「資本の論理」とは、「バランスシートの右下を握った奴が強い」ということです。

『会計の世界史』より

資本主義社会で豊かになりたければ「バランスシートの右下」を支配することです。この社会の富の大半は株式会社が生み出しますが、その富はバランスシートの右下、すなわち株主に帰属します。

以下は純利益が株主に配分されるまでのイメージ図です。PL(損益計算書)で計算された利益がBS(バランスシート)右下の純資産に貯まっていき、それが配当として株主に配分されます。

株式会社がどれくらいの利益を上げるべきかどうかは、株主の意向次第です。株主がどれくらいのリターンを求めているのかを経営者は理解し、その意向に沿って経営する必要があります。そりゃたくさん稼げるに越したことはないけど、たくさん稼ぐためには投資リスクを取らなくてはなりません。どこまでリスクを取るか、それは株主の期待リターンを考慮して判断されるべきものです。

株主がどれくらいのリターンを求めているのか普通は知り得ません。なぜなら、現代は不特定多数の少数株主が大勢いて、経営者は株主と直接コミュニケーションを取ることが事実上不可能だからです。10%を握る大株主がいれば話は別ですが。

なので、経営者は過去のトレンドに沿ったEPS成長、営業利益率、ROEを目安にします。また中長期経営計画などの目標を公開することで投資家とのコミュニケーションを図ります。

米国株は過去200年、実質で7%弱のリターンをもたらしてきました。結果としてそれくらいのリターンになるように株価が設定されてきたということ。それが歴史的な米国企業の株主資本コストでした。

現代はどうでしょうかね。やや資本コストは下がっているように見えます。インターネットで簡単に株式市場にアクセスできる環境、安定した経済環境が投資家のリスク認識を押し下げているように見えます。5%~6%の実質リターンを期待する程度が妥当かなと思います。

あなたはあなたの資本コストを何%に設定しますか?

ところで、ここまで株式会社の資本コストについて話してきましたが、あなたの資本コストはいくらですか?

これは直近6月末の私のバランスシートです。

右側を見て下さい。負債純資産27百万円のうち負債は0.8百万円で純資産が26百万円です。

冒頭に引用した通り、「バランスシートの右下を握った奴が強い」のですが、私のバランスシートの右下は誰でしょうか?

私自身です。
Hiro株式会社の所有者はHiro自身です。

私は私の経済利益に対して全責任を負っています。儲けはすべて自分の懐に入るし、損失はすべて自分の懐を痛めることになります。

アルトリア株の爆損は100%自己負担です。誰も分かち合う人はいません。なぜなら、私の家計の所有者は私しかいないからです。私に出資してくれている人は誰もいません。募集もしていません。いくらか負債はありますが少額な上に、内容は奨学金、カードローンでともに利率はゼロです。

普通、家計は所有と経営が一致しています。ここが所有と経営が分離している現代の株式会社と大きく違うところ。あなたは家計の所有者でもあり経営者でもあります。

これはメリットであり、デメリットでもあります。

メリットは資本コストを柔軟に設定できるところです。

他人資本を預かっている株式会社の経営者は常に圧力に晒されています。「年7%くらいはリターンを出せよ!さもないと報酬下げるぞ!」という所有者たる株主の圧力です。

でも、あなたの家計はそんな圧力に晒される心配はありません。最低でもいくら稼げよ!なんて言われる心配はありません。奥さんからの別の圧力はあるかもしれませんが・・。

家計は年率7%のリターンを維持する必要性なんてありません。保有する金融資産をすべて預金のままにしてリターンゼロでも文句を言う人は誰もいません。ただし、機会損失はすべてあなたが負担しなくてはなりません。誰も助けてはくれません。誰も助言してくれません。

ここが所有と経営が一致している家計のデメリットでもあります。つまり、資本の圧力がないが故に、放漫経営でも誰も何も言ってくれず無関心ということです。株式会社が低収益を続けていると、株主から文句を言われます。特に米国ではそうです。

有限資源を有効に活用して社会に富を生もうというインセンティブが企業には働きますが、家計にはそのインセンティブは働きづらいです。

利率ゼロの普通預金のままにしても誰も指摘してくれません。家計の資本コストはゼロになり得るということ。実際に日本の家計の資本コストはほとんどゼロですよね。だって、大半の人がリスク資産は買わずに預金ばかりしているのですから。

別にそれが悪いわけではありません。家計の資本コストをいくらに設定するかは自由ですから。0%でも7%でも20%でも勝手に設定して良いです。

あなたはあなた自身にどれくらいの資本コスト(=期待リターン)を課しますか? 自分に鞭打つか、それとも甘やかすか。それはあなた次第。

私は最低でも実質で7%が目標です。今は低金利ですし、相応のリスクを取らないと達成できないレベルだと理解しています。なので金融資産の大半は株式にしています。