんぬんというファイナンス理論はあります。が、所詮理論です。株式マーケットの現場では、ただ需要と供給がマッチした点で株価が決まるのみです。なので、株の買い手が減って需要が減れば株価は下がります。それは間違いないことです。買い手が減れば株価は落ちます。

でもだからって、それが私たち株主のリターン悪化の要因になるでしょうか?

いやいや、ならんでしょう。
私たちの長期的な株式投資リターンは株価変動によって決まるのでしょうか?

違います。長期的な株式リターンは、結局のところ投資先企業がどれだけ稼いでどれだけ株主に還元するかで決まります(あとは投資額の妥当性)。いかに「投資額当たりの利益・配当」を最大化するかがリターンを左右します。

誰が株主であるかは、(長期)投資リターンと無関係です。大勢の人が株を売り払おうとも、企業は淡々といつも通りビジネスを回しています。従業員は普段通り出勤しています。あなたが勤務している会社の株価が暴落しても、あなたはんなこと知ったこっちゃないですよね。別にいつも通り仕事して帰りますよね。慌てるのは株主と経営陣くらいです。

誰かが株を大量に売ろうとも買おうとも、企業のビジネスの実態には何ら影響を与えません。カール・アイカーン氏やサードポイント、3Gキャピタルといったアクティビストが株主になると経営に大きな影響を与えますが、それは例外です。所有と経営が分離した現代企業において、日々の株式売買で刻一刻と株主は変わっていますが、それによって企業のビジネスは何ら影響を受けません。あなたの会社の昨日の所有者と今日の所有者は別人なんですよ。なんか変な感じですよね。会社は昨日も今日も何も変わっていないのに・・。

短期的な株式投資のリターンは株価変動がすべてです。でも長期は違います。長期リターンは、いかに企業がキャッシュを稼ぐか、もっと踏み込むとその稼いだキャッシュをどれだけ株主に還元するかで決まります。

高齢化によって生活費捻出のために株が売られて株価が暴落するなら、それはコツコツ追加投資を行う私たちサラリーマン投資家には朗報です。一般的に言って、資金需要のためにやむを得ず株を手放すことで需給関係が緩み、株価が下がる場合それは”買い”と言えますなぜなら、売り手の資金需要逼迫と企業のビジネスには何ら関係性がないからです。

今の株主が「やべえ金がない、持ち株全部売り払うぞー!!」ってガンガン売り注文を出して株価が下がっても、だからって企業の業績には何ら影響しません。

つまり、企業の予想将来キャッシュフローは変わらないのに、株価だけ下がって期待リターンが上がるということです。PERが下がって益回りが上昇します。割安で投資できるチャンスということです。

 

株式投資リターンの源泉はリスク。リスクとは・・

もう少し抽象的に考えてみます。

株式投資のリターンの源泉はリスクです。より高いリスクを負担することで、将来大きな果実が実ります。では、より高いリスクを負担するにはどうしたらいいのでしょうか?

それは誰も株を買わない時に「我こそは」と名乗りを上げることです。それが高いリスクを取るということです。ゴミ収集人やエレベーター修理工の収入は高めです。どちらの職業もハードワークでやりたがる人がいないからです。株式投資も一緒です。誰もが株を買っているときに株を買うよりも、金融危機などで世間がリスクを取ることに恐怖感を抱いているときに株を買った方が期待できる投資利益は高くなります。期待リターンは上がります。

リーマンショックなどの金融危機で株価が大きく下落したタイミングで株を買った人は、今頃大きな利益で報われていることでしょう。それは誰もリスクの担い手になりたがらなかった状況で、勇気を持ってリスクを取ったからです。高いリスクを負担したご褒美です。正当な報酬です。(ただし、リーマンショックの時は単なる需給問題ではありませんでしたがね。実体経済にも影響して、企業のビジネスにも悪影響を及ぼしました。利益が減少して減配した企業も多くありました。)

高齢者が生活資金を捻出するために株を売却するとしたら、それは完全に需給問題でしかありません。株式の売り圧力が強まるということは、株式会社のリスクの担い手が減少するということであり、株主の希少性が上がるということです。つまり株式のリスクプレミアムが上昇します。歴史的に株式のリスクプレミアムは3%程度ですが、それが3.5%か4%に上昇するかもしれません。

それはチャンスですよ。リスクプレミアムこそが私たちの報酬なのですから。そうやって株主が減って、株式の希少性が高まるときに投資するということは、高いリスクをテイクするということと同義です。そして、そのリスクが株式リターンの源泉です。

ちょっと表現が抽象的過ぎたかもしれません。わかりづらかったら申し訳なかったです。

言いたいことをまとめると、こんな感じです。
・高齢者が生活費補填のために株を売ったところで企業のビジネスに何ら影響を与えることはない。

・私たち長期投資家のリターンは企業のビジネス結果に依存する

・企業のビジネス(業績)に影響がないなら、私たち長期投資家のリターンに悪影響はない。むしろ、株価が割安になって追加投資分の期待リターンが高くなる。

高齢化によって私たちの株式リターンが悪化するなんてことはありません。

 

とは言え・・

最後にちょっと補足です。

長期投資リターンは企業がいかに稼いで株主に還元するかで決まると言いました。株価変動は関係ないと言いました。これは正確ではありません。実際には株価変動も投資リターンに影響します。

と言うのも、私たちの投資期間は永久ではなくいつか株を売却するのが普通だからです。長期投資リターンは企業のビジネスの結果のみによって決まるという理屈は、投資期間が永久であればその通りです。でも、それは非現実的です。

バフェットは「我々は永遠に株を保有し続けることを好む。」と言ってます。が、もちろんそれは無理であって、ケインズが「長期的には、われわれはみんな死んでいる」と言った通りです。

本当の永久保有なんて無理です。いつかは株を売って投資をExitするならば、株の需給は投資リターンに影響を与えます。株の需要が減って株価が下がっているときに株を売却せねばならないとしたら、それはリターン悪化要因です。

長期投資家と言えども、いつかは株を売るとなると株価と完全に無縁でいることは不可能です。最後は株価と対峙しなくてはなりません。ただ、保有期間が長期になればなるほど売却時の株価変動が総累計リターンに及ぼす影響は小さくなっていきます。

株を保有している間は企業の実態だけを見ておけばいいです。つまり株価ではなく、決算や配当に注目するということです。でも最後の最後は株の需給も気にする必要がありますね。出口戦略って難しい問題です。ここも時間分散して徐々に売却していくことが有効かもしれません。まだ31歳の私は出口戦略まで具体的にイメージしていないのが本音です。