コカ・コーラ社のIR情報を読んでいると、今まで見たことない文言にぶち当たりました。こちらです。

Full year purchases of stock for treasury were $1.9 billion. Full year net share repurchases (non-GAAP) totaled $442 million.

↓(和訳)

年間の自社株買い金額は19億ドルでした。年間のnon-GAAP自社株買いは4.4億ドルでした。

コカ・コーラ社のホームページより

???

え、「non-GAAPの自社株買い」って何?
んな言葉聞いたの初めてなんだけど・・。

聞いたことあります??

GAAPというのは”Generally Accepted Accounting Principles”の略で、日本語では「一般に公正妥当と認められた会計原則」となります。non-GAAPとはGAAPに沿っていないという意味です。つまり、会計基準と関係ないということ。

米国基準やIFRS(国際会計基準)を適用している企業は、調整後営業利益や調整後EPSといったnon-GAAP指標を開示していることが多いです。GAAPで計算される利益には、減損損失やM&A費用、訴訟費用など非経常的な項目が含まれていることが多々あるので、それら一時的な要因を排除した利益を独自に計算し投資家に開示しています。それを調整後利益、調整後EPSと言います。

投資家に自社の経常的な収益力を知らせることが調整後EPSを開示する目的です。それをどう利用するかは投資家の自己責任です。有益な指標ですが、過信は禁物。何を調整しているのかは10-Kレポートなどで要チェックです。

コカ・コーラ社も調整後EPSを開示しています。

Full Year EPS from Continuing Operations Grew 474% to $1.57; Full Year Comparable EPS from Continuing Operations (Non-GAAP) Grew 9% to $2.08, Impacted by a 4% Currency Headwind

コカ・コーラ社のホームページより


GAAPのEPSは1.57ドルだけど調整後EPSは2.08ドルと言っています。

PERを算出する時は調整後EPSを使った方が良いです。その方が翌期以降の利益水準と連続性があるからです。繰り返しですが、調整後EPSとは非経常的な損益項目を除外した利益です。ちなみに、GAAPのEPSを使ってコカ・コーラ株(KO)のPERを計算すると29倍にもなります。

調整後EPSという概念は身近です。投資家としてもよく見るし、うちの会社も調整後EPSを投資家に開示しています。私は毎決算、調整後利益の算定が妥当か時間を掛けてチェックしています。法定決算とは関係なく監査法人のチェックも入らないので、念入りにチェックしています。

non-GAAPの調整後売上高というのも見たことあります。買収などの一時要因を除外した売上高として計算することがあります。

が、non-GAAPの(調整後)自社株買い金額なんて聞いたことありません。このコカ・コーラのIR資料で初めて目にしました。自社株買い額が19億ドルで、non-GAAPの自社株買い額が4.4億ドル。この差の14.6億ドルはなんだ?

そもそも、「調整後」という概念は会計の世界に登場するものです。自社株買いって会計ではなくてファイナンス(キャッシュフロー)の世界に属するワードです。実際にお金を払って自社株をマーケットから買い戻すわけです。19億ドルの自社株買いをしたなら、その事実は一つだけで他にないでしょう。実際に19億ドルのキャッシュアウトが発生しているわけだし。

non-GAAPの(調整後)自社株買いって何だ!?
10年間会計の世界にいるけど聞いたことないぞ・・。

ググっても答えは出てきませんでしたが、同じコカ・コーラのIR資料内にヒントがありました。こんな文言があったんです。

Net share repurchases (non-GAAP): Share repurchases to offset dilution from employee stockbased compensation plans

↓(和訳)

自社株買い(non-GAAP):従業員への株式報酬による希薄化を相殺するための自社株買い

コカ・コーラ社のホームページより

ふ~ん、そういうことか。
なんとなく意味がわかったぞ。

non-GAAPの調整後自社株買いとは、買い戻した自社株から従業員や役員へ割り当てた自社株を差し引いた金額という意味でしょうか。そういうことかな。

自社株買いをすると発行済み株式数が実質的に減少するので、EPS(一株当たり利益)やDPS(一株当たり配当)が増加します。8等分だったケーキを4等分にすれば、一人当たりの取り分は増えます。ケーキ自体が大きくならなくても、人数が減れば自分の取り分は増えます。自社株買いってそういうことです。分子の純利益を増やさなくても、分母の発行済み株式数を減らせばEPSは増えて、既存株主のリターンは増えます。

逆も然りです。発行済み株式数が増えれば、既存株主の取り分が減ります。発行済み株式数が増えるのは一般的には増資した時です。しかし、増資以外でも株式数が増えることがあります。それが、ストックオプションを行使した時。役員や従業員が報酬として受け取ったストックオプションを行使すれば、行使者は安い価格(たとえば1円)で株式を買うことができます。会社にお金が入らないのに発行済み株式数が増えれば、EPSは確実に希薄化します。

自社株買いは株式数が減少するので、既存株主にはメリット。ストックオプション行使は株式数が増加するので、既存株主にはデメリット。

ストックオプション行使というデメリットを差し引いた後の自社株買い金額を、non-GAAPの自社株買いと表現しているのかな。私の解釈違いの可能性もありますが、コカコーラ社の資料を読む限りそう解釈できます。

non-GAAPの自社株買いか。そんな概念あるんだ。覚えておこう。