WCって何かわかりますか?
これは投資がテーマのブログなので、Water Closet(お手洗い)ではないですよ。

WCとはWorking Capital、日本語で運転資本と言います。

企業のビジネスフローは典型的には、原材料を仕入れて製造して棚卸資産にして、それを掛けで販売し、その売掛金を回収することを一つのサイクルとしています。

原材料の仕入れも現金仕入れではなく掛け仕入れが通常ですが、その債務支払いまでに製品代金回収が間に合わなければ、企業がデフォルト起こしてしまいます。
要するに倒産です。

それを防ぐために企業は短期借入をして資金を調達して、日々のビジネスのオペレーション資金に充当します。

WCは一般的に、以下の式で算出されます。
WC = 流動資産 - 流動負債(有利子負債除く)

企業の投資と聞くと、どうしても機械装置や工場といった設備投資が真っ先に思いつくかもしれませんが、このWCも事業上必要不可欠でキャッシュを生み出すために必要な投資です。

ところで、デュポン式という言葉を聞いたことあるでしょか?
昨今、コーポレートガバナンスコードの話題もあり、日本企業では盛んにROEを改善すべしと言われます。

今では多くの上場企業が中期経営計画等でROEを経営目標のKPIの一つとしています。
ROEは株主資本に対していくらの利益を得たかを測る指標であり、投資家が注目する数字の一つです。
ROE = 当期純利益 / 株主資本

このROEの式を以下のように3つに因数分解した式をデュポン式と呼びます。

デュポン式

売上高と総資産という数値を挟むことで、3つの比率に分けています。

ROEを上昇させるためには、売上高利益率を上げるか、総資産回転率を高めるか、財務レバレッジを高めるか(借金する)、3つのいずれかを行う必要があるということをこの式は意味しています。

ここで着目したいのは真ん中の総資産回転率。

これは盲点ではないですか?
ROE改善というと、どうしても利益向上に目が行きがちですし、BSよりもPLを見てしまいがち。
(最近は積極的な自社株買いとかでBS面からROE改善する動きも活発ですけどね。)

この式が教えてくれことは、利益額を上げなくても資産回転率を向上させればROEは上がるということ。
総資産回転率を向上させるとは、つまりなるべく少ない資産でビジネスを回すということ。
資産圧縮です。

なので、WC(運転資本)を少なくすることはROE改善に寄与します。
なるべく少ない元手で売上高を稼いだほうが、利益率が良くなるというのは自然ではあります。

企業はこのWCを少なくする努力をしています。
WCを減らすには、売掛金のサイトを短くする、在庫を持ち過ぎない、買掛金のサイトを長くするなどを実施します。

トヨタ自動車の有名な「ジャスト・イン・システム」も在庫を必要な時に必要なだけ持つことで、在庫を最小限にしてWCを減らし、総資産回転率を向上させて結果としてROE向上に貢献しています。

  個人もWCを最小限にすべき

一般的に言えることですが、企業財務にとって良いことは家計財務にも良い結果をもたらします。
企業の損益計算はバリバリできる優秀な経理マンなのに、家計が火の車の方がまれにいますが本当に不思議です。
なぜより複雑な企業会計を管理することができるのに、単純な家計をmanageできないのでしょうか?

企業が売上高伸長したら喜ばしいように、家計でも給料上がったら嬉しいでしょ。
企業が原価改善したら喜ばしいように、家計でも税金・社会保険料下がったら嬉しいでしょ。
企業が人件費削減できたら喜ばしいように(株主にとっては)、家計でも夫のお小遣いを減らせたら嬉しいでしょ(妻にとっては)。

企業がWCを最小限すべきなのと同様に、個人もWCを最小限にすべきです。

個人にとってWC(運転資本)とは何でしょうか?
個人投資家界隈ではこれを生活防衛資金と呼びます。

生活防衛資金とは日々の家賃・食費、その他雑費、そして何か臨時な事象が起きた時のためにキャッシュで持っておく金額のことです。

最適生活防衛資金は人によって様々です。
完全フルインベストメントの方もいれば、生活費の3か月分はキャッシュを持ちたい人もいるし、生活費の2年分はキャッシュがないと不安だという人もいます。

価値観やリスク認識、家計の状況は十人十色なので一概にどれが正しいとか言えません。

しかしながら、あくまでも経済合理的な視点のみから判断すれば、キャッシュは持たずにフルインベストメントすべきです。

現金の期待収益率はゼロ、というか今ではマイナスすらあり得ます。
現金は期待収益率ゼロの代わりに、名目金額の変動がないしいつもで決済に使用できるというメリットがあります。
名目金額の変動がないだけで、実質的にはインフレで目減りしていきます。

生活費の支払いのために現金が必要なのは間違いないですが、期待収益率がゼロの現金を多額に保有しておくことは経済合理性に反します。
生活防衛資金を多く確保するということは、この経済合理性を捨てて安心をとることを意味します。

企業はあまりに杜撰な経営をしていると株主に突っ込まれます。
だから否応なく収益率改善圧力が掛かります。

良いか悪いか、家計の資金の収益性に文句を言う人は誰もいません。
貯金が2,000万円あってそれをすべて普通預金に放置していも、誰も文句は言いません。

だから、自分で勉強して理解する必要があるのです。
いかに現金が何も価値を生まない無価値なものなのかということを。
現金で保有しておくことは安心料以外の価値はない。
というか、長期的なインフレを考えれば安心料にすらなり得ません。

頑張って稼いだ大切なお金を、変動率が高い株式マーケットに投じることは勇気の要ることかもしれませんが、資本主義社会が続く限り長期で購買力を維持向上させてくれるものは株式なのです。

現金なんて一見安心なように見えますが、将来国債の利回りが急上昇してインフレ率が上がりだしたら、一気に価値が棄損してしまう可能性があります。

投資であれ、消費であれ、お金は使わないと意味がないです。
現金預金放置は最悪です。

何度もしつこくて恐縮ですが、稼いだお金をキャッシュで持ったままでは一生貧乏です。
現金では絶対お金持ちにはなれません。
WCを最小化するという企業戦略を家計に適用しない理由はありません。

株式リターン

現金クズでしょ。