先日、WSJ読んでて「なるほどな~」と思ったことがありました。

1月の雇用統計で大幅な賃金上昇が判明し、最近債券利回りが上がって米株価が急落しました。それに絡んでの記事です。

一通り引用しますが、眠気を誘う堅っ苦しい文章なので赤字にした箇所だけでも目を通して頂ければと思います。

債券は、現時点から償還までの間に金利がたどりそうな道筋に加え、タームプレミアムとして知られる追加的な報酬を提供している。金利の先行きが確実なほどタームプレミアムは低くなる。FRBはインフレ率を根拠に金利を設定するため、投資家はインフレについて確信を強めるほど、債券保有に追加的な利回りを求めなくなる。2日の雇用統計を受けて、当然ながら投資家はインフレに対する確信を弱め、債券利回りを押し上げた。

債券利回りの上昇と株価の上昇は連動することが多いものの、今回はそうではなかった。利回りの上昇理由は何かというのが重要だ。経済が堅調であれば、それがもたらす企業の好業績(株価上昇)と高い利回りはつじつまが合う。

一方、インフレ見通しの不透明性を理由に利回りが上昇しているのであれば、それは将来の企業業績には関係なく、ディスカウントレート(割引率)を反映して株価は下がる。

ウォールストリートジャーナルより


この赤字部分、なるほど確かにそうだな~と思いました。

インフレ自体は株式の実質リターンに中立ですが、インフレに対する”不透明感”は株のリターンを押し上げるということです。

 

リスク、不透明感が株の利益を生む

株式投資のリターンの源泉はリスクです。

企業が長期的に利益を上げて配当を出し続けることが株主がリターンを得る上で最重要なことではありますが、それだけでは十分ではありません。将来の利益が完全に株価に織り込まれていたら、いくら企業が高収益を上げようと株主は報われません。

言いたいことはシンプルで、買値は常に大事ということです。株価に将来のリスクが適度に織り込まれていて、将来の配当水準の割に株価がそこそこ安くなっているからこそ、その株を買った投資家はリターンを得ることができます。

「リスクが織り込まれる」、「将来の配当が割り引かれる」などとやや抽象的な表現ですが、これらは表面的にはすべて株価に表れます。

リスクとは不確実性です。

リスクとして、先ず企業の将来の業績に対するリスクがありますね。どんな優良企業であっても、将来どうなるか分かりません。企業として存続しているかどうかも分かりません。今は高収益でも10年後は衰退して債務超過に陥っているかもしれません。そんな将来の業績に対する不安感が株価を押し下げます。将来が不安だから、その不安感に見合うだけのリターンが提供されるまで株価が下がらないと投資家は株を買ってくれません。

不安感が株価を下げます。将来配当に対する不安感が株価を下げるから株は利益を生みます。不安感(リスク認識)あってこその株式利益です。株式投資のリターンの源泉はリスクです。

太陽光などの再生可能エネルギーが普及して、原油の需要は今後数十年で急減するかもしれません。どうなるかは分かりません。英石油大手のBPは2035年の原油需要を1日当たり1億1000万バレルと予測しています。今よりやや多い水準です。まあ、原油需要は底堅いけど大きくは伸びないという予測です。その頃にはガソリン車は駆逐されて、電気自動車が走り回っているのでしょうか。分かりませんよね。

その「分からない」という不透明感がリスクです。その「分からない」が投資家を不安にさせ株価を押し下げます。株価が下がるから投資家は超過利益を得ることができます。超過利益とは語弊がありますかね。高いリスクに見合った相応のリターンを得ることができるということです。

もちろん、マーケットが不安に思っていたリスクが顕在化しちゃえば損することもあります。果敢にリスクを取ったけれど、リターンを得ることができない時だって当然あります。リスクを取るとはそういうもんです。固定給が100%保証されているサラリーマンとは違います。

リスク、不透明感、不安感、これらがあればこそ株で富を築くことができます。リスクなきところにリターンはありません。


こんなモヤモヤした感じがリスクです。勝手なイメージですが・・。

 

インフレ率に対する「不透明感」も株が利益を生む要素の一つ

最初に引用したWSJの文章に戻ります。赤字にした部分だけ再掲します。

インフレ見通しの不透明性を理由に利回りが上昇しているのであれば、それは将来の企業業績には関係なく、ディスカウントレート(割引率)を反映して株価は下がる。

「インフレ見通しの不透明性」

出た!不透明という言葉。不安感、不透明感が株の利益の源泉でしたよね。

将来の企業利益に対する不透明感だけじゃないってことです。将来のインフレ率に対する不透明感も株価を下げる要因になるということです。

期待インフレ率が上がれば株価は下がりますよ。でも、このWSJの記事が言っているのは期待インフレ率が上がって株価が下がるという話ではありません。そうじゃなくって、インフレ率に対する不透明感が株価を下げると言っているのです。

なるほどな~って思いました。

「う~ん、将来のインフレ率は今のまま低いのか、それとも意外と上がっちゃうのか、どっちに転ぶのかな~。分からんな~」と多くの投資家が感じることで株価が下がります。将来のインフレ率に対する不透明感が強い中では、積極的に株を買おうとする人は少なくなるからです。

WSJはこの「インフレ見通しの不透明性」が起こす株価下落は良くないことだという論調でした。しかし、私はそうは思いません。むしろ、こういう不透明感こそが長期株式投資の利益の源泉です。周りがビビッて「もう投資なんて嫌いだー!」と思っている時にリスクに対する報酬が上がります。

期待インフレ率が上がることによる株価下落は、理論的には追加の報酬をもたらしません。名目リターンも上がって物価も上がって、実質リターンはトントンというストーリーになります。あくまで理論的な話ですが。期待インフレ率の上昇は追加のリスクとは言えません。

一方で、「インフレ見通しの不透明感性」は追加の報酬を生み出します。追加のリスクに対する割増報酬が払われるはずです。

 

とは言え、株価下落の要因を特定するのは無理なんだけどね・・

「インフレ見通しの不透明性」が高まっている時に株を買えば、将来高い利益で報われるかもしれないと言いました。もちろん、それはリスクに見合ったリターンというだけであって決してフリーランチじゃないですよ。

リスクを取った結果損する可能性もあるわけです。マーケットが今後の米国のインフレ率は2~3%くらいかな~ということを前提にしている時に株を買って、将来の実際のインフレ率が5%だったらそれは割高な株を掴まされたことになります。リスクを取れば必ず報われるわけではありません。

ただ、金融の世界でカネを稼ぎたければ何らかのリスクを取るしかありません。将来のインフレ率変動というリスクをテイクすれば、将来追加のリターンを得ることができるかもしれません。

しかし、ここまで言っておいて何ですが、今現在インフレに対する不透明感が高まっているのかどうかなんて分かりません。そんな指標があるわけでもないですから。結局、株価が下落した理由をそれらしく後付けで説明しているだけと言えなくもないです。

理論としては、将来のインフレ率に対する不安感というリスクが、株式リターンを押し上げるというのは間違いじゃないです。ただそれを実務に落とし込むのは容易ではありません。結局、リスクなんて目に見えないものです。今の株価にどんな種類のリスクがどれくらい織り込まれているかなんて定量的に測ることは不可能です。

じゃあ、現実問題として投資家はどうすればいいのか?

何とな~くの雰囲気でリスクを感じ取るしかありません。
あるいは、あまり深いことを考えずに毎月積立設定するか。

私が何とな~く感じているところでは、最近のマーケットは将来のインフレ率に対する不透明感を抱いています。賃金が上昇して物価が上がりそうだけど、でもいまいち確信は持てないな~という感じではないでしょうか。

インフレに対する不透明感は強い気がします。株価はランダムウォークで株価下落の理由なんて分かりません。1日で22%も下落した1987年のブラックマンデーですら、株価下落の要因は今でも明確には分かっていないくらいです。ましてや、2月2日~5日のたかだか6%前後の下落理由なんてはっきりとは分かるはずありませんよ。

はっきりとは分からないですが、僕の個人的な印象としては将来のインフレに対する不透明感は最近の株価急落の一つの引き金になっていると思います。「将来のインフレ率がどうなるか分からなくなってきたぞ!」というリスクが株価に織り込まれている気がします。

そのリスクを取るかどうかは、あなたの判断次第です。