我が信条

我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する。

(中略)

我々の第二の責任は全社員ー世界中で共に働く男性も女性もーに対するものである。

(中略)

我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。

我々の第四の、そして最後の責任は、会社の株主に対するものである。

ジョンソン&ジョンソン ホームページより

ジョンソン&ジョンソンは時価総額世界トップの総合ヘルスケア企業です。米国株で長期投資を考えるときには、個別銘柄として真っ先に名前が挙がる超優良銘柄です。

ジョンソン&ジョンソンのコア・バリューとして掲げられているのが「我が信条(Our clude)」というものです。経営理念ですね。

ジョンソン&ジョンソンにとっての優先はこうなっています。
①顧客
②従業員
③社会
④株主

株主利益は最後、、みたいですよ、、、J&J株主のそこのあなた。

でも大丈夫ですよね、J&Jが高い株主利益をもたらしてくれていることは、投資家であるあなたには明白なはずです。

 

 

アメリカと言えば資本主義の権化みたいな印象で、常に株主利益ファーストという印象があるかもしれません。低金利を利用したここ数年の自社株買いの規模はかなり大きいものでした。「自社株買いばかりするな!、きちんと未来に投資しろ」という声もチラホラ聞こえてくるほど。

確かに、良いか悪いか米国という国家は国の法制度としても、文化レベルの企業体質としても株主利益を尊重しています。株主利益を守ることが、長期的な米国の国益に繋がると米国のエリート層は考えています。だから長期投資対象として米国株は大変魅力的なんです。株主利益を棄損しないためのコーポレートガバナンスがしっかりしています。

ただジョンソン&ジョンソンみたいなトップクラスの収益性を誇る企業になると、こんな「我が信条」みたいなカッコイイこと言えるわけです。「私達は株主ファーストではありません!」と宣言できる余裕感。それでも多くの機関投資家、個人投資家がジョンソン&ジョンソンに投資しています。

コンプライアンス違反して大赤字に転落するような、我が国のどっかの企業がこんな「我が信条」なんて掲げていたら失笑もんですが、ジョンソン&ジョンソンならこれを掲げる資格がありますよね。

ジョンソン&ジョンソン自身が言うまでもなく、そもそもの株式会社制度の仕組みとして株主利益の優先度は最下位です。

売上高から売上原価を引いて粗利益となります。そこから社員への給料や銀行への利息、マーケティング費用、研究開発費用などを差し引いて税引き前利益となります。そこから国への税金を差し引いて、純利益(Net income)となります。

株主にとっての利益は、売上高からすべての費用を差し引いて残った純利益です。これが配当原資です。決算発表ではEPSに注目が当たりますが、EPSとは一株当たりの純利益です。EPSとは純利益を発行済み株式数(平均)で除した数値です。

調整後EPSは一時的な損益のブレを排除した本業の儲け示す数値として重宝されます。

米国企業はこの調整後EPSという利益を勝手に定義して、これをメインに投資家に説明するケースが多いです。調整後EPSとは減損とか訴訟費用など普段の事業活動では発生しないイレギュラーのコスト(ないし収益)を除いた数値です。

最近、欧州連合当局は自社のショッピング広告を不当に優遇したとして、グーグルに対して約3000億円の制裁金を課しました。こういう一時的な費用は、調整後EPSから除かれます。グーグルの決算資料を見てないので、実際どうなっているかまでわかりませんが。

そういう一時的な費用を除いた利益を投資家に報告するのは、それはそれで有益なことです。投資家は本業として儲かっているか、儲かっていないのをシンプルに理解できますから。

投資とは企業の未来を予測し妥当な株価を探ることです。将来キャッシュ予測の元になるのは、現在の業績です。その業績に一時的なコストが含まれていたら、投資家は未来予測を誤るかもしれません。

ただ忘れてはならないのでは、そういう一時的な性質である制裁金も訴訟費用も減損損失もぜ~んぶ株主の負担だということです。

何か悪いイベントがおこった時、そのコストを負担するのは株主です。グーグルがEUから制裁を受けても、従業員や顧客は関係ありません。それで社員の給料が減るわけでもないでしょう。すべて株主の負担です。一義的には株価が下落することで、株主の財布は痛みます。

どんな費用であれ、会社にとっての費用とは株主が負担する費用です。原材料の購入代金、製造ラインの機械の減価償却費、研究開発コスト、従業員への給料、利息、すべて株主の負担です。株主にとっての収入は基本は「売上高」のみです。売上高という収入で、諸々発生するコストを全部カバーして利益を残さなくてはなりません。

株主は、事業活動の最後の最後に残ったお金のみを貰える立場です。社員や銀行は必ずお金を貰える立場ですが、株主はもしかしたらお金を貰えないかもしれません。純利益がマイナスとは株主までお金が残らなかったということです。

株主はもしかしたらお金を貰えないかもしれない、、、だから株式はハイリスクです。債券よりも株式の方がハイリスクです。株主にどれくらいお金が残るかは不確実です。不確実性=リスクです。

 

 

株主は最後に残ったお金を貰えるのみです。売上収入が、ゴールである株主のお財布に辿り着くまでには数々の関所があります。サプライヤー、社員、国家など彼らが株主よりも前にお金を奪っていきます。

少なくとも短期的には、株主とサプライヤー・社員・国家の利害は対立します。

サプライヤーへの仕入れコストを下げれば、サプライヤーには損で株主には得です。
社員への給料を下げれば、社員には損で株主には得です。
節税すれば、国家には損で株主には得です。

株主利益ファーストの米国では、業績好調でも簡単にレイオフするし、アイルランドに本社移転してまで節税します。それは株主利益を考えての行動です。

ジョンソン&ジョンソンも普通にレイオフします。昨年は医療機器部門で3000人近い人員削減を実施しました。レイオフすることが株主利益に適うというジョンソン&ジョンソン経営陣の判断です。

簡単に社員のクビ切ってるじゃん!
何が「我々の第二の責任は全社員・・・」だよ、何が「我が信条」だよ、嘘っぱちかよ!って思うかもしれません。

そうではないです。
不要な部門をリストラして、社員を解雇するからって社員を大切にしていないという意味にはなりません。

米国は雇用の流動性が高いのもあって、こういう社員のレイオフは日本よりは一般的です。収益性が悪い部門まで抱え続けて、窓際社員の人件費を垂れ流し続けることが社員を大切にするにことになるでしょうか?
より活躍できる他の会社に移ってもらう方が、J&Jにとっても、その社員にとっても、また社会全体の労働力配分としても望ましいはずです。

ジョンソン&ジョンソンは、会社のために働く場所がある社員には高給で報いています。

医師や看護師などの顧客などにも高い価値を提供しています。それは同社の売上高を見れば一目瞭然です。売上高とは顧客に与えた価値を数値化したものだと言えます。

ジョンソン&ジョンソンの業績推移です。
売上高は700億ドルもあります。

 

ジョンソン&ジョンソンの凄いところは、株主利益の優先度は最下位だと宣言しておきながらも、その株主利益もしっかり向上させていることです。

過去10年のDPS(一株当たり配当)です。

綺麗に年々増配していることがわかります。

株価も右肩上がりです。
過去5年の株価チャートです。

 

 

ビジネスってきれいごとだけではないです。既存の既得権益システムの恩恵を受けて利益を享受している人もいるでしょう。顧客に知識がないのをいいことにぼったくり的なビジネスをやって儲けている人・企業もいます。

でも、結局長期的に生き残って社会に価値を与え続けることができる企業は、きれいごとを言える企業だと思います。その余裕がある企業。

いかにお客さんに価値ある製品を届けることができるか、世界の人の健康と命をいかに低コストで守ることができるか、こういう価値提供にとことんフォーカスしてそれを「我が信条」と言っているような企業には長期投資する価値があると思います。

長期投資では株価が割安か割高か、投資家期待が高いか低いかよりも、「永続して利益を上げ続けることができるか」という点がより重要だと考えています。

20世紀後半に株主リターンが高かった銘柄群はすべて、この「永続して利益を上げ続ける」という条件を満たしていました。21世紀になってその条件が変わる理由はありません。長期投資では、50年後も社会に価値貢献し続けていると思える銘柄を選ぶべきです。

ジョンソン&ジョンソンへの長期投資は大変有望だと確信しています。
(私は今のところ、投資していませんが。)