株主総会の時期ですね。
私の会社も無事に株主総会が終了し、すべての決議事項に株主の承認を頂きました。

定時株主総会はすべての株式会社で必ず年に1回開催せねばなりません。
会社法の第296条で明文規定されています。

決算の承認の他、利益処分(配当金)、役員再任について一般的には決議します。

ところで、従業員として地位の最上位ってご存知でしょうか?
一般的には執行役員です。
取締役ではありません。

取締役と一般従業員は法律的な地位が全く異なります。
日本企業では、伝統的に平社員として新卒入社して30年かけて出世の階段を上りゴールとしての取締役、最後は代表取締役CEOという地位があると考えられているので、誤解している人が多いです。

本部長から執行役員への出世は、そんなに大した意味はありません。
ところが、執行役員から取締役へ出世したとしたらそれは全く意味が違います。
というか、これを出世と呼んではいけないと私は思います。

執行役員も含めた従業員は会社から雇われている身分です。
給料と引き換えに会社規則に規定された時間を会社のために労働力を提供する義務があります。

取締役は違います。
取締役は株主から会社経営を委託されている存在です。
株主のお金を預かっている人たちということ。
つまり取締役は株主から雇われている存在とも言えます。

取締役の責任は極めて重く、会社法に規定されています。
曖昧な責任規定として「善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)」というものがあり、要するに日々、株主の金を預かっている者として責任に持って行動しろ、という規定です。
他にも、競業取引の制限や利益相反取引の制限など会社法で厳しく規定されています。

個人的には日本企業の役員報酬程度では、取締役のリスクとリターンは見合わないと思っています。
サラリーマン人生を続けるとしたら執行役員で終わりたいですね。
まあ、私の労働モチベーションを考えるとせいぜい課長補佐止まりだとすでに覚悟しておりますが(笑)。

株主総会は、株主がお金を預かっている取締役を評価する場です。
決議案が否認されることは滅多にありませんが、株主が取締役再任を否決すればその時点でその取締役はクビです。

株主は取締役達に経営方針の説明や、過去の決算について説明する権利が当然ありますし、取締役はそれらの質問に真摯に回答する義務があります。
定時株主総会は、株主と株主が経営を委託している取締役とがコミュニケーションをとれる唯一の場です。

亀山工場に多額投資をした辺りから業績の悪化が始まったシャープ。
中小企業にするために減資したり、鴻海と提携したりして何とか這い上がろうとしますが、目先の業績改善は期待されていません。先日東証二部に格下げされるとの報道もありました。

こうなると当然シャープの株主は怒るわけです。
誰に怒るかって、シャープの経営陣、取締役にです。
なぜなら、シャープの株主は自身のお金をシャープの経営陣に預けて、株主価値向上のためその経営陣に多額の役員報酬を払っているのに、株主価値は破壊され続けたからです。

シャープの株主は、株主総会で高橋社長に退任を求める発言もしています。
株主にはこのような発言をする権利があります。

    株主とは会社の所有者

自分が勤めいてる会社をあまり悪く言いたくないのですが、先日こんなことがありました。

皆さんの会社にも社内イントラサイトがあると思います。
私の会社にもあって、会社のトピック的な話題が随時更新されます。
人事情報も公開されます。

株主総会が近づいていた先日、弊社イントラサイトにこんな文章が掲載されました。
株主は株主総会で賛成票を投じてくれる大切な存在です。全社一丸となって株主総会を成功させましょう。(以下省略)」

この文章を読んで、もう椅子から転げ落ちるるところでした。
飲んでいたコーヒーを本当に吹き出しそうになりました。
馬鹿も休み休み言えって感じです。

「株主は株主総会で賛成票を投じてくれる大切な存在です。」ってこれはちょっと酷すぎでしょう(笑)。
イントラ文章を載せているのは総務部なのか広報部なのか詳しく知りませんが、少なくとも課長クラスの確認フローはあると思います。
そのチェックをくぐり抜けた文章でしょうか?
私がチェッカーだったら即アウトにしますけど。

経理部が書いた文章ではなくて幸い。
経理部でこんなこと書く奴いたら即異動して欲しいです。
一緒に働きたくありません。

普段仕事をしていて、株主と会うことがあるのはIR部門くらいでしょう。
会社の従業員の大半には株主の姿なんて見えません。

株主って会社にとってどういう存在なのでしょうか?
会社の従業員にとっても株主は大切な存在です。
でもそれは、株主総会で賛成票を投じてくれるからではありません(笑)。

普段当然のように固定給をもらえるのはなぜでしょう?
仕事ができない新入社員も、新聞読んで仕事していないおじさんも毎月給料がもらえるのはなぜでしょう。
もちろん会社が利益を稼いでいるからではあります。
会社の業績が悪くなって最終赤字に陥っても、従業員は給料をもらえます。
なぜか?
それは株主がいるから。

会社の業績に対して最終的に経済的責任を負っているのは株主なのであって従業員ではありません。
会社のビジネスリスク、倒産リスクを負っているのは従業員でもなければ経営陣でもなければ、株主です。

業績がいい時も悪い時も、良くも悪くも毎月安定した給料を貰えるのは株主がビジネスリスクを負担して、ビジネスのために従業員の労働力を買っているからです。

普段、株主の利益のために俺は仕事を頑張る!と思って働いている人はいないでしょ。
そんなこと考える必要ありません。
自分のため、家族のために給料稼ぐために働けばいいんです。
そこまで考えるのは経営陣の仕事であって、末端従業員の仕事ではありません。

でも資本主義社会で株式会社で働く従業員として、株式会社の仕組み自体は理解しておくべきです。
自分はどれだけ意識高く仕事に熱意持って頑張ったとしても、所詮ビジネスリスクは一切負っていないリスクフリーの身分であるという自覚が必要です。
同僚よりも営業成績が2倍良かったからと言って、給料が2倍にはならないことの本質的理由はここです。
青色発光ダイオードを開発した中村修二氏が、発明の対価を日亜化学に求めた裁判を起こしたことがありましたが、この訴訟事件の本質もここにあります。
ローリスク・ローリターン。
仕事を一生懸命頑張ることは大切なことですが、一歩引いて考えることもたまには必要です。