なるべく割安なタイミングで株を買えるに越したことはありません。割安なベストタイミングで買えないにしても、せめて明らかに割高な株価で投資しないように注意したいものです。マーケットはいつも合理的だから株価は割安でも割高でもないはずと思考停止にならずに、最低限のバリュエーション指標は確認した上で投資した方がいいと思います。

バリュエーションに関する指標の一つに配当利回りがあります。配当利回りは非常に参考になる指標ではありますが、これ一つで割安割高を判断できるものではありません。配当利回りの意味と特徴を正しく理解して、今後の投資判断に活かしていきましょう!

 

配当利回りの意味

配当利回りは以下の数式で計算されます。

配当利回り=(予想)年間配当額 / 株価

投資額に配当利回りを乗じた金額があなたが1年間で貰える配当金額となります。たとえば、配当利回り3%の株を100万円買ったら年間配当額は3万円となります(100万円×3%)。

株式会社は出資者たる株主から資金を預かって、その資金を事業で運用して利益を上げ、得た利益を株主に配当として還元することを使命とします。もちろん環境など社会に対する配慮、株主以外のステークホルダーへの価値還元は欠かせませんが、最終的に株主が儲からないと株式会社の存在意義はないと言えます。

株主の利益とは配当でしかありません。投資期間中の値上がり益(キャピタルゲイン)の実現も結果として株主の利益であることは違いありませんが、株価が上がるのは将来の増配期待が高まるからであってその価値根拠も配当です。キャピタルゲインの実現とは、株式売却に伴って将来の配当を前倒しでもらうようなもんです。

配当の多寡は株主最大の関心事です。企業の業績に私たち投資家は一喜一憂しますが、それは業績の好調不調が将来の配当水準を決定するからです。

株式のリターンは配当ですから、株価に対する配当金額が意味するところは大きいです。

 

配当利回り 使用上の注意点

配当利回りは重要な指標ですが、表面的な数字の高低だけで単純に銘柄の魅力度を判定できるものではありません。配当利回りが高ければ〇、低ければ×と単純に判断してはいけません。

配当利回りを見る上での注意点を確認しておきましょう。

 

配当利回りは将来の配当成長を無視している

配当利回り=(予想)年間配当額 / 株価 でしたね。

配当利回りの分子は年間配当額です。あくまでも今後1年間に受け取れると予想される配当金と株価を比較した指標が配当利回りです。2年目以降の配当は完全に無視されています

配当利回りを意識して投資する人は、長期的に保有することを前提に株を買う人が多いはずです。長期がどれくらいの期間なのかは投資家それぞれでしょう。10年、20年、あるいは子どもへの相続も含めて60年以上の投資期間を想定している人もいるかもしれません。

事情は人それぞれですが、1年で投資を終える予定の投資家がいないことは確実でしょう。あなたは株式投資の想定期間を1年間としていますか?そんなことありませんよね。何年投資を続けるか今はわからないでしょうけど、少なくとも1年で終えることはないですよね。

であれば配当利回りの高低に注目し過ぎるのは危険です。なぜなら、配当利回りという指標は翌年1年間の予想配当額しか反映されていないからです。翌年の配当が高ければ配当利回りは高くなりますが、2年目以降の伸びが小さいかもしれません。2年目以降の配当成長が配当利回りには反映されていません。

長期投資では、投資額に対する配当最大化を目指すことでリターンが高まります。きちんと毎年増配を続ける銘柄の株価は心配しなくても勝手に上昇していきます。

翌年だけでなく、2年目3年目、、10年目それ以降の配当水準がどうなるかも長期投資家にとっては大切です。来年1年だけの配当を最大化したければ、とにかく配当利回りが高い銘柄に集中投資すればいいでしょう。でも実際はそういうわけにはいきませんよね。半永久的に続く投資期間全体で見て配当が最大になりかつ、なるべくリスクを低減できるポートフォリオを組まなくてはいけません。

翌年の年間配当額だけに着目してはダメです。2年目以降どれだけ増配できるかも大事な観点です。配当利回りは将来の増配を無視しています。

(縦軸:配当、横軸:時間)

配当利回りは黄色の棒が示している翌年の年間配当と株価の割合を示しているに過ぎません。白色の棒で示した、将来の配当もきちんと意識しましょう。

高い配当利回りに誘惑され過ぎてはいけません。黄色の目先のキャッシュを求めたい感情は理解できますが、長期的な投資リターンを追求するのであれば、黄色よりむしろ白色が重要です。白色の将来の配当の方が配当総額に占める割合としては圧倒的に大きいです。

配当利回りが高い銘柄としてはAT&T(5.2%)やベライゾンコミュニケーションズ(4.5%)、IBM(3.9%)などがあります。これらの銘柄に投資することですぐにたくさんの配当を貰えます。これらの銘柄は上記グラフの黄色の棒が高い銘柄です。
(ちなみに、この3銘柄とも私の保有銘柄です。)

目先の配当を重視するなら、TやVZ、IBMに投資するのは正解なわけです。ですが、長期的な配当が多いかどうかはわかりません。TやVZなんてすでに配当成長率2%~4%程度の成熟企業ですから、今後もハイテク企業のような高い配当成長率は難しいでしょう。IBMは事業転換を進めている最中ですが、その構造改革が成功しなければ将来の増配は覚束ないでしょう。

目前の黄色だけに着目してはダメです。大事なのは黄色+白色です。将来も含めた総配当額が大きくなりそうな銘柄に分散投資しましょう。ただ、正解は誰にもわかりませんがね。あなたなりのポートフォリオを作るしかありません。

 

配当利回りは将来の減配リスクを無視している

上で述べたことと本質的には同じことですが、配当利回りは将来の減配リスクを無視しています。将来減配するかもしれなくても、今の配当さえ高ければ配当利回りは高くなります。

嫌ですよね、今配当はたくさん貰えるけど来年減配するような銘柄に投資してしまうのは。

(縦軸:配当、横軸:時間)

いくら直近の配当(黄色)が多くても、その翌年減配してしまっては高い投資リターンは期待できません。長期投資リターンは黄色だけじゃなくって、黄色+白色の配当総額を大きくすることが大切です。

ゼネラル・エレクトリック(GE)が11月半ばに金融危機以来の減配を発表しました。50%のカットです。減配直前のGEの配当利回りは5%超と高利回りでしたが、これはすでに減配を織り込んでいたためです。現在の配当利回りは2.7%です。

百貨店大手のメーシーズ(M)の配当利回りは6%弱あります。同じ小売業であるウォルマートやホームデポと比べてかなりの高利回りですが、この高利回りはメーシーズの将来の減配リスクを織り込んでいる可能性があります。アマゾンの脅威、また顧客の専門店への回帰の流れを受けて総合百貨店の業績は落ち込んでいます。

ただし、メーシーズのキャッシュフローを見るとそれほど減配が危ぶまれる状態には見えません。にもかかわらず、これほど利回りが上がるまで売られているということは、将来の減配ないし増配幅が小さくなるリスクをマーケットが感じ取っているということです。

 

特徴を理解したうえで、配当利回りを使い倒そう!

何でもそうですか、完璧な指標なんて存在しません。一つの指標だけで株価のバリュエーションを判断できたら誰も投資に悩んだりしません。色んな指標を自分なりの視点で分析して、納得して信念を持って投資を続けていくしかありません。

株式投資のリターンが配当である以上、配当利回りという指標は非常に重要な指標です。

ただ、上述したような欠点もあります。配当利回りは反映している時間軸が短期的過ぎます。直近の配当しか反映していないという配当利回りの特徴を理解しておきましょう。大事なのは長期的な配当総額を最大化することであって、目前の配当を最大化することではありません。

配当利回りはとても有益な情報を提供してくれる便利な指標ですが、その特徴をしっかり抑えた上で利用しましょう。

ところで、配当利回りなど配当関連の情報を収集する時は以下のサイトが便利ですよ。
Dividend.com