2018年も2017年の流れを引き継いで、株式マーケットは賑やかですね。相変わらずボラティリティは低く、ハイテクとエネルギーを中心に株価は上昇しています。S&P500平均の2018年利益ベースのPERは18倍を超えています。あらゆる銘柄に割高感が感じられる中、PERを見るとやや割安感を臭わす銘柄があります。時価総額トップのアップル(AAPL)です。

アップルの株価は2017年に50%超上昇し、時価総額は1兆ドルに届こうかという勢いです。そんな株価絶好調のアップルですが、実はPERはS&P500を下回っています。2018年1月現在のアップルの予想PERは16倍です。S&P500平均の18倍よりかなり低い数字です。単純にPERだけで判断すれば、アップルは割安だと言えるかもしれません。

果たして、アップルはホントに割安だと言えるのでしょうか?
あなたはどう思いますか?

私ですか?
私の個人的意見を申し上げると、アップルにはやや割安感があると思っています。

 

PER比較は同業種の企業間で行う必要がある

2週間くらい前でしたか、バロンズが「アップルは食品株より割安だ」という文脈でこんなことを言っていました。

その水準(アップルのPERのこと)は、4年連続の減収が予想されているキャンベル・スープと同じだ。

バロンズ

キャンベル・スープは、先日米国銘柄分析で取り上げた銘柄です。コーンポタージュなどの濃縮スープやビスケットの製造販売を行っている創業100年を超える企業です。「the ディフェンシブ株」といった感じの銘柄ですね。売上成長は鈍化していますが、業績・キャッシュフローともに安定しています。Market Hackの広瀬氏が保守的な銘柄としてpickしていた銘柄でもあります。

そんなキャンベル・スープの予想PERは17倍です。米国では加工食品の売上が伸び悩んでいることから、キャンベル・スープは4年連続で減収となっています。そんな衰退企業のキャンベル・スープでさえPERは17倍あります。

んじゃあ、これからも世界中でバカ売れし続けるであろうiPhoneを持つアップルのPERが16倍は割安なんじゃないの?って理屈です。

このバロンズの見解をどう解釈すべきでしょうか?

アップルとキャンベル・スープのPERを比べることに意義はあるのでしょうか?
→結論から言えば、私は比べる意義はあると考えています。

これはアップルをキャンベル・スープと同じ生活必需品セクターにカテゴライズすべきか否かに掛かっています。

PERとは一株当たり利益(EPS)の何倍で株価が取引されているかを示した指標です。EPSが10で株価は100ならPERは10倍です。PERはその期の利益が継続するという前提での投資回収年数を意味しています。10のEPSを生み出す銘柄に100投資すれば、10年で投資は回収できますよね(10×10年=100)。

でも、その前提には無理があります。企業の利益がずっと一定なんてことはないからです。資本主義経済の下では、株式会社の利益は平均して成長していくことが予想されますが、成長の道筋は企業が属する業種によって様々です。

エクソンモービルのようなエネルギー企業やボーイングのような資本財企業は、市況や景気循環のステージによって利益が大きく変動します。2014年から始まった原油価格下落の影響で、エネルギー企業の業績は軒並み低調になりましたよね。輸送需要の増加を見越してボーイングの株価は2017年から急上昇しています。

一方で、キャンベル・スープのような生活必需品セクターの企業は、景気循環ステージによって大きく利益水準が変わることはありません。好景気だからって急激に売上が伸びるわけじゃないし、不景気だからって急に売上が半減することもありません。

エネルギー企業と生活必需品企業のPERを単純に横に並べて比較しても意味はありません。エクソンモービルとキャンベル・スープのPERを比較しても、何の投資判断の材料にもなりません。キャンベル・スープとペプシコのPERを比較する意味はあると思います。

PERは同業種の企業間で比較しないと判断を誤ります。

なぜ、PERは同業種の企業と比較しないといけないのでしょうか?

それは先に述べましたが、業種によって将来の利益推移が全く違うからです。生活必需品企業は、大きな波風なく緩やかな右肩上がりの成長が続くと予想されます。一方で、エネルギー企業はやはり長期的には右肩上がりで成長していくでしょうが、それはグワングワン利益がジェットコースターのように変動しながらになるでしょう。将来の利益推移が異なるにもかかわらず、目前の利益をベースにしたPERを比較しても意味はありません。

 

アップルは生活必需品企業だと思う。生活必需品企業でPER16倍は割安に見える。

と、ここまで理解した上で、再度アップルのPERが割安か否か判断したいところです。

アップルとキャンベル・スープのPERを比較すると、売上低下が続いているキャンベル・スープよりアップルの方がPERが低いです。この比較はアップルとキャンベル・スープが同業種でないと意味がありません。

いや、業種は言うまでもなく違いますよね。方やIT企業で方や食品会社なわけですから。業種が同じであるというよりは、景気循環による影響の程度が同じであることが大事です。同業種なら景気循環による業績変動も概ね同じだと考えられるから、PERは同業種間で比較しましょうと言われるわけです。

企業間のPERを比較する時、同業種であるべきというのは本質じゃありません。大事なことは景気循環による利益ボラティリティが同じ程度か否かです。

つまりアップルが今や景気循環に影響を受けない生活必需品企業の様な存在になっていれば、そのPERをキャンベル・スープと比較する意味があるということです。

アップルは生活必需品企業でしょうか?
もっと言えば、iPhoneは生活必需品でしょうか?

「iPhoneが生活必需品かどうか」ここがキーだと思います。アップルの売上高の6割以上はiPhoneからもたらされます。アップルの収益はiPhoneに依存してるし、それは今後も当面変わらないと思います。

私はiPhoneはもはや生活必需品だと言って差し支えないと考えています。iPhoneなくして生活できませんよ。通勤電車の中など暇さえあれば、いじってしまいます。WSJやブログはiPhoneで見ることが多いし、株価チェックもiPhoneです。毎月の家賃の送金手続きもiPhoneでやっています(口座振替じゃないんです・・)。

アップル株を買い増しているバフェット氏は、アップルのiPhoneには消費者を惹きつける「粘着性」があると語っています。

iPhoneは買替ペースが長く単価も高いので、化粧品や飲料、食品など一般的な生活必需品とはやや性格は異にします。ですが、iPhoneというデバイスは生活必需品と認定できると思います。

想像して下さい。景気が悪化して給料が下がったからってiPhoneを買い控えますか?買替ペースは伸ばすかもしれないけど、スマホへの出費を抑えるってもはや無理じゃないですか?快適なネット通信環境なくして現代人は快適な生活を送れません。通勤電車の中でふと周りを見渡せば、10人中8人はスマホをいじっています。ジョブスが世界を変えました。

iPhoneは生活必需品であり、アップルは生活必需品企業になっていると思います。

バロンズはこう言っています。

利益の予見性が高まっているため、同社(アップル)は製品の売れ行きに左右される企業ではなく、生活必需品企業になりつつあり、安全性と収入によってバリュエーションは高くなる傾向にある。

バロンズ


このバロンズの意見に私も概ね同意です。

同じ生活必需品セクター同士、アップルとキャンベル・スープのPERを比較する意義はあると思います。

アップルの予想PERは16倍、キャンベル・スープの予想PERは17倍。キャンベル・スープは利益はしっかり出ていますが成長は鈍化しています。アップルのiPhoneもかつてと比べれば販売台数の伸びは衰えていますが、それでも中国など新興国の所得増加をサポートにして、これからも一定の成長を続けていくと思います。少なくとも、キャンベル・スープよりもアップルの方が将来の利益成長は期待できそうです。

アップルが生活必需品企業だというのは私の独断なわけですか、もし本当に生活必需品企業の如く今後のアップルの利益が安定軌道に乗るとしたら、予想PER16倍は割安なんじゃないでしょうか?
もちろん、今後の利益成長が鈍いなら低いPERでも割安とは言えませんが・・。

2017年で株価は上がり切ったように見えるかもしれませんが、アップル株の上昇余地はまだ残っているかもしれません。少なくとも割高には見えません。