読者さんから頂いたコメントへの返信は夜に書くことが多いです。仕事のお昼休みにブログをやる気はあまり起きないです。ただ、コメントを読むだけならお昼休みや仕事中でも可能です。仕事の息抜きにスマホいじることありますが、その時にメールボックス確認してます。コメントはワードプレスから自動転送されるので。

先日、読者さんのコメント読んで驚きました。お昼休み、オフィスのフロアから降りるエレベーターの中で読んでたのですが、「え!」って声が出そうでした。

クラフト・ハインツ(KHC)が36%の減配を行うそうです。

読者さんコメント

その夜、株価は▲27%と大暴落しました。

確かに最近株価は低迷していましたが、ケチャップなど有名ブランドを持つ食品メーカーでこれまで利益は安定してプラス。ディフェンシブ銘柄の一角です。そのKHCが減配。しかも、SECが会計処理を調査しているという報道まで・・。

KHCの過去の財務データを見てみてると、2017年12月期決算の営業CFがかなり落ち込んでいます。営業利益、純利益はプラスなのに営業CFは異様に小さくなっています。会計上の利益は出ているけどキャッシュは小さい、これは成長ベンチャー企業などに見られる典型的な怪しい財務諸表です。


営業利益より純利益が大きくなっているのは、税制改革関連の特別利益があったためです。

では、FY17のKHC銘柄分析記事で自分はどうコメントしていたのか?

とても気になりました。当時の自分が書いたことなんて覚えてないので。自分が書いたKHC銘柄分析記事を読みました。そこに、こんなことを書いてました。

FY17の営業CFとフリーCFが急落しておりフリーCFにいたってはマイナスになっています。これは年金基金への拠出と他一時コストによるもので、特に心配する必要はありません。本業は悪化していません。

Hiro


え、、

「特に心配する必要はありません」とか書いてるし。「本業は悪化してません。」とか書いているし。「年金基金への拠出」ってどういうことやねん?

KHCの決算内容なんて全く覚えてないので、もう一度10-Kレポートを確認しました。特にキャッシュフロー計算書を。

2017年12月期のKHCの営業キャッシュフローの構造は以下の通りです。ちょっと専門的です、すみません。

グラフにもした通りですが、純利益は109億ドルもあるのに営業CFは5億ドルしかありません。これには税制改革の一時要因が影響していましたが、それ以外の理由もありました。

「繰延べ法人税」で▲64億ドルもありますが、これは内容は明確です。税制改革絡みで特別利益を計上していますが、それはFY17に現金流入がない利益なので純利益から差し引きます。こうやって利益から非現金項目を調整することで営業CFは算定されます。

法人税の調整は納得、おかしくはない。違和感があるのが「運転資本の増減」で▲33億ドルものマイナスがあること。運転資本とは売掛金や棚卸資産、買掛金などです。運転資本が増えるとキャッシュは減ります。運転資本はどこの会社にもあるもの。「運転資本の増減」が営業CFをマイナスさせること自体はおかしいことじゃないです。

ただ、運転資本で33億ドルも営業キャッシュが減っているはちょっと違和感があります。何をしてるんだ。

主な要因は売掛金の増加でした。売掛金の増加によって営業CFに▲26億ドルの影響を与えています。振り返ると、FY16も売掛金の増加によって営業CFが▲20億ドルとなっています。

売上横ばいにもかかわらず売掛金が増えるということは、債権が回収できてなかったり、支払いサイトが伸びてたりしているということ。それが2期連続で起こっています。具体的に何が起こっているのか、これ以上は読み取れませんでした。

あと「その他」の▲16億ドルも無視できない規模です。10-Kレポートを読むと、「年金および退職後給付制度の拠出」という内容で15億ドルの支出があり、これが営業CFを押し下げていることがわかりました。

当時の自分もこれを見たんだろう。それで「これは年金基金への拠出と他一時コストによるもので、特に心配する必要はありません。」なんてことをブログに書いたんだろう。

甘かった。これ以上突っ込んで分析しなかったです。そもそもなぜ急に年金基金へ15億ドルも拠出してるんだ。年金財政が苦しかったからか。業績改善のためコスト削減を行っているこのタイミングで、なぜ年金基金へ15億ドルも差し入れたのか。

クラフトハインツのFY17決算は明らかにアラートを出していました。営業CFは前年比▲89%のわずか5億ドルしかなく、フリーCFはマイナスでした。しかし、私はそれを見逃していました。一時的なものだろうと踏んでいました。

会計上の営業利益は67億ドルでむしろ前年比プラスだし、粗利率も改善していることから本業は好調。ただタイムラグ(売掛金の回収タイミングと年金への前払い)で営業CFが一時的に減っているだけ。そう思ったんだろうな。ダメだ。甘かった。反省してます。

もっとシンプルに財務データを見ることが大事なんだと思いました。やっぱ営業CFが前年比で▲89%にもなっていたら、それはおかしい。いくら運転資本増加や年金関係でキャッシュが一時的に流出しているとは言え、急に営業CFが例年の半分以下になるなんて普通はない。うちの会社でもそんなことない。

バフェット銘柄だし伝統的な食品ブランドだし、何だかんだ言って業績は立ち直るだろうと思っていました。FY18はFY17の反動で営業CFが増えるだろうって踏んでました。甘かったです。分析ミスでした。

優良企業ばかり銘柄分析をしているものだから、ちょっと先入観を持ちがちです。「利益が大きく減ってるけど、どうせ特殊要因だろ」という先入観です。で、実際に税制改革などの特殊要因があることが多いです。特に最近は。でも、実際に業績が悪化していることだってあるかも、という前提をちゃんと持たないとダメだ。そう思いました。会計上の利益ならまだしも、キャッシュフローが低迷してたら素直に怪しまないと。

もっとシンプルかつ客観的に財務データを見るように心がけよう。今回のKHC減配を見てそう思いました。下手に会計知識があるもんだから、10-Kレポートの注記とか読んであーだこーだ特殊な会計処理を詮索しちゃいます。そういうテクニカルな内容を把握することも大事かもしれないけど、もっとシンプルに粗利率、営業利益(率)、営業CF、フリーCFの推移を見ることの方が大切です。

FY17のKHC決算は粗利益、営業利益は問題ないように見えるけど、営業CFは明らかに違和感がある。それを「どうせ特殊要因だろ」と思わずに、真摯に受け止めるべきでした。

初心を忘れず、基本的な財務データをしっかり追っていこうと思います。ゼネラルミルズやIBMなど業績に不安を抱いている銘柄がポートフォリオにあります。営業利益や営業CFが変調をきたしてないか、きちんと決算をウォッチしていきます。で、鼻っから永久ホールドを決めつけるんじゃなくって、必要な時は売却しないと。

売却って難しそうだな・・。ちょっと営業CFが落ちるくらいじゃ、売却の決断まではできなさそう。結局ホールドしそう。赤字転落や減配といった大きなイベントが起きるまで、なかなか売却できない気がする。そういう銘柄は多分含み損になっている可能性が高く、その損失を確定させるのが嫌だという心理が売却を妨げる気がします。

とにかく先入観を持たず、銘柄に愛着を持たず、客観的に数字をチェックして必要な時は売るように努力する。あと、今更だけどしっかり分散投資します。

FY17のKHC銘柄分析の内容はクソでした。もう少し客観的に数字を見るようにします。

(参考記事)
KHC銘柄分析