株価って不思議ですよね。株価は毎日動きます。
企業の本質は何も変わっていません。企業は株価なんて気にせず毎日のオペレーションが淡々と続いているだけです。会社の従業員は自社の株価が高騰しても暴落してもそんなこと知らずに仕事をしている人が大半なはずです。
S&P500指数は大統領選以降、6%近く上昇しています。
企業の実態は何も変わっていないのに、なぜ株価は大きく上昇するのか?
それは投資家の期待が膨らむからです。
株価とは企業の一株当たりの予想将来配当を割引率で現在価値に割り引いた金額です。理論的には。
この数式の分子が上昇することで、株価が上昇します。
株価が上昇する要因としてなぜかいつも分子の予想将来配当(業績予想)ばかりに注目が集まります。
皆さん、分母にも注目してあげて!!
分母の割引率が下がることでも株価は上がりますよね。算数的に上がることはわかると思います。
経営者は自社の株価を上げることが使命です。そのために業績を向上させて増配力を高めて投資家の予想将来配当(業績に対する期待)を高めたいと思います。
経営者は実は日頃から、分母の割引率を引き下げる活動もしているのです。
それはどんな活動でしょうか?
それはIR活動です。IRとはインベスター・リレーションズの略で、投資家向けに自社の業績や今後の経営戦略などの情報を発信していく活動です。
なぜ経営者は経営業務に忙殺されているのに、このIR活動を積極的に実施するのでしょうか?企業の社長や幹部クラスが欧米投資家に会うためにわざわざ1週間ほど出張することは珍しくありません。上場企業の幹部クラスの人間の時間を一週間も使うとは相当な重要業務です。
なぜそこまでするのか?
その理由を敢えてファイナンス的に言えば、IR活動を行うことで株価算定式の分母である割引率が低下して究極的には株価が上昇するからです。
株価が上昇するということは経営者としての評価が高まるということです。だからIR活動は末端の従業員だけでなく社長はじめ役員クラスが関与するのです。
なぜIR活動を積極的に行うと、割引率が下がるのか?
そもそも割引率って何?
割引率とは端的に言えば、企業のビジネスに対する投資家のリスク認識です。明日のお金は不確実です。「あいつは信用できない、あいつの話は割り引いて聞いておけよ」っていう表現もありますよね。
不確実なことは割り引いて考える。これはあなたも普段からやっていることです。
始めた会った人から「今度必ず返すから1万円貸して!」って言われたらどうします?
普通は貸さないですよね。だって信用できないもの。それは「必ず返す」という言葉を割り引いているということです。
長年付き合っている彼女に「ごめん、明日返すから1万円貸してくれない?」って言われたらどうします?
「ああ、いいよ」って貸しますよね。それは信用があるからです。信用があるから「明日返すから」という言葉を割り引かずに受け入れることができるのです。
投資家も同じです。
いくら会社が中期経営計画を発表して「わが社は5年後、EPSは〇〇円になってROEは〇〇%を目指します!それに向かって全社一丸で頑張ります!、具体的な戦略は~」なんて言ったって投資家はそんな話割り引いて聞いているのです。
「会社は10%成長と言っているけどどうせ無理だろうな~、コスト削減とか言っているけど原油安に頼っているだけで実際はうまくいかないだろうな」と投資家は考えるのです。そりゃ保守的に考えますよね。特に機関投資家は大切なお金を委託者に代わって責任もって運用する義務があるのですから。
そこでIR活動の出番です!
経営者や役員がわざわざアメリカやヨーロッパに行って、大株主の機関投資家に説明するわけです。
「わが社のM&A戦略は具体的には、この市場のシェアをさらに高めてトップ企業としてのポジショニングを盤石にして価格競争力を保つことです。それにあたってGSからロングリストを貰って常に買収先を探しており、現在はショートリストまでできております。」
「わが社のコスト戦略として具体的には利益率の低い〇〇事業部を他社に売却して、経営のスリム化を図るつもりです。そのために現在〇〇コンサルティングと契約してリストラプロジェクトを進めております。」
そういう具体的な経営戦略を真摯に情報提供することで、投資家は安心してきます。
(※ここまで具体的なことを特定の投資家だけに伝えるのは法的にグレーかもしれません。あくまでも例です。)
「なるほど~、事業売却までやるっていうならコスト削減は現実のものになるだろう。この会社のEPSは本当に会社の宣言通りに上昇しそうだな、よし株を追加で買うぞ!」となるわけです。
投資家の将来キャッシュ、将来配当に対する不安がIR活動を通じて徐々に払拭されていくのです。
割引率とは投資家のリスク認識と言いましたが、もっと平たく言うと投資家の不安感です。不安感。
IR活動をきちんと行うと投資家の不安感が減少していく(割引率が下落する)ので、株価が上がるのです。
IR活動は企業にとって重要な仕事です。
IR活動とは何も経営者などの幹部が出張に行って行うだけではありません。
会社の広報室担当者が投資家からの質問に電話で真摯に対応して、投資家が納得する回答を適切に行うことも立派なIR活動です。
アニュアルレポートをわかりやすく作成して、機関投資家を魅了する情報発信をすることも立派なIR活動です。
そういう日々の地道なIR活動が株価上昇に貢献しているのです。
あなたの会社の広報室のお姉さんが、あなたの会社の株価を陰で支えているのです。
以前、企業価値評価の勉強をしていた頃に山梨県の某企業Fの広報に有価証券報告書でわからないことがあったので質問の電話をしたことがあります。
お姉さんではなく、非常に無愛想で横柄な対応の男性で、こちらの質問に真摯に対応してくれなかった嫌な思い出があります。
たまたま電話対応した方がそういう方だったのかもしれませんが、これだとリスク認識は上がりますね。
その企業の株価は当時の3倍~4倍ぐらいに上昇しています。
>山梨県の某企業Fの広報に有価証券報告書でわからないことがあったので質問の電話をしたことがあります。
すごい積極的ですね!
うちの会社にもたまに株主から問い合わせがあって広報担当が四苦八苦しております。
そうですね、株式会社の広報担当者には資本主義制度、株主制度の理解は必須だと思います。
経理部よりも広報室の方が必要なくらいです。
証券市場に最も近い部署は経理だ!って以前記事で書きましたが、よく考えれば広報ですよね。
株主や投資家から直接問い合わせを受けるのですから。
広報とはまさに証券市場と企業との橋渡し役だと思います。
>非常に無愛想で横柄な対応の男性で、こちらの質問に真摯に対応してくれなかった嫌な思い出・・
時間は限られるかもしれませんが、一人一人の投資家に真摯に対応することが企業価値の向上に繋がるはずです。
自分の仕事の意義や役割をきちんと理解していないから、そのような対応になるのでしょうね。
確かにリスク認識は上がりますね。
というか、、企業価値の勉強をして企業に電話するって凄いですね。。