10月の雇用統計は比較的良好な結果でした。

非農業部門雇用者数は前月比で16万1000人増で、エコノミスト予想の17万人こそ下回ったものの特にネガティブサプライズはなし。失業率は4.9%と9月から微減。

特に注目されたのは平均時給の伸びです。平均時給は25.92ドルで前年同月比2.8%もの伸びを記録しました。これは7年ぶりの上昇率です。

FRBは今まで、緩和的な金融政策を通じて失業率は順調に下がってきたものの「意外に賃金が伸びない!」と悩んでいました。賃金が伸びないので、インフレも進まないと。それは雇用市場への新規参加者が意外に多かったためです。

こういう時、よくWSJなどのニュースでは労働市場には「スラック(余剰資源)」が残っていると表現します。「スラックが残る」とは雇用主と労働者の需給の緩みがあるということであり、平たく日本的に言うと、就活買い手市場だということです。

イエレン議長を始め、FRBメンバーはこのスラックの解消度合を見極めるため様々な経済統計を眺めているんだと思います。スラックの存在がインフレを抑制していると、以前イエレン議長は言っています。

平均時給の大きな伸びは、労働市場のスラックが縮小していることを示しています。高い給料を提示しないと雇用主は従業員を雇えないということです。

スラックが解消し人件費が上昇してくると、インフレが加速し始めます。インフレをほっておくと経済が過熱し過ぎるのでそろそろFRBも動く必要があります。

ということで、10月の雇用統計は12月のFRB利上げを後押しする結果です。

利上げは短期的には株価にマイナスの影響を与えることが多いです。

それもあってか、S&P500は昨日も下落しこれで9営業日連続の下落で36年ぶりの大記録達成です。

でも、この大記録はFRBのせいではありませんね、言うまでもなく。

急にメール問題を再燃させたFBIコミー長官のせいです。

つい最近までクリントン大統領で決まりって感じの雰囲気だったのに、ぶち壊しです。トランプ大統領誕生の可能性が急に浮上してきました。

マーケットは「不確実性」をとても嫌うので、米株価は9日連続下落という結果になりました。為替も105円台だったのが一時102円台まで急激に円高が進みましたね。

トランプ大統領は誕生するのか? トランプ大統領に賭ける投資戦略はあるのか?

  トランプ大統領を示唆する兆候

1986年にスペースシャトルチャレンジャー号が爆発事故を起こしたとき、当初その原因は不明で調査を待たねばなりませんでした。

しかし、株式市場は示唆していました。ブースターを提供していたモートンサイオコール社が原因だと。事故後他のサプライヤーの株価は回復したのに、モートンサイコオールの株価のみ下げ続けました。

株価は未来を示唆してくれることもあるということです。大衆の集合知は一人の専門家の知識を上回るということです。

身銭が掛かれば、みな真剣になるという現金な話ですね(笑)。

バロンズによると、選挙前の3か月で株価が下落した場合政権交代になる可能性は86%もあるとのこと。

米株価は示唆しています、トランプ大統領の誕生を!

一方で、オンラインブックメーカーのベットフェアによると、トランプ候補勝利の確率は27%とのことで、依然としてクリントン候補が優勢とのこと。ただし、メール問題以前、トランプ勝利の確率は14.5%だったので、2倍近く大きく増加していることになります。

自分の大切なお金が掛かっている状態の集合知は無視できるものではありません。

依然としてクリントン候補が優勢なのは変わらないです。メール問題再燃以前に事前投票している人も多くいます。米株価は確かに下落で反応していますが過剰反応かもしれません。ブレグジットの件があったばかりです、敏感になるのも無理ありません。

でも、もはやトランプ候補が当選することはテールリスクとは言えませんね。

長期投資家はこんな時も動じずにどっしり構えておけばいいんですが、トランプ大統領になったら市場がどう反応するか知っておいても損ではないでしょう。

以下は私がニュース等から収集した情報をもとに個人的な考えを書いているだけで、本当にこの通り市場が反応するとは限りませんのでご了承ください。

  トランプ大統領の影響

S&P500指数のさらなる下落

VIX指数が急上昇しています。つまり、オプションで株価下落のヘッジをかけている投資家が多いということです。

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以下はS&P500指数のチャート。

米株価は確かに9日連続下落なんですが、実は下落幅はそれほど大きくありません。

ぎりぎり200日移動平均直前です。

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ということで、VIX指数はトランプ大統領を予測しているかのような急上昇なのに株価がそれに連動していない状態です。マグマが溜まっている感じですね。

本当にトランプ候補が当選したら、株価がVIX指数に合わせにいく形で、S&P500はさらに下落すると思います。

ヘルスケアセクター上昇

トランプ候補はクリントン候補ほど、薬価抑制に積極的ではありません。

トランプ候補が当選したら、ヘルスケア銘柄は反発で反応する可能性が高いと思います。

最近特に下落が顕著なヘルスケア銘柄はファイザー(PFE)です。2016年度の業績予想を下方修正したことで大きく売られました。

直近の配当利回りは4.0%もあり、過去5年平均3.4%を大きく上回ります。

短期投資目的はなく、長期ホールド目的としてファイザーの投資妙味は高まっているように思います。トランプ大統領が誕生したら、ファイザー株価も上昇して絶好の買い場を逃すことになるかもしれません。

ヘルスケアセクター全体への短期的な上昇を期待するなら、XLVなどのETFがいいと思います。

 

米国債利回りの上昇

トランプ候補はクリントン候補よりも財政政策に積極的です。積極的なインフラ投資を実施すると言っています。

またトランプ候補はクリントン候補に比べて相対的に減税派です。クリントン候補は富裕層への課税を増やすと言っていました。

税収は減らすくせに、財政インフラ投資は積極的にするというのは矛盾を感じますが、本当にこれを実行するためには借金するしかありません。

ということで、トランプ大統領が誕生したら米国債は売られて、米国債利回りは上昇すると思います。

米国債10年物利回りは7月に1.36%という意味不明なくらいの低水準に落ち込みましたが、最近は1.8%くらいまで上昇してきました。個人的にはこれでもまだ債券バブルに見えますが。

トランプ候補が当選したら、米国債はさらに売られると思います。

   短期投資は悪ではない

長期米国株投資家は、このような市場のボラティリティが高いときにもビビることなく、ましてや株を売却するなんて愚行は絶対に避けて静観するのが正解だと思います。

20年後振り返れば、今の相場変動なんて平らな線にしか見えないことでしょう。

でも、投資戦略を長期投資1本に固執する必要もないと思います。短期投資にチャレンジするのも面白いと思います。

大事なことは、長期投資と短期投資をきちんと区別することです。

最悪なのでは、短期の投機取引目的で買った銘柄の株価が思ったように上昇しなかった途端「いやいや、これは実は長期投資だからまだホールドし続けるんだ!」と急に開き直ることです。

短期投機目的であれば、思ったように利益を確保できなかったらきちんと損切りすべきです。

逆に長期投資目的であれば購入直後に多少株価が下落したくらいで売ってはいけません。むしろ買い下がるべきです。

短期投資(投機)は決して悪ではありません。

私は勉強という意味も込めて、短期投資にもチャレンジしてみたいとよく思うのです。特にこういうボラティリティが高まる場面では。

でも生来のビビり性格が影響して(幸いして?)、結局いつも静観するだけです。