株式会社の経営陣は株主に会社経営を一任されいる存在で、その社会的責任、法的責任は重い。
株主から預かったお金をきちんとビジネスに投資してリターンを出し、株主に還元しなくてはなりません。

企業の取締役は善良な管理者として職務を全うする義務があります。
それと引き換えの高額報酬です。
(日本の経営者の報酬は安すぎると思いますが。)

経営者は株主価値向上のために全力を尽くすことが責務であり、会社の金で私腹を肥やしてはなりません。

  株主と経営者の利害対立

でも、経営者は株主の利益を犠牲にして私腹を肥やすことができます。
なぜなら、四六時中株主の監視があるわけではないから。

お金を預けている株主がいつも横にいて、あるいはモニターで監視していたら経営陣も変なことできませんが、それは無理です。
経営陣と株主が対面して役員報酬や職務継続の判断を仰ぐ場は原則として年に1回の定時株主総会です。

経営陣特に社長は、やろうと思えば何でもやれてしまう。
だって誰も上司がいなから。
株主はある意味社長の上司と言えるかもしれませんが、株主は社長の日々の日常職務執行まで監視はできません。

こういった株主と経営者の利害対立を、エージェンシー問題といいます。

ファーストクラスに乗って出張して、出張先の高級レストランの食事して高級ホテルに宿泊する。
無駄に豪華な社長室を高いコストをかけて設置する。
本当に必要か検討もせずにマッキンゼーにコンサルを依頼して、高額な報酬を支払う。
これらは、すべてエージェンシー問題に通じます。

自分のお金だったら、本当にそんなことするのか?っていうこと。
所詮人のお金(株主のお金)だから、コスパも考えずに散財できるんです。

倒産した英会話教室のNOVAの社長が超豪華社長室を作っていたことを記憶にある方もいると思います。
その社長室にはバーカウンター、ダブルベッド、浴室までありました。
自分は株主からお金を預かっている存在という意識のかけらもないアホ経営者。

逆の素晴らしい例もあります。

ウォールストリートジャーナルによると、シティグループの新本社ビルにはCEOの個室すらないとのこと。
プライバシーが守れないという社員の反対もあったようですが、CEO自ら誠実に説得しました。
シティオフィス(ウォールストリートジャーナルより)

コミュニケーション活発化のためのアイデアですが、シティの株主にとってもオフィスに無駄金が使われることがないことがわかる嬉しいニュースです。

株式投資は、投資先企業のビジネスの有望性も大切ですが、稼いだお金を無駄なく効率的に株主に還元する仕組みがあるかというコーポレートガバナンスの視点もすごく大切だと思います。

特に世界的に人口増加が緩やかになり世界経済が成熟していく中で、無駄に投資をするのでなく資本コストを上回る投資案件がないのであれば、速やかに株主にお金を返すという姿勢がある企業は魅力的。

経営者と株主の利害対立、エージェンシー問題は不可避ですが、出来る限り株主利益を保護できる会社の仕組み、法律、そして何より経営者のプロフェッショナルマインドが大切です。

  従業員と株主も対立する

株主と利害対立するのは経営者だけはなく、私のような従業員も株主利益を犠牲にする行動をしがちだと最近感じています。

経理部に在籍しているので、すべての部署からの稟議決裁が上がってきます。

それらの中には正直意味不明な決裁もあります。

例えば、こんな案件。
○○部署の今後のさらなる成長に向けて2泊3日で研修を兼ねた合宿をする。
○○先生を100万円くらいかけて招聘し、研修の様子を撮影したDVDを外部委託業者に作成してもらう。
その後は某高級ホテルで立食パーティーをして、各社員その某高級ホテルに宿泊。

2泊3日、総額1,100万円…。

アホか!!

こんなのに1,000万円以上の金をかける意味があるとは到底思えない。

稟議を最終決裁する経理部長も絶対そう思っている。

でも誰も何も言わない。
「またこんな盛大なことやってww、まあその部署の予算内だからなー」
くらいでそのまま可決されるのです。

なぜ可決されるのか?

それは所詮他人事であって、自分事として考えることができないから。
会社の金(株主の金)が出ていくのであって、別に経理部長自身の財布が痛むわけではないから。

だから笑って決裁できるんです。

この無駄な経費はPLの販管費の雑費にでもなるんでしょう。
この雑費は会社の当期純利益を押し下げて株価を下落させ、配当を減少させることで巡り巡って株主の負担となるわけです。

株主は自分が投資している会社の従業員が、こんな無意味な研修という名の豪遊に金を費やしていつなんてつゆも知らない。

1,000万円なんて会社全体の規模を考えたら小さな金額かもしれません。
でも、他人の(株主の)お金を使っているという事実に変わりはないんです。

よく会社のお金で飲むのは楽しいなんて言う人いますが、まあ会社規定内ならOKなのでしょうが、これってある意味株主のお金の横領ですからね。
人の財布から金盗んで酒飲むことがなぜそんなに楽しいのか疑問です。

 

もう一つこんな事例。

システム導入プロジェクト。
システム導入は完了したがその後の保守などであと3か月コンサルを雇うのか、それとも自分達で頑張るのかコストベネフィットを検討して決めよう、というもの。

アクセンチュアやPwC、デロイトなどのコンサルタントって非常に優秀で信頼できる方が多いですが、単価は高い。
一人1か月常駐で200万円~300万円とか平気で請求書が来るわけです。

仮に2名のコンサルタントが3か月常駐するとなれば、1,500万円ほどのコストかかることなります。

一方で、コンサルにサポートしてもらえるベネフィットは今一定量化できない。
別に固定費としての従業員の人件費が浮くわけでもない。
1,500万円のコストを上回るベネフィットがあるって合理的に説明するのは難しいんです。

だいたいこういう時は、こんなシステムエラーが起こったら大変、業務の平準化、社員の過剰残業の抑制とかいろいろネタを探して決裁を可決させて、結局コンサルを雇うんです。

本当にコンサルタントのサポートが必要なのか、真剣に検討しないんです。

なぜなら、自分のお金でコンサル費用を払うわけではないから。
会社の金(株主の金)でコンサル雇って、自分たちの業務サポートをしてもらえるなら従業員にとってこんなに有り難い話はないのです。

従業員の利害を考えたら、自らコンサルは要らないという積極的な理由はないのです。

この無駄なコンサル費用は報酬手数料として販管費に、もしくはソフトウェアとして無形資産に計上されたのち、無形資産償却費としてやはり販管費に計上されます。
そして利益を押し下げて株価を下落させて、やはり株主の負担になるわけです。

プライベートで家事代行業者を利用するか検討するとしたらどうしますか?
料理や洗濯、水回り清掃などで月6万円かかるとしたら、それがほんとに必要かどうか滅茶苦茶悩んで考えるでしょ。

業者も他にもっと安いところがないか調べるでしょ。
口コミをネットで検索するでしょ。

自分事だから、自分の財布が痛むことだから、真剣に悩むんです。

でも1,500万円でコンサル雇うかどうかは、なんとなく検討して決裁回して決めるんです。
その検討に頭抱えて悩むひとは誰もいない。

こういったことは仕方ない面もあると思います。

この意思決定が真に株主利益に資するのかよく考えろ、って従業員に言うのは無理がある。

会社の規定や人事評価制度といった仕組みの中で、できる限り無駄な金使いを止めるしかないです。

  株主想いの会社に投資したい

株主も完璧は諦めるべきかもしれない。
自分が預けたお金が、すべて合理的に株主利益向上のために使われることは残念ながらあり得ません。

それでも株主としてはなるべく株主利益を重視した姿勢を持つ企業に投資したい。

幸いそれを判断する術はあります。

ROEは安定して高いのか。
EPSは毎期安定して上昇しているか。
増配実績が長く安定した高配当か。(成長企業は除く)

これらはビジネスが優秀かという判断指標でもありますが、株主利益を重視しているのかという企業の姿勢を判断する指標でもあります。

原油価格下落でシェブロン(CVX)の業績も悪化したとき、シェブロンCEOが「何よりも配当を最優先する」と語っていた日経新聞の右隅の小さな記事は今でも私の脳裏に焼き付いています。

アメリカの企業は全体として、日本企業よりもROEが高く増配実績も長いです。

それはアメリカ企業のビジネスが、日本よりもイノベーティブで高付加価値だからなのでしょうか?
確かにそれは事実でしょうし、否定できません。
グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾンが誕生したのがすべてアメリカなのは偶然ではありません。

でもそれだけではありません。

経営者がどれだけ株主の利益を意識して会社を運営しているのか、この差が日米のROEの違いになっていると感じています。
この格差の根本的な原因は文化や教育にあるので、一朝一夕に差は埋まらないでしょう。

日本の企業文化として従業員を家族のように大切に扱う、という慣習も大切かもしれません。

でもどうでしょう、ちょっと時代遅れになりつつあるのではないでしょうか。

100%アメリカナイズされる必要はないと思いますが、アメリカ企業の株主利益保護の姿勢はもっと取り入れるべきだと思います。

ポートフォリオのうち日本株の割合はたったの10%しかない私ですが、日本で生まれ育った者として日本企業は応援しています。

JPX400とかコーポレートガバナンスコードとか、国も頑張っています。

上で散々会社の経費の使い方を批判しましたが、経営会議の資料などを見ていると会社もかなり株主利益を意識した経営をしていると感じてもいます。
「配当性向」、「ROE」、「資本コスト」といった単語がバンバン経営会議資料に載って、社長や他役員に提言されています。

他の上場会社も同じだと思います。

日本企業のROEが米国企業に追いつく日が来ることを切に願っています。