ウォールストリートジャーナル紙によると、投資銀行大手ゴールドマン・サックス(GS)とモルガンスタンレー(MS)の2社が割安で投資妙味があるとのこと。

(ウォールストリートジャーナルより)

金融銘柄のバリュエーション判断にはしばしばPBR(株価純資産倍率)が使われます。

金融機関は保有資産の大半を時価評価するので、バランスシートの簿価純資産が時価純資産と近似します。つまりPBRは1倍に近くなる性質があります。そこで、PBRが1倍より高ければ割高、低ければ割安という見方ができます。

無論、すべての資産負債が完璧に時価評価されるわけではないですからあくまで参考です。PBRが低いから即割安と判断できるわけではありません。ただ、金融銘柄のPBRには特別な意味があるということは知ってて損はないかなと思います。

GS、MSともにPBRは下がり気味です。両社とも1.1倍ほどです。

今年2018年はM&A市場が活況です。6月頃に「世界のM&A規模は上半期として歴代最高に達している。総額は2.5兆ドル。」という記事を日経で読んだことを覚えています。具体的な案件を挙げれば(審査中も含む)、AT&Tのタイムワーナー買収(850億ドル)、ウォルトディズニーの21世紀フォックス資産買収(710億ドル)、武田薬品工業のシャイアー買収(約700億ドル)、CVSヘルスの医療保険大手エトナ買収(690億ドル)などがあります。

このような大型M&Aは投資銀行のM&Aアドバイザリー収入を増加させます。

また、2018年は昨年に比べてボラティリティの高い相場となっています。長期金利も上昇してきました。ここ数日もハイテク株が急落するなど、慌ただしい状況が続いています。これも投資銀行に追い風です。

投資銀行には、企業に対してM&A等の高度なファイナンシャル・アドバイスを行う部門(いわゆる投資銀行業務)とトレーディング部門があります。高給なバンカーは徹夜で仕事をしているイメージがあるかもしれませんが、それは前者の投資銀行部門です。うちの会社もゴールドマンサックスと付き合いがあって一緒に仕事をしたことがありますが、「電話対応は24時間いつでも大丈夫です」と言われてぶったまげました。いつ寝てるんだろうか?

今年は投資銀行部門、トレーディング部門どちらにも追い風が吹いています。

にもかかわらず、PBR1.1倍になるのは割安ではないかというのがWSJの見解です。

なるほど、確かに割安かもしれません。

しかし、私は長期保有目的として投資銀行株は買わない方針です。

 

資本家、労働者、消費者、3者のパワーバランスを見て資本家有利な企業に投資したい。

長期保有に向く銘柄を選別する上で、一番大切にしているのは過去の財務データです。損益計算書、キャッシュフロー計算書、バランスシート、それから配当実績。

長期的には「株主利益=企業利益」に落ち着きます。無から有は生まれません。シンプルに収益力の高い優良企業の株をホールドし続けることが、長期投資の一般解だと思っておりそれを実践しています。

現在高収益体質を築いている企業は、これからもそれを維持し続ける可能性が高いです。

なので、定量的な財務データを大切にしています。

が、それだけではなくちょっと定性的な分析もします。分析と言うとオーバーですが、まあ自分なりに長期投資に向いている銘柄かあれこれ考えるってことです。

その分析の視点が「資本家 vs 労働者 vs 消費者」のパワーバランスがどうなっているかという点です。

私は株主ですから、資本家にとってもっとも有利な企業に投資したいです。

「どんな企業が資本家にとって有利だろうか?」と考えるとわかりづらいので、逆に「労働者が不利な企業、消費者が不利な企業ってなんだろう?」って考えます。

 

労働者が不利な企業とは?

労働者が不利な企業とは、低賃金で雇用される従業員が多いということです。従業員が高い賃金を資本家、経営者に要求できない企業です。

こう言うとブラック企業に投資するのか?
と思われるかもしれません。

別にそういう意味じゃないです。

従業員が高い賃金を請求できないのはなぜかと言えば、それほど高いスキルが要らない職務に従事しているからです。たとえばラインでの単純な組み立て作業や、配送作業などです。マニュアルさえ覚えて体が動くなら誰でもできる仕事。

それは従業員を大切にしていないという意味ではありません(そういう企業もあるかもしれないけど)。

低スキルな仕事でもビジネスが回るような稼ぐ仕組みを持っているということです。

個人も企業も稼ぐ仕組みがしっかりしていると楽です。不労所得的な感じです。IT大手はプラットフォーム型のビジネスを志向していますが、それは一度プラットフォームを作り上げてしまえば、それが自動でキャッシュを生んでくれるからです。

ビジネスを仕組化して人件費を抑えている企業、労働者の立場が弱い企業とは具体的にはどんな企業があるでしょうか?

ぱっと思い付くところではマクドナルドやアマゾン、ウォルマートがあります。労働者の仕事はほぼすべてマニュアル化されており、スキルの低い人でも仕事が務まります。

このような企業は労働者より資本家の立場が強いです。利益が伸びたら、それは大抵は資本家の懐に入ります。従業員にはあまり還元されません。それで従業員が不満に思って辞めたとしても、代替人材は簡単に見つかります。(最近は失業率が下がっているから、一概にそう言えるわけではないかもしれませんが)

 

消費者が不利な企業とは?

消費者の立場が不利な企業とはどういう意味でしょうか?

それはバフェットが言うところの「有料ブリッジ」を持っている企業です。向こう岸の村に行くためには、1つしか橋がない。その橋の通行料金はなんと1万円・・・。でも払わないといけない。だって他に手段がないから。泳いでいくわけにはいかないし。

「有料ブリッジ」またの名を「消費者独占力」またの名を「ワイドモート」。

色んな「有料ブリッジ」があります。
強いブランド力、スイッチングコストなど。

自分の実生活に落とし込んで考えると、スイッチングコストは高い「有料ブリッジ」だと感じます。他の製品に乗り換えるための金銭的時間的精神的コストが高い製品やサービスということです。

たとえばアップルのiPhone。iPhoneはブランド力も強みですが、スイッチングコストの高さも強みです。グーグルのピクセル3が高性能でオススメだ!って言われても、なかなか乗り換える気にはなりません。

それは私がアップルの大ファンだからではありません。Macユーザーでもないし。ただ昔からiPhoneを持っていて使い慣れているから、ちょっと機能が良いとかちょっと安い程度の理由で他のデバイスに乗り換える気力が出ません。だって面倒くさいもん。

バフェットは「iPhoneには粘着性」があると表現しています。

面倒くさいって結構大事な要素だと思います。顧客に面倒くさいと思わせる。そうして自社製品に縛り付ける。まあ、これは裏を返せばアンドロイドからiPhoneにスイッチさせることも困難ということでもありますが。

保険や預金口座も同じ類です。契約を見なすって超面倒です。「保険見直した方がいいかな~」と思ってもなかなか行動に移さない。そして気が付いたら10年経過していて、その間保険会社に貢ぎ続けていたなんてことは別に珍しい話でもないでしょう。

あとはブランド力というのも強い「有料ブリッジ」です。

コーラと言えばコカ・コーラです。どこのレストランも自販機もコカ・コーラを置かないわけにはいきません。コーラの中でもコカ・コーラを求めるお客さんがたくさんいるからです。よく知らないメーカーが黒い砂糖水を作っても絶対に受け入れられないでしょう(たとえ同じ味、同じ値段でも)。

 

こんな感じで労働者と消費者の立場が弱い、つまり資本家有利な企業に長期投資したいな~と僕は考えています。

 

ゴールドマンなどの投資銀行は労働者の立場が強すぎる。

投資銀行は高給で有名です。新卒で年収1000万円超えもあるでしょう。

なぜ高給かと言えば、それくらい専門知識がないとできない仕事ばかりだからです。あとは体力と気力、お客さんとのコミュニケーション力も要求されます。

M&Aはファイナンス知識の総合格闘技です。クライアントの信頼を得るためには、高い専門知識が必要不可欠です。いつも顧客ファーストで献身的な人であることも大切な要素です。

とあるモルガンスタンレーの有名バンカーは、副業でウーバーのドライバーをしていたそうです。本業で十分な給与を貰っているにもかかわらず。なぜそんなことをするのか。それは将来のウーバー上場の際に主幹事に指名されるためです。そのために顧客(ウーバー)の事をすべて知ろうと、わざわざ忙しい中ドライバーをやるわけです。これくらい仕事にコミットする人じゃないと、投資銀行の出世街道を駆け上ることはできないということでしょう。

投資銀行は、ほぼすべての従業員が超優秀でなきゃいけません。バックオフィス業務はそうでもないでしょうが、フロント・ミドル部門は優秀でなきゃ務まらないです。マクドナルドのようにビジネスを仕組み化することが困難です。

優秀な従業員を雇うために、資本家は譲歩する必要があります。つまり高給な条件を提示する必要があるということです。ハーバードやMIT出身者がゴロゴロいる世界です。

ゴールドマンやモルガンスタンレーなどの一流投資銀行は投資先として魅力的に見えるかもしれませんが、私は長期保有向きではないと判断しました。過去の財務データ、配当実績が悪いわけではありませんが、やはり長期的には、利益は株主ではなく高給な従業員(パートナー含む)に持っていかれるだろうと思いました。

そういう経緯で投資銀行は財務データのウォッチはたまにしていますが、投資を考えたことはありません。

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