金が余って仕方がない、余った金をどうするかとは、庶民サラリーマンからしたら贅沢な悩みです。

このような悩みを常に抱えているのが米国の優良企業です。コカ・コーラやプロクター&ギャンブルなどの世界を代表する高収益企業ですが、これらの企業は常に多額の営業CFが入金されるため、カネ余りになりがちです。

昨今は低金利とは言えカネを無駄に社内に滞留させたり、無駄な投資に使ったりされると株主利益は棄損されます。

そこで、多くのキャッシュリッチな企業は配当金や自社株買いで株主還元を行います。

株主としては配当金よりも自社株買いの方が嬉しいことが多いです。

なぜなら、配当金には税金が即時に発生するけれど、自社株買いはキャピタルゲインとして課税を繰り延べることができるからです。

長期株式投資では、銘柄選択や投資タイミングと同等と言っていいほど税金が最終投資パフォーマンスに影響します。

シーゲル教授もバフェットも原則としては、余ったお金の使い方として自社株買いを推奨しています。バフェットは投資先企業に積極的な自社株買いを求める傾向にあります。

自社株買いは株価が理論株主価値を超えて割高なタイミングでない限り、株主利益にとってプラスです。それは間違いない。

税金を繰り延べることができる点で、自社株買いは配当よりも優位です。
これも事実です。

でも実は、自社株買いには配当金にはないデメリットが隠されています。

それは何でしょうか?

  配当と自社株買いの対象は?

先日、経理部財務部合同の研修がありました。そこでうちの会社の財務トップのCFOが最後の挨拶でこんなことを言いました。

「最後にみなさんに宿題があります。配当と自社株買いで対象はどう違うでしょうか? ちょっと自分で考えてみて下さい。」

最初は何を言っているのかよく意図がわかりませんでした。

寝る前にベッドでぼーっと考えていました。

そして「はっ!!」と思いました。

みなさん、弊社CFOの宿題の答えわかりますか?

 

配当金の対象

配当金とは配当権利確定日時点で株主名簿に記載のある人が対象です。まあ要するに既存のすべての株主です。

これは特に問題ないですよね。難しく考えすぎる必要はなく株主に配当を払うだけですから対象は既存株主です。

配当金の対象:既存株主

 

自社株買いの対象

自社株買いとは会社が自社の株式を市場から回収して、発行済み株式総数を実質的に減少させることで一株当たり利益を押し上げます。

一株当たり利益が上昇することで株価が上昇し、株主はキャピタルゲインを得ます。

さて、この自社株買いで恩恵を受けるのは株主だけでしょうか?

単純に考えると今株を持っている人が、株価上昇の恩恵を受けるだけと思いますね。

でも何か抜けていると思いませんか?

抜けているんです。

自社株買いをしたら恩恵を受ける人が既存株主以外にいるんですが、誰だかわかりますか?

 

 

 

ー考えてみてー

 

 

 

 

ー考えてみてー

 

 

 

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ー考えてみてー

 

 

 

 

ー考えてみてー

 

 

 

 

それは潜在株主です。言い方がくどいかな、つまりストックオプション保有者です。

ストックオプションを付与されているCEOや役員達は、自社の株を1円など決められた価格で購入できる権利が与えられています。株式報酬です。

このストックオプションの価値は当然株価が上昇すれば上がるのです。

つまり、自社株買いをして株価が上がれば既存株主だけでなく、ストックオプション保有者にも利益があるわけです。

自社株買いの対象:既存株主+潜在株主(ストックオプション保有者)

CFOへの答え

最初のCFOの質問に対しては、
「配当金は既存株主のみを対象にしているが、自社株買いは既存株主とストックオプション保有者を対象にしている。自社株買いの方が対象範囲が広い。」
というのが答えになると思います。

答えは教えてくれませんでしたが。。

  自社株買いは株主に悪影響!?

1,000億円分の配当金を株主に支払うと、既存株主全体に税引き前では1,000億円の利益がもたらされます。(配当落ちは無視)

では、1,000億円分の自社株買いをした場合はどうでしょう?この1,000億円はもちろん既存株主に恩恵がありますが、ストックオプション保有者にも恩恵があります。

株式マーケットが合理的であれば、自社株による一株利益の増加は潜在株主(ストックオプション保有者)への希薄化効果も織り込んだうえで、株価に影響するはずです。

これはトヨタ自動車の2016年3月期有価証券報告書の抜粋です。

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希薄化後のEPS(下段)の方が、若干ですが基本EPS(上段)よりも低いですよね。

これが自社株買いが既存株主に悪影響を与える具体的な数値例です。希薄化後の利益を織り込んで株価はマーケットで形成されます。

つまり、配当金なら1,000億円すべて既存株主のものになるのに、自社株買いをされたらその1,000億円の一部を潜在株主(経営者などストックオプションを付与されている会社幹部)にも横取りされるのです。

潜在株主に横取りされる金額の影響は微々たるものかもしれませんが、これが既存株主にとっての自社株買いのデメリットである点は間違いありません。

株主にとって税金が発生しない自社株買いの方が配当金よりも有利であると一般的には解釈されます。でも、必ずしも自社株買いの方が有利とは限らないということです。

自社株買いの課税繰延メリットと、自社株買いの潜在株主希薄化デメリットを天秤にかける必要があるということです。

課税繰り延べ 潜在株主希薄化
配当金 ×:繰延無し 〇:希薄化なし
自社株買い 〇:繰延有り ×:希薄化あり

だた普通は20%もの配当課税が繰り延べられる効果の方が大きいと思われるので、やはり自社株買いを配当金よりも選好すべきという判断は間違いないように思います。

自社株買いは正義です。自社株買いがEPSを向上させて一株当たり株主価値向上に貢献することは疑いようがありません。

しかし、自社株買いにはこのような既存株主にとってのデメリットがあるということを理解しておいて損はないと思います。

我々末端の個人株主が投資先企業の資本政策に口出しできるわけではありませんけどね。