米国株に投資している人は円安を喜びがちです。

その感情は短期的には間違いないですし、私も円安になったほうが内心嬉しい気持ちになります。

でも、実は長期では円高ドル安になった方が日本人米国株にとってはお得なのです。

なぜでしょうか?

  長期円高がお得な理由

貨幣とは物々交換の仲介の為に生まれたものに過ぎません。それが日本政府の信頼によって発行されている「円」であろうが、アメリカ政府の信頼によって発行されている「ドル」であろうが、本質的な通貨の役割に何ら変わりはない。

通貨は所詮通貨なのです。

通貨それ自体が何か価値を生み出すわけではないのです。

結局、我々株式投資家の実質的な投資リターンは、投資した企業が如何にキャッシュを稼ぎそれを株主に還元したかに尽きるのです。

もっと言うと、どれだけ当初期待を上回るキャッシュを稼いだかが投資リターンを決定します。

「円」で買う日本株だろうが、「ドル」で買うアメリカ株だろうがその本質は変わらない。為替の影響は長期では実質投資リターンに影響しないという事実は、数学的に難しく考えるよりも自然体でそりゃそうだよなって感じで理解すべきことだと思っています。

フリーランチは存在しない、うまい儲け話はないと表現してもよいでしょう。

所詮物・サービスの媒介の役割を担っているのみの通貨なのです。基軸通貨だからドルを買っておけば安心という話は全くの嘘です。媒介手段である通貨の種類を変更しただけで儲けが出るはずはありません。

ドル円為替変動は長期の米国株投資リターンには影響しない(税引き後では悪影響、後述)。
ただし、為替の議論で「長期」と言うと少なくとも30年超は想定する必要があるのが難点です。

30年未満で見れば、物価水準から想定される理論的な為替水準から大きくかい離したままというケースは少なくないです。為替はインフレ”期待”・デフレ”期待”で動くからです。

そういう意味では、米国株長期投資家は日本株に投資する時よりも一層長期でホールドし続ける必要があると思います。そうでないと為替の一時的ないたずらで損を被る可能性も否定できません。ナンピン買いも大切だと思います。

さて、為替は長期では必ず両国のインフレ率に連動して動くから実質投資リターンには影響しないけれども、インフレ率が高かまると税引き後の実質リターンは低下してしまうのです。マイルドなインフレは経済にプラスですが、過度にインフレが進むと株式投資家には無視できない税務負担が生じます。

参考記事
株式はインフレに強いというのは、半分本当で半分嘘である

この事実から、すべての日本人米国株投資家が考えるべきことがあります。

それは、日本人米国株投資家は長期的に円高になるよう願うべきだということです。

一般的には円安になった方が既存の米国株の円貨ベースの時価が上昇して喜ぶ人が多いですよね。

でも、それは喜ぶべきではありません。

なぜなら、長期で円安になるということは日本の物価が上昇するということを意味しており実質リターンには影響がないどころか、上述の通り税引き後の実質リターンには悪影響だからです。

短期的には物価と為替なんて連動するはずないので、実感できない気持ちはよくわかります。私も理論ではわかっていても日常的には円高になると悲しくなります。

通貨と物価は本質的には同じ意味であって、コインを表から見るのか裏から見るのか違いでしかありません。だって通貨は物と物とを紐づける存在でしかないのですから。

円安=円の通貨価値の下落=円建て物価の上昇
円高=円の通貨価値の上昇=円建て物価の下落

通貨の相対的価値と、実際の為替レートは確かに完全には連動しません。というか短期ではズレまくりです。両者(通貨価値と為替レート)が整合しているとその連動性がはっきりが見られるのは上述しましたが30年超レベルです。

(長期で)円安になるということはインフレを意味するので、一見為替差益がたくさん出てうれしく感じるかもしれませんが、その分日本の物価は上がっているはずなので実質リターンには影響しないわけです。何度も言っていますが、むしろ税引き後リターンには悪影響なのです。

円安(インフレ)による為替差益で名目リターンが上昇することはむしろ悪なのです。

あなたの米国株の実質投資リターンは、投資した米国株の成績次第です。あなたがジョンソンエンドジョンソン株に30年間投資したのであれば、あなたの実質投資リターンはJ&Jが如何に頑張ってくれるかこの1点のみに掛かっています。

きちんとした優良株に長期投資しておけばいいという単純な話です。わかりやすくていいでしょ。実質リターンはどの株に投資するのかという判断のみに影響されるのです。

でも、名目リターンには為替変動(物価変動)が大きく影響します。

実質リターンが同じであれば、名目リターンは低いほうが望ましいんです。

だってそうでしょ。名目リターンが上昇してキャピタルゲインが多額に発生したらその分税金を払う必要があるんですから。

為替差益が出て喜ぶべきは短期投資家のみです。
短期では為替は現実の物価を反映しませんから。期待インフレ率が為替を大きく動かします。

2013年からのドル円の為替相場を思い出してください。なぜ80円台だったドル円相場が120円台まで駆け上がったのか、それは黒田総裁の金融政策、安倍首相の政策期待から日本の物価は上昇すると投機筋が読んだからです。でも、実際には物価は上昇しそうにないとわかるとその期待は萎んで今は100円台まで戻しているわけです。

1ドル124円とかで円買いできた投資家はラッキーですよ、だって別に日本の物価は上がっていないのに物価上昇を反映したレートで買えているのですから。

短期では為替と物価は連動しないから、短期で為替差益を狙うことは合理的な取引だと思います。FXはいい投機取引だと思います。僕も一度くらいやってみたいと思っています。

でも長期で為替に賭けるのはアホです、意味ないです。なぜならその分必ず物価が変動するからです。

円安による為替差益を喜んでいる長期米国株投資家は残念な投資家です。税金の怖さを理解すべきです。

長期円高を願うべきです。

極端な例を言いましょう。

ある日本人Aさんが30年間J&J株に投資して株価が10倍になったとしましょう(配当無視)。そしてこの期間日本でデフレが進行しまくって10倍円高が進んだとします。

この投資家Aさんのリターンはどうなっているでしょうか。J&Jのドルベースの株価は10倍に増加していますが、円高が10倍も進んでいるので円貨ベースの名目リターンはゼロです。

これって残念な結果なのでしょうか?
円高のせいで損したって!嘆くべきなのでしょうか?

まさかね、違いますよね。
これが最も喜ばしいパターンなんですよ!

だって日本の物価は30年前の10分の1にまで下落しているのに、Aさんの名目円貨金額はJ&J株のおかげで30年前と同額なのですから、購買力は10倍に増えているわけです。

なのに円貨ベースの名目リターンはJ&J株高と円高ドル安が相殺してゼロだから、税金が一切掛からない!

30年間でJ&J株は10倍も成長したのに、税金はゼロでいいんですよ!これってものすごく投資家に有利なわけです。

日銀が新たに外債を買うかもしれないとかいう話がまことしやかに報道されていますが、日本経済にとってそれがプラスであっても我々米国株投資家には絶対マイナスです。

ハイパーインフレとか起こった時にゃもう目も当てられません。税金負担で皆死亡です。ちなみに死亡なのは日本株投資家も同じですけどね。

我々米国株投資家の税引き後実質投資リターンは黒田日銀総裁の手腕によって大きく増減するのです。

為替変動(物価変動)はマクロ経済事象なので見守る他ないのが歯がゆいところですね。でもほら強く想えば願いは届くんだよって、子供の頃お母さんや小学校の先生に教わったでしょ。

すべての日本人米国株投資家みんなで祈りましょう!!

円高になーれ、円高になーれ、円高になーれ。