私は投資家です、、一応。株を持っています。2400万円という少なくないお金を米国株に投じています。ただ職業として投資家という自覚はあまりないです。同僚に「Hiroさんは投資家やろ」って言われてたら、面倒だから「あ、うん、まあね」って答えるけど、あんまり実感がないのが本音です。

投資って言葉を聞くとパッと思い浮かべるのは、大きな工場を建設したり機械を購入したりといった設備投資です。ちょっとダイナミックなイメージがあります。でも、株式投資は違います。ネット証券でポチッとクリックするだけ。初めて株を買ったときはめちゃくちゃ緊張したけど、慣れちゃえば口座間の資金移動くらいの気軽な作業になってきます。

表面的には金融商品としての株を買っているだけだけど、株を持つとは企業の所有者になることです。その企業が事業発展のために投資を行っているんだから、私たち株主は間接的に投資活動を行っていると言えます。

言えますが、、やっぱり実感がない。

なぜか?

先ずあるのが、私が投資している大手飲料メーカーやタバコ会社などはほとんど設備投資をせずに、稼いだ利益の大半を配当として株主に還元しているという点です。それだけとやはり「投資」って感じがしない。株主として間接的に投資活動を行っているという感覚にもならない。

あともう一つ大きな理由としては、私たちが株を買うのが流通市場という点です。あなたが今コカ・コーラ株を100万円買ったとしても、コカ・コーラ社には1円たりとも流入しません。購入資金が旧株主に渡るだけです。旧株主と新株主の間のお金のやり取りでしかなく、企業は登場しません。株を買った資金が企業に流入するのは、企業が新株を発行してそれを引き受けた時だけです。

流通市場だろうが発行市場だろうが、株主として企業のビジネスリスクを負担する点は変わりません。資金フローは違いますが、両者の経済的意義は同じだと思っています。が、実感としては発行市場で株を買って、自分のお金が実際に企業の銀行口座に入った方が投資しているな~という実感は持てる気がします。新株を引き受けた経験は一度もないけどね。

多分これからも発行市場で新株を買うことはないと思います。なんせ、私は成熟した大型企業ばかりに投資してますから。IPOに応募することも考えたことないし。

コカ・コーラやジョンソンエンドジョンソン、ウォルマートなど営業キャッシュフローが安定している成熟企業が、今後新株を発行する可能性は限りなくゼロに近いと思います。これら企業が直近で新株を発行したのはいつでしょうか。ちょっとわかりません。

成熟企業が新株を発行しない理由は主に2つあります。1つ目が本業で十分なお金を稼いでいること。2つ目がどうしても資金が必要な場合は負債での資金調達を優先することです。

基本的に既存株主も経営陣も新株発行を嫌がります。なぜなら、EPS(一株当たり利益)が希薄化するからです。もちろん、調達した資金でしっかり稼いで、分母の株数増加以上に分子の利益が増えればEPSは希薄化しません。増資=EPS希薄化というわけではありません。しかし、そのリスクはあります。リスクを嫌って株価が下落するのは一般的です。

株価が下がるってことは当然ながら既存株主は嫌がります。株価が下がるのは嫌ですよね。。ストックオプションを保有している経営幹部も自身の報酬が下がるから嫌がります。win-winならぬlose-loseです。増資はなるべく避けたいもの。ましてや今は低金利時代。どうしても資金が必要なら、安いコストで社債でも発行すればいい話です。希薄化リスクを負ってまで優良企業が新株を発行する理由はありません。

つまり、長期投資対象に選ばれるような優良企業の株を買う機会は流通市場にしかないということです。

そもそも、株式市場に上場する目的は資金調達です。最近はスラックやスポティファイなどダイレクトリスティング(直接上場)をする企業も見られますが、ああいうのは例外です。上場する一番の趣旨は不特定多数の投資家から多額の資金を集め、その資金を活用して事業規模を拡大させることです。

新株を発行して資金調達をしないのにNY市場に株を上場させておく意味はあるのでしょうか?

私たちがコカ・コーラ株、ジョンソンエンドジョンソン株を買えるのは、これらが上場株だからです。非上場株だったら普通はアクセスできません。なぜ、コカ・コーラ株は上場しているのか。新規に資金調達する意思なんてもはやないにもかかわらず。

これは積極的な理由はないと言えるでしょう。上場せざるを得ないから、仕方なく上場し続けていると言ってもいいかもしれません。現在のコカ・コーラ社の時価総額は25兆円ほどあります。この25兆円相当の株を誰かが持たなきゃいけません。私はこのうち130万円ほどを持っています。ほん~の少数株主ですが、コカ・コーラ社の一部を所有しています。

誰かがリスクを取らくてはいけません。株主なんていてもいなくても関係ない存在と思われがちです。ホンマ存在感ない。特に日本では邪険に扱われがち。「株主ばかり儲けてけしからん!」なんて言われる始末です。

でも資本主義経済では誰かが株主になって事業リスクを負担しないといけません。企業の所有者は必要不可欠です。普段は目立たない裏方だけど。

だから時価総額25兆円もあるコカ・コーラ社は上場せざるを得ない。だって、25兆円相当のリスクマネー(資本)を負担してくれる人を見つけるのは容易ではありませんから。MBOしようたって誰がそれだけの大金を出せるでしょうか。ジェフ・ベゾスが全財産投じても一人じゃ無理ですよ。コカ・コーラ社は株式を公開して不特定多数から資本の担い手を見つける他ありません。

大きくなり過ぎると、もはや上場する以外の道はありません。資金調達のための上場ではありません。何と言うか、資本の担い手を確保し続けるために上場している感じです。

だから、投資してるって実感が湧かない。テスラに投資するのと、コカ・コーラに投資するのとではなんか意味合いが違う気がするんですよね。株を買うという行為は同じだけど。テスラに”投資する”っていう表現はしっくり来るけど、コカ・コーラに”投資する”っていう表現はなんだかちょっと違和感がある。投資、、うんその通りなんだけど、なんか仰々しい。

昔からの大企業の株を買って持ち続けるのは、駅伝のタスキを受け取るみたいなイメージがあります。前任者から引き継ぐんです、資本を。タスキを受け取ったら、自分の体力が保つ限り走り続ける。そして、いつかタスキを別の誰かに渡すときが来る。よろしくって。これからの50年頼んだよって。

そうやって資本を脈々と繋いでいく場がニューヨーク株式市場。そんなイメージを持っています。ニューヨーク証券取引所が誕生してまだ200年ちょい。歴史はこれから。まだ往路。力の限り走り続けます。