日本は労働生産性が低いとよく言われます。労働生産性とは時間当たりの付加価値です。1時間で1万円稼ぐよりも30分で1万円稼ぐほうが労働生産性は高いです。要はどれくらい効率的に働いているかってことですね。

日本生産性本部(公益財団法人)の資料によると、日本の時間当たり付加価値は47.5ドルで、OECD加盟国36カ国中20位とのこと。

■時間当たり労働付加価値
1位:アイルランド(97.5ドル)
2位:ルクセンブルク(94.7ドル)
3位:ノルウェー(82.3ドル)
4位:ベルギー(73.5ドル)
5位:デンマーク(72.2ドル)
6位:米国(72.0ドル)
7位:ドイツ(69.8ドル)
8位:オランダ(69.3ドル)
9位:スイス(68.0ドル)
10位:フランス(67.8ドル)
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20位:日本(47.5ドル)
21位:スロベニア(44.1ドル)
22位:ニュージーランド(43.2ドル)
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(ソース:日本生産性本部の統計資料

なぜ、日本の労働生産性は低いのか?

日本人は優秀ではなく仕事ができない奴ばかり?

いやいや、それはないと思います。むしろ日本人って凄く真面目で優秀。アウトプットの質も高いし、納期に遅れることもない。個人的な経験から言うと、欧米の方は人によってアウトプットの質にバラツキがあるけど、日本人はみな均質的に一定のクオリティを担保してくれる印象があります。

じゃあ、なんで仕事の質がそれなりに高いのに日本の労働生産性は低いのか。それは労働時間が長すぎるからだと思います。「労働生産性=労働付加価値 / 労働時間」なわけですが、いくら分母が大きくしてもそれ以上に分子が増えれば、労働生産性は小さくなります。算数の話です。

日本の労働時間が長いという件について統計データをググって探す努力はしません。そんなの見せなくても、実感としてわかりますよね。コンビニの24時間営業が最近問題になりましたけど、日本人の働く時間は長いです。うちの部署(経理部)も最近でこそ早帰りが浸透してきましたけど、ほんの数年前は月100時間の残業なんてザラでした(残業代貰えるから、嫌がっている人はそんなにいなかった気がする。私も含め・・)。

時間をかけたからって、それに比例してアウトプットの質は上がらないです。もはや、最後は本人の個人的こだわりに過ぎないことも多々あります。0→90まで作り上げるのに10時間かけて、90→95にするためにさらに10時間をかける。そして95→98をするためにさらに10時間かける。合計30時間で98のアウトプットが産出されるわけですが、それって本当に必要なのでしょうか。90のアウトプットで十分という判断もありでしょう。ケースバイケースですが。

10時間で90のアウトプットを作れば生産性は9(90÷10時間)です。30時間で98のアウトプットを作れば生産性は3.3(98÷30時間)しかありません。日本は後者のタイプでしょう。

この前、上司から深夜2時半にメールが来てて驚きました。「Hiroさん お疲れ様です。X事業の調整後OPが想定より高いのですが、何か特殊要因ありましたか?」って。しかも偉い人をたくさんCCに入れて。

もうねー、ビビりますわ。深夜2時ですよ。期末決算ならまだしも、普通の月次決算ですよ。深夜2時まで財務分析にリソースを割く意義が僕には理解不能です。やっぱ管理職になるような人は、みなそれくらいやる気があるものなのか。僕には無理だなー。経理の仕事は好きなんだけど、どうも上に上がりたい願望は起きないです。

最低限の水準をクリアしていれば、後はどこまで仕事の質にこだわるかは人それぞれだと思います。深夜まで仕事するのは勝手にやればって思います。ただ組織としてそれを全員に求めるのは良くない。でもそういう風潮、資本の圧力があるから、日本の労働生産性は低いのだと思います。

突然ですが、高還元銘柄は魅力的です

さて、突然ですが、(無理やり)株式投資の話に切り替えます。
一応投資ブログなので。

最近、配車サービス大手のリフトがNY市場に上場しました。ウーバーも後に続く予定です。画像検索サイトのピンタレスト、ビジネスチャットプラットフォームを運営するスラックも上場する予定です。これら勢いのあるIPO企業たちは、揃って赤字決算です。

まだまだ将来の投資を優先させて、現金を燃焼している企業です。まだ若い成長段階の企業だから赤字でも仕方ない面もあります。それを承知で投資する人が大勢いるからIPOが成立するわけです(最近は資金調達を伴わない直接上場も流行ってますが)。

こういった、現金燃焼企業に投資しようとは私は思わないです。

金を湯水のように使えばいつか必ず黒字化し利益は成長する。果たして、この理屈は正しいのでしょうか。確かにリフトもウーバーもドデカい設備に投資するわけでもないから、比較的黒字化しやすいとは思います。少なくともテスラよりは楽観視できます。ですが、莫大な投資に見合うだけのリターンが得られるかどうかはわかりません。

無配で事業にガンガン再投資する企業は、その投資額に見合うだけの利益成長を実現できるのでしょうか。「投資額×資本コスト」を超えるリターンを常に生み出せるのでしょうか?

どうだろうか。ケースバイケースですけど、そんなに簡単なことでないでしょう。利益を株主に還元していない以上、「嫌でも何かに金を使わねばならない」という暗黙の圧力もあります。

長時間労働だけど相応のアウトプットを生み出せていない日本の働き方と似ているかもしれません。たくさん金をかければ確かに事業は成長するだろうけど、投じた金額に見合うだけのリターンを効率的に生み出せるかどうかはまた別の話です。

逆に言えば、利益の大変を株主還元に回して事業再投資は控えめにしているからって、必ずしも利益が成長しないとは限りません。株主への高還元を維持しながら、EPSを成長させている企業もあります。

たとえば決済ネットワーク大手のビザ(V)。ビザは配当利回りが0.6%しかないから、低還元の成長企業だと思ってませんか。成長企業なのは正解ですが、低還元なのは認識誤りです。ビザは高還元企業です。FY14~FY18の総還元性向は100%。つまり、利益の全額を株主に返還しています。利回りが低いのは配当よりも自社株買いが多いからです。

これだけ利益還元しているにもかかわらず、ビザのEPSは同期間年率10%を超えるペースで成長しています。もちろん、EPSが急に2倍になるなんてことはさすがにないけど、資本を再投資せずにこれだけEPSを増やせるのは非常に効率的です。

株主目線で考えれば、効率性こそが重要なんです。いくら企業の利益の絶対額が増えようとも、そのために多額の資金が燃焼されていれば、必ずしも株主利益が増えるとは限りません。そういった株主資本の効率性は数字を見ればわかります。ROEです。ROEとは株主資本をどれくらい効率的に運用してきたかを示す指標です。ビザのROEは25%前後あります。日本企業が8%を目標としている中、優良米国企業のROEは平気で20%以上あるんですね。

時間をかけたからって、それに見合うほど仕事のアウトプットを質は上がらない。同じく、企業が設備投資やM&Aに莫大な金をかけたからって、それに見合うだけのEPS向上は実現できないことが多いです。

投資を渋って株主還元ばかりしている企業は成長力に乏しいと思われて、投資家は敬遠しがちです。今を時めくIPO企業などに魅力を感じる投資家が多いでしょう。

でも、繰り返しですが、大事なことは華やかさでも利益成長自体でもなく、利益成長の効率性です。いかに資本を有効活用して、株主の富を増やしてくれるか、これが投資家として関心のあるところですよね。もちろん、あなたが金銭利益以外の別の何かを株式投資に求めるなら話は別ですが。

高還元銘柄(高配当銘柄ではない)は長期投資対象として非常に魅力的だと思います。具体的には先ほど例示したビザの他、アップル(AAPL)やマイクロソフト(MSFT)も隠れ高還元企業です。今のハイテク大手には高還元銘柄が多いです。非常に優秀。高い投資リターンが期待できると思います。 あとはマクドナルド(MCD)とかね。MCDの還元っぷりは凄いですよ。あ、MCDは僕の中ではもはやハイテクセクターですw。

高還元の優良企業って定時でスパッと切り上げて帰るけど、仕事はきっちりしている優秀なビジネスパーソンって感じがします。サラリーマンとしても、投資家としてもこういう方向を目指したい。金儲けは効率的に。その代わり、金儲け以外のところでは非効率を楽しめる余裕を持ちたい。

最後に少し長いですが、『バリュー株トレーディング』という書籍から文章を引用して記事を締めようと思います。以下の配当性向は総還元性向と読み替えても問題ないと思います。

学者たちは、高い配当性向が低い利益成長につながると主張している。

確かに理論上は、配当性向の高い企業はそうでない企業よりも利益成長率が低くなると考えられる。より多くの利益を配当にまわせば、ビジネスに再投資できる利益は少なくなるからである。しかし、現実には極端なケースを除いて、こうしたことは起こらない。

(中略)

この検証結果は、留保利益の多くを再投資すれば将来の利益成長率は大きくなるという多くの関係者の見方を覆すものである。その見方は経営陣が利益の多くを配当や効率的な企業運営にまわすと、将来の利益の伸びは小さくなるという考えに基づいている。しかし、われわれの検証結果によれば、低い配当性向が将来の高い利益成長率につながるという見方は事実に反する。

企業の経営陣は資本を食いつぶすことがあるという現実を人々は考慮しておらず、この調査結果はその矛盾点を鋭く突いている。高い配当性向を維持するというプレッシャーを受けている経営陣は、留保利益を最大限に活用しようとしており、彼らは豊富なキャッシュのなかでぬくぬくしている企業とは基本的に異なる。高い配当性向は企業の経営陣に規律を植える付けることはあっても、将来の高い利益成長率をけっして損なうものではない。

『バリュー株トレーディング』より