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PL脳をぶっ壊すな! PLは経営者から投資家へのメッセージ

   

昨年、日本橋丸善で見かけた雑誌タイトルがキャッチーで目に付きました。これです。

なんか、ここ最近「ファイナンス思考」って言葉流行ってませんか。気のせいですかね。

ファイナンス理論が普及するのは良いことだと思います。かつて日本株式市場のバブルが崩壊した時、日経平均のPERは80倍近くあったそうです。株式の本源的価値なんてほとんど誰も理解せずに、「もっと上がるだろう」という根拠なき熱狂のみで買われていたのでしょう。そこをアメリカの投資銀行に狙われた。「株式は借金と違って利息がない。株式を発行して資金を調達すればタダで金を調達できる。」なんて言説が流布したとか・・。当時、まだ幼稚園児だった私には当時のバブル感は理解しようがありませんが。

今では企業の経営者、財務部門で資本コストの概念を知らない人はいません。株式の価値は将来キャッシュフローの割引現在価値の合計というのは、この業界にいる人にとっては常識です。

ファイナンスの知識が普及するのは嬉しいです。私もこのブログを通して、自分の知識・経験を少しでも還元できればという思いです。

ファイナンス思考はキャッシュフロー思考と言い換えることもできます。損益計算書(PL)の会計マジックに騙されることなく、しっかりキャッシュフローを見ようという発想があります。例の雑誌にも「PL脳をぶっ壊せ!」とありますよね。

確かにキャッシュフローを見ることは大事です。そこは異論ありません。ただ、「PL脳をぶっ壊せ!」という考えには私は反対です。PL脳も大事です。キャッシュもPLも両方大事。ここは会計士として強く言っておきたいところです。

幣ブログの「米国株銘柄分析」では
損益計算書(PL)

キャッシュフロー(CS)

貸借対照表(BS)

株主還元
という順番で財務データを紹介していますが、これは適当に並べているわけではありません。私なりに重要だと思うデータから順に並べています。やっぱり企業の財務諸表を見る時に、先ず見るのはPLですよ。売上高、粗利益、営業利益、純利益がどれくらいなのか、これらの過去の推移が気になります。

なぜ「PL脳をぶっ壊せ!」なんて言葉が出てくるのか。それは平成に多発した会計不祥事と無縁ではないと思います。米国のエンロン、ワールドコム、日本でのオリンパス、ホシザキ、LIXILなどの事例がぱっと思い付きます。これらは企業経理、会計監査の仕事の甘さであり、信頼を取り戻すために反省せねばならないことだと思っています。

こういった会計不祥事が会計の信頼性を損ねて、結果として偽りのないキャッシュフローを見ようという風潮を作り出した面はあると思います。

確かに、投資家として自衛の気持ちは必要です。監査済みの財務諸表とは言え100%ではない、不正確な利益かもしれない、しっかりキャッシュフロー計算書をチェックしておこうという心掛けは大切だと思います。

ただ、業界にいる者として言っておきたいのは、世の中の経理部・監査法人の99%は誠実に業務をこなしているということです。無限定適正意見の監査報告書が付いた財務諸表を、それほど疑って見る必要はないと思います。これからAIの支援を受けて監査の精度はさらに向上すると期待できますし。

キャッシュフロー経営、ファイナンス思考が流行っている感がありますが、PL脳も忘れないで欲しいです。PL脳はしっかり持ったうえで、キャッシュフローも見るということです。

なぜ、PLが大事なのか?

それはですね、PLは意図的に操作できるからです?

え、だからPLはダメなんだろ!?
経営者が意図的にPLを操作して投資家を騙せるからダメなんだろ?
こう思うかもしれません。

確かに、そのリスクはあります。それを防止するのがCFO、監査法人の役割ですが経営者が暴走したら誰も止められないのも事実。ただ、そうやって投資家を騙すために会計を操作する(つまり粉飾決算)のは例外です、もちろん。そうじゃなくって、投資家に自社の今の状態を正しく伝えるために会計を操作しようとします。

「操作」って言うと悪い表現に聞こえるかもしれませんが、現代会計はやはり操作できると言えます。特に2000年代初頭からの会計ビッグバン(連結会計、税効果会計、退職給付会計、金融商品会計、減損会計などの導入)を境に、経営者の意思や見積もり、予想が会計数字を動かすことが多くなりました。

たとえば、減損会計。100億円で工場を建設したら、30年以上かけてゆっくり費用処理していきますが(減価償却と呼ぶ)、そこで製造している製品の採算が取れなくなって生産停止になったらどうするのか。そうなれば、もはや30年かけてゆっくり減価償却なんて悠長なことは言ってられません。減損処理をして一気に簿価を落とします。減損をすると突然、最終損益が赤字になることもあります。それくらい大きなインパクトを与えます。

この減損処理をするかしないかの判断は、経営者の意図次第なところがあります。経営者が「もうこの事業は採算が取れない」と判断すれば減損するし、「まだ大丈夫だ」と思えば減損しません。もちろん、明らかの赤字事業であれば強制的に減損するよう監査法人が指摘しなくてはなりませんが。

経営者の意図がPLには反映されるという点が重要なんです。キャッシュフローには経営者の意図が全く介入しません。

利益は意見、キャッシュは事実。
こう言われます。

意見と事実、どっちが大事でしょうか。嘘偽りのない客観的な事実の方が重要という見方もあるかもしれません。確かにそれはある。でもね、意見も大事なんですよ。投資家として、経営者が今後の事業見通しをどう考えているかって興味ありませんか?

経営者が自分のメッセージを乗せて、意図的に数字を操作できる余地があるからこそ、PLにはキャッシュフローにはない価値を見出すことができます。

財務諸表の各項目は「経営者の主張」と言われますが、すべての財務諸表項目がそう言えるわけではありません。主張(つまり意見)と言えるのはPLとBSです。キャッシュフローはちょっと類が違います。キャッシュは意見ではなくありのままの事実です。

意見(PL)だけじゃ不安だから事実(キャッシュ)も見る、という発想が大事なのであって、意見(PL)はどうせ嘘ばかりだから無視して事実(キャッシュ)だけを見るという発想はちょっと危険です。懐疑心を持つこと自体は慎重で良いことですが、PL脳を完全にぶっ壊すのは止めた方がいいです。

投資とは将来に賭けることです。今の事業、これからの事業が将来どれくらいキャッシュフローを生むのかが投資家の関心事です。その事業展望にもっとも詳しいのはCEOです。そのCEOの意見が反映されているのがPLです。Z事業を減損処理したということは「投資家の皆様、Z事業は投資を回収することは無理そうです。ごめんなさい。」というCEOから投資家へのメッセージです。子会社Xののれんを減損したということは「かつて買収したX社の買収価格は高過ぎました。M&Aは失敗でした。投資家の皆様、申し訳ありません。」というメッセージです。

こういうメッセージがPLには含意されていますが、キャッシュフロー計算書には一切反映されていません。なぜなら、キャッシュフロー計算書は淡々と現金の流れを追っているだけだからです。

薬局PBM大手のCVSヘルスの2018年12月の純利益は▲6億ドルの赤字でしたが、営業キャッシュフローは+88億ドルと問題なく黒字。赤字の原因は2015年に買収した「オムニケア(Omnicare)」にかかるのれんを減損したためです。詳しい背景まで知りませんが、買収事業がうまくいかなかったのでしょう。

こういう決算書を見て「会計上は赤字だけど、営業CFはしっかりプラスだから問題ないな。」と思っていいか。どう判断するかは投資家次第ですが、「オムニケア」事業を減損処理したというCEOからのメッセージを、投資家として取り逃すのはもったいないです。減損した以上、オムニケアの事業は今後十分なキャッシュを生まないとCVS経営陣は判断したということです。それを考慮して、株価を判断する必要があります(まあ、勝手にマーケットが織り込んでくれますけどね)。

最近は会計処理も複雑になっているし、各社の調整後利益の定義も曖昧ですから、PLから目を背けたくなる気持ちは何となくわかります。やっぱキャッシュフローは単純でわかりやすいですからね。キャッシュは嘘をつかないという安心感もありますよね。キャッシュフローに注目するのは大いに結構だと思います。ただ、PL脳をぶっ壊すのはやり過ぎです。PL脳は捨てずに持っておいて欲しいです。

これからも米国株銘柄分析では、PLとキャッシュフロー両方の情報を載せます。ぜひ両方見て下さい。PLの純利益と営業CFに大きな乖離があったら、多分私がその理由を解説しているはずです(サボってなければ)。米国株投資を通じて少しでも会計の世界に触れてもらえると嬉しいです。

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