基軸通貨は英ポンドから米ドルに移行して100年ほど経過している

基軸通貨という言葉があります。基軸通貨とは、国際金融取引や貿易決済において中核的な役割を果たす通貨のことです。平たく言うと、世界中で広く使われている通貨ということですね。現代の基軸通貨は米ドルですよね。

19世紀半ば頃から基軸通貨はイギリスのポンドでした。ロンドンが国際金融センターとして発展していたし、軍事力経済力ともに強かったイギリスの通貨ポンドが基軸通貨として機能していました。しかし、アメリカやドイツの工業化の波に押されてイギリス経済は段々と衰退していきます。第一次世界対戦(1914年~)が大きなきっかけでした。膨大な戦費調達で財政は圧迫され、金本位制も放棄しました。この頃、金保有量は圧倒的に米国の方が多かったです。

第二次世界大戦後のブレトン・ウッズ協定において、事実上、米ドルが基軸通貨となることが決定的となりました。ブレトンウッズ協定では、米ドルを中心とする固定為替相場制を国際通貨体制とすることが決まりました。金1オンス=35ドルという交換比率を決め、米ドルを唯一の兌換通貨としました(金本位制)。この金本位制は1971年のニクソンショックまで続くことになります。

事実上ブレトンウッズ体制になる前からポンドは衰退していたので、米ドルは基軸通貨になってから100年ほどは経過していると見てよいでしょう。そんな感じで、現代の基軸通貨は米ドルです。

 

基軸通貨ドルの本当のメリットとは?
→米国は紙幣を刷ることによるインフレを他国になすりつけることができる。

ところで、基軸通貨のメリットってなんでしょうか?

アメリカは基軸通貨ドルを刷れることで大きな経済的メリットがあると言われます。フランスのシャルル・ドゴール大統領は、アメリカの米ドル発行権を「法外な特権」だとかつて語りました。

でもさ~、基軸通貨を持つことの具体的なメリットってイマイチわからないと思いませんか?

紙幣を自由に刷れることがメリット?
でも、今はどこの国も管理通貨制度だから中央銀行は自由に紙幣を刷れます。現に日銀はバンバンを円を刷っているし、ECBはユーロを刷っています。金融引き締め姿勢の米FRBはむしろドルの流通量を抑える方向に向かっています。別にドルではなくっても各国、自国通貨を刷っています。

基軸通貨ドルを刷れる利権として、よくこう言われることがあります。
「世界の貿易取引は大半が米ドル建てである。原油取引も米ドル建て。つまり、米国はサウジアラビアから原油を買いたいと思ったらドルを刷ればいいのだ。基軸通貨であるドルを自由に刷れるということは、世界中から自由に商品を買えるということだ。こんな特権を持っているのはアメリカだけだ!」

この意見について、あなたはどう思いますか?
本当にこれが基軸通貨ドルのメリットだと思いますか?

私は同意できません。

米ドルを刷ることで世界中から原油でも資材でも購入できるのは事実です。でも、それはアメリカだけの特権じゃありません。日本だって円を刷れるんですから。原油が米ドル建てだとしても、原油がたくさん欲しいなら好きなだけ円紙幣を刷って、それを米ドルに両替えして原油を買えばいいじゃないですか。日本だって管理通貨制度なんだから、テキトーに日銀券を刷ってそれをドル紙幣と交換すれば原油でも何でも輸入できますよ。

だから、米ドルを刷れることで世界中から原油などを購入できるというのは、基軸通貨ドルのメリットだとは思いません。国際為替市場が成立する主要通貨(ドル、ユーロ、ポンド、円など)であれば、どの通貨であれ米ドルに両替することで、世界中から物を購入することができるのですから。

 

じゃあ、基軸通貨ドルを発行できることのメリットって一体何なのでしょうか?

僕の個人的意見ですが、基軸通貨ドルを刷れることの本当のメリットはドル紙幣発行に伴うインフレを他国(米国外)に輸出できることだと思います。

先ほど、通貨を刷ることでサウジアラビアから原油を購入することができると言いました。それは事実です。でも、世の中そんなに甘くないです。紙幣を刷るだけで、ただで物を手に入れれるほど世の中甘くないです

確かにドルでも円でもユーロでも、紙幣を刷れば世界中から商品を買うことができます。でも、紙幣発行には副作用があります。それは通貨価値の下落(=インフレ)です。そりゃそうですよね。円をたくさん刷って世の中に日銀券が溢れかえったら、円の価値は落ちますよね。量が増えると希少価値は減ります。

子どもの頃、遊戯王のカードゲームが大好きでした。青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)とかブラックマジシャンとかのレアカードがあるのですが(古い話で申し訳ない・・)、レアカードがレアたる所以は流通枚数が少ないことです。滅多に友達が持ってない強いカードだからこそ希少価値が出るんです。量が増えてしまえば、どれだけキラキラしたカードでも希少価値はありません。それと一緒で、通貨も世の中に流通する量が増えれば価値は下がります。

サウジアラビアから原油を買うために紙幣を刷りまくると、貨幣価値が下落してインフレが起こります。物価が上昇します。通貨価値と物価はコインの裏表です。通貨価値が下がるってことは、物価が上がるってことです。紙幣を刷るということは、インフレを通じて国民全員に負担を課すことを意味します。紙幣を刷っても、ただでサウジアラビアから原油を買えるわけじゃありません。国民全員にインフレという負担を強いて原油を買っているだけです。紙幣発行はフリーランチじゃありません。

円を刷りまくって原油をたくさん輸入したら、日本の物価が上昇して日本国民の生活が苦しくなります。
ユーロを刷りまくって原油をたくさん輸入したら、ユーロ圏の物価が上昇してユーロ圏住民の生活が苦しくなります。

では、アメリカはどうでしょうか?

アメリカが米ドルを刷りまくってサウジアラビアから原油をたくさん輸入したら、アメリカの物価が上昇してアメリカ国民の生活が苦しくなりなるでしょうか?

たしかにドル紙幣を刷る以上、ある程度アメリカ国内の物価は上昇することになるでしょう。しかし、アメリカの場合は米国内インフレは限定的なはずです。ドル紙幣をたくさん刷った割にインフレは起きないはずです。なぜなら、米ドルは基軸通貨だからです。

ドルが基軸通貨ってことは、ドル建ての経済圏は米国内だけじゃありません。国際貿易の決済通貨がドルであり、世界のエネルギーを賄う原油の取引通貨がドルなわけです。ってことは、ドルの価値の減価は世界的なインフレ要因になるということです。米ドルを刷って(インフレで)迷惑を被るのはアメリカ国民だけじゃありません。米ドル建てで取引をしている全世界の住人が物価上昇という被害を受けます。

通貨供給量を増やすことでインフレが起こりますが、それは国家という縛りがあるわけじゃありません。国家という地理的な縛りは関係ありません。その通貨を使用している経済圏か否かという点が重要です。仮に韓国で日本円が流通していれば、日銀が輪転機を回せば日本だけでなく韓国もインフレになります。

米ドルは基軸通貨です。世界中の国が金融取引、貿易取引で当たり前のように米ドルを使っています。ということは、FRBが輪転機を回したら、米ドルの通貨価値下落に伴うインフレはアメリカ国内に留まることなく、世界中に波及するということです。

これが、基軸通貨ドルを刷れる米国の「法外な特権」の正体だと私は考えています。

半端ない特権ですよね。
「人のふんどしで相撲をとる」って感じです。

思い出して下さい。リーマンショックの際にFRBは政策金利をゼロ近辺まで下げた後、QE政策と称して2兆ドル以上の米ドルを市中経済に供給しました。米国債やMBS(住宅ローン担保債券)を爆買いしました。

で、不思議に思いませんか?
これだけ大量にドル紙幣を刷ってドルの供給量を増やしたのに、アメリカで深刻なインフレになりましたか?

なってないですよね。普通に考えればドル供給量がこんだけ増えたら、米ドルは減価して物価は上昇しますよ。でも2010年からのアメリカのインフレ率は2%前後をキープしています。近年はむしろ低インフレに悩んでいるくらいです。

なんでQE政策でジャブジャブに米ドル紙幣を刷ったのに、アメリカではインフレは起きなかったのでしょうか?
米国経済が復活しているところを見ると、経済回復に寄与するくらい金融緩和はできていたようです。それくらいドラスティックに資金供給したのに、どうしてインフレは起きないのでしょうか?

米国経済が成長して、米国内でのドル需要が拡大したこともあるでしょう。でも、それだけじゃありません。アメリカはインフレを他国に輸出したんです。だから、アメリカ国内でそれほどインフレ起きなかったのです。2兆ドルも紙幣を刷ったからには、米ドル紙幣の価値は減価しています。でもアメリカ国内でインフレが起きなかったのは、ドルは基軸通貨だから通貨価値の下落影響を広く薄く他国にばら撒くことができたからです。

通貨とは本源的価値がなく、他の通貨との相対評価しかできません。通貨に対する需要と供給のバランスで通貨の相対価値は決まります。米ドルは基軸通貨だから、需要が米国外にもあり馬鹿でかいです。だからドルの供給を増やしても簡単にはオーバーヒートしません。


ドルは基軸通貨でドル建て取引規模が巨大(需要が多い)なので、供給量を増やしても需給のバランスが崩れにくい。

 

やっぱり、基軸通貨ドルを刷れることの米国のメリットはめちゃくちゃ大きいと思います。ビットコインなどの仮想通貨が将来普及するかもしれません。それは、アメリカが基軸通貨ドルを捨てることを意味します。果たして、そんなことあるのでしょうかね。

僕は・・あり得ると思っていますよ。