上場企業は自社のリスク要因を投資家に開示する義務があります。どういうことが起こったら利益が大きく減少する可能性があるのか、そのリスクを投資家に説明します。

バイオ医薬大手アッヴィ(ABBV)の年次報告書にはこのような記載があります。

Any significant event that adversely affects HUMIRA revenues could have a material and negative impact on AbbVie’s results of operations and cash flows.

HUMIRA accounted for approximately 61% of AbbVie’s total net revenues in 2018. Any significant event that adversely affects HUMIRA’s revenues could have a material adverse impact on AbbVie’s results of operations and cash flows.

(和訳)

HUMIRAの収益に悪影響を及ぼす重大な事象が発生すると、AbbVieの経営成績およびキャッシュフローに重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

HUMIRAは、2018年のAbbVieの収益合計の約61%を占めました。HUMIRAの収益に悪影響を及ぼす重大な事象が発生すると、AbbVieの経営成績およびキャッシュフローに重大な悪影響を及ぼす可能性があります。


正直な開示で好感を持ちます。ま、書いてなくても投資家として警戒しますけどね。この注記にもある通り、アッヴィの売上高の60%以上は関節リウマチ薬の「ヒュミラ」という単一の医薬品に依存しています。

米国外ではすでに「ヒュミラ」の販売は落ち込んでいると会社は公表しており、今後の動向に注目しています(私はアッヴィの株主)。

先日、お医者様の読者さんからこんなコメントを頂きました。

私は医師ですが、(ヒュミラは)昔ほど使われなくなってますよ。バイオシミラーもそうですが、他のバイオが続々と出てきてますし、最近はいわゆる「飲むバイオ」も出てきてます。

こういう現場の声はとてもありがたいです。私は経理の現場しか知らないわけで、医療の現場なんて知る由もありません。経理の現場を知っていることで、株式投資で有利な点って意外とないんですよね。医療に詳しい人は、ヘルスケアセクターへの投資判断で有利だと思います。実際によく使っている医療機器のメーカーに投資するとか。

単一商品に依存しているというのは典型的なリスク要因です。

『バリュー株トレーディング レンジ相場で勝つ』には、ビジネス関連のリスクとして次のようなものがあると書かれてあります。

・海外の政治リスク
・単一商品リスク
・単一顧客リスク
・訴訟リスク
・環境リスク
・流動性リスク
・外国為替リスク

この7つのリスクの中の一角を占めるのが「単一商品リスク」です。

ただ、歴史ある製薬会社の場合、単一商品のリスクは本質的なリスクではないかもしれません。というのも、失敗した研究開発も含めてこれまでの蓄積してきた膨大な知的財産(特許)があり、それこそが競争上の強みだからです。それら特許を活用することで、アッヴィが「ヒュミラ」に変わる次の収益源を生み出せる可能性は高いはず。開発パイプラインは豊富です。

お気に入り投資本の一つ『千年投資の公理』には、こんなことが記されています。

例えば、スリーエムは文字どおり何千もの特許を使って何百もの製品を生産しているし、メルクやイーライ・リリーなどの大手製薬会社も同じだ。これらの企業は、長年数多くの特許を取っていて、しかも現在の特許製品がいずれ新しい特許製品に入れ替わっていくであろうことを、われわれは過去の体験からある程度確信することができる。

『千年投資の公理』より

とは言え、製薬業界に明るくない私は、本当にアッヴィが「ヒュミラ」に依存しない製品ポートフォリオを構築していけるのか予測できません。ましてや確信は持てません。もし10年後のアッヴィが今のファイザーのように多様な医薬品ポートフォリオを持つ企業に変貌すれば、現在の8倍台のPERはファイザー同等14倍前後まで引き上げられる可能性があります。

現在のアッヴィの株価は80ドル前後ですが、仮にPER14倍になると120ドルを超えます。アッヴィの今の低PERを割安と判断してよいのか、う~んこれは投資家次第だろうな。私にとっては割安ではない。リスクに見合った株価という印象。リスク認識は人それぞれです。

そう言えば、単一商品ビジネスと言えば、アッヴィよりもアップルではないでしょうか。アップルはiPhoneという単一デバイスが売上高の63%を占めます。関連するサービス売上まで含めると、その比率は70%を超えます。まあ、アップルのは特許切れという問題を抱える製薬会社とは異なるかな。。

単一商品に依存しているというリスク要因をどう考えるべきか。
悩むな・・。

自分の能力の輪の中にめぼしいものがないからといって、むやみに輪を広げることはしません 。

値付けができない限り、事業を買ってはいけない。事業をどう値付けするかを学び、あなたの能力の範囲内にある事業、外にある事業を知らなければいけない。

ウォーレン・バフェット

バフェット先生はこんなことをおっしゃっているわけですが、はっきり言って僕にとってはS&P500ETF以外はすべて「能力の範囲」だと言いたいです。わかりやすい飲料や食品企業のことだって、そんな詳しいことまで知らないし。最低限の財務データと過去のリターンをチェックしてるくらいです。ましてや製薬会社のビジネスの将来なんて全く予想できません。

こんな状態で個別株投資をやる資格あるんかなって思う時もあります。ただ、今からETFには戻れない。やっぱ個別株中心にしたいです。

個別株投資をすると、どうしても低PER銘柄や高配当銘柄に目が行っちゃうんですよね~。そういう銘柄のリスクを自分がちゃんと理解できてないから、えいや!で投資しちゃってる面がある気がします。まー、それで痛い目にあったらしゃーないな。とりあえず、ちゃんと分散はします。