米国の優良大企業の財務データを見ていて驚いたこと、それはROEの高さではなく株主還元の積極さです。

これは本当にすごい。

特に自社株買い。

株主還元には配当金と自社株買いがありますが、配当金増額は積極的にはできないのだと思います。

米国企業の経営者は増配記録を意識している節がありますし、一度増配すると減配しにくいでしょう。

配当金は株主に税務負担を課してしまうことに対する配慮もあるのでしょう。

そこで機動的な自社株買いが活用されています。

米国の成熟企業は配当支払総額よりも自社株買いの金額が多いことが多々あります。

総還元性向(※)が100%を超えていることも珍しくありません。

※総還元性向 = (配当金 + 自社株買い) / 税引後利益

総還元性向が100%を超えているということは、稼いだ利益を全額株主に還元しているということです。

これが何を意味しているのか?

そのままですが、株主の利益は配当金と自社株買いがすべてだということ。

配当金はキャッシュがそのまま証券口座に入るので分かりやすい。

    自社株買いは地味に株価を上げる

では、自社株買いはどういう経路で株主の財布に恩恵をもたらすのか?

それは株価の上昇です。

自社株買いをすると、発行済み株式数が減少するので既存株主一株当たりの取り分が多くなります。
つまり一株当たり利益(EPS)が上昇して、株価が理論的には上昇します。

総還元性向が100%を超えているような利益の全額を株主に返還している企業の株価上昇というのは、そのほとんどが自社株買いに起因するものだと思っています。

市場期待の高まり(PERの上昇)や金利低下による株価上昇ではなく、純粋に企業ファンダメンタル的な理由による株価上昇は自社株買いによる影響が最も大きいはずです。

だって、利益を一切再投資しないのですから。

株価とは一株当たり将来配当の現在価値ですが、これは一株当たり利益(EPS)から推測されます。

一株当たり利益(EPS) = 税引後利益 / 発行済み株式数

自社株買いはこの分母の株式数を減少させることで、EPSを上昇させる戦略です。

利益を一切再投資しないということは、分子の税引後利益の増加は期待しにくいです。

でもね、分子を増加させることに拘る必要はないのです。

株主の目的は、企業の増収増益ではなくあくまでも一株当たりの株主価値の向上なのですから。

確かに分子である利益を伸ばしていく方が注目を浴びやすいし、「成長している!」感があります。

でもね、どちらでもいいんですよ、株主からしたら。

分子(利益)を増やすでも分母(株式数)を減らすでも、どちらでもいいから一株当たりの株主価値を増加させてくれれば株主は満足なわけです。

でも、どちらかというと自社株買いによって分母を減らす戦略の方が長期的には優位だと思っています。

なぜなら、投資家の注目が集まらず株価が無駄に高騰しないから

株価上昇には売上成長、利益成長が必須だと考えている残念な投資家は世の中に大勢います。

株価上昇には売上・利益成長が必要だと信じている残念な投資家の存在は、バリュー株投資家の味方です。

彼らは分子の利益成長にしか目が行っておらず、そういう成長企業の株を積極的に買って、地味に自社株買いをしているような成熟企業には目もくれません。

そこに投資妙味ありだ!!

自社株買いをして分母を減らすことで株価上昇を目論んでいる企業の株というのは目立たないため、買いが集まりにくいと考えられます。

株価が割安に放置されるなんて虫のいい話はないかもしれませんが、株価が高騰して割高な価格で株を買ってしまうリスクは少ないです。

自社株買いばかりしているような地味な成熟企業の株に密かにコツコツ投資している人が、最後に勝つのです。

そして、これこそシーゲル流株式投資の真髄なのです。