監査上の重要性の基準値とは

「当監査法人は、上記の財務諸表が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、〇〇株式会社の2018年3月31日現在の財政状態及び同日をもって終了する事業年度の経営成績をすべての重要な点において適正に表示しているものと認める。」


これは監査報告書の結論部分です。監査報告書は定型文書です。どんな会社の有報を見ても、最終ページにこの一文が載った監査報告書が見つかるはずです。

注目して欲しいのが下線を引いた「すべての重要な点において」という箇所です。監査では会社の数字の細かいところまでは見ません。投資家など利害関係者の判断に影響を及ぼすくらいインパクトの大きい誤りがないことは保証するけど、末節の些細なところまでは保証できません。そういう監査のリソース事情をわかってね、という思いがこの一文に込められています。

監査では小さいミスまで見つけない。余計なことに時間は割きません。監査人員と時間は有限だから仕方ないです。

具体的にいくら以上のミスが許容されないのか。そういう金額は実際に存在します。「監査上の重要性の基準値」と呼ばれます。たとえば、純利益×5%が基準値となったりします。前年度の純利益が100億円の会社を監査する場合、5億円以上の会計処理、開示の誤りは許されないことになります。

純利益が増えれば増えるほど 「重要性の基準値」 は上がります。純利益が200億円になれば基準値は10億円に上がります。利益の絶対額が増えれば増えるほど、監査の網の目も粗くなります。業績が良い会社は会計操作(粉飾)をするインセンティブも低くなります。

もちろん、この重要性の基準値だけですべて判断するわけじゃないですけどね。金額だけじゃなくて質的な判断もあります。また、少額でもせっかくミスを見つけたなら、担当者レベルで修正を依頼することも多いです。

経理部にも重要性の基準値っぽいのはある

こういう重要性の判断は経理部としてもあります。監査みたいに明確な基準値は存在しませんが、何となくの感覚として「これくらいのミスならパスできるかな」というラインがあります。

売上高1兆円、純利益800億円の企業があるとしたら、1億円のミスはそれほど投資家の判断に影響は与えません。純利益が812億円でも813億円でも株価はそんなに変わらないでしょう。

もちろん、ミスが見つかったら少額でもなるべく修正しますよ。10万円も1万円でもミスがわかればちゃんと修正して正確な決算書を開示するのが原則。でも、決算発表間近でミスが見つかった時は、金額次第では修正しないことも多いです。うちの会社だと1億円くらいのミスがわかっても修正しませんかね。30億円とかになるとさすがに修正します。徹夜で直します。

10万円でも1億円でも会計仕訳の訂正自体は簡単です。修正仕訳を会計システムに投入するだけ。そんなに大変じゃないです。でも、その後工程が大変なんです。

たとえば、人件費を10億円修正すれば、それは色んな決算資料に影響します。損益計算書はもちろんアナリスト用の説明資料、社長説明資料、取締役会資料などなど。たった一つの金額の修正がありとあらゆる資料の差し替えに繋がります。それがもう大変大変(汗)。

すべての資料をきちんと差し替えることができればよいのですが、往々にして漏れがあります。それが怖い。例えばEPSの再計算を忘れるとか。説明資料後ろの「補足情報」の修正が漏れるとか。過去に色々経験があります。

私はどちらか言うと仕訳をチェックする立場ですが、決算開示2日前とかに後輩から「Hiroさんすみません、、分析している中でミスが見つかりました。」と報告を受けることがちょくちょくあります。状況によりますが、数千万円くらいだったら僕の一存でもみ消します。それは別に悪い意図があるわけじゃないです。金額的に重要性がないのに、今から仕訳を修正して諸々の関連資料を修正する方がリスクが高いという判断です。億単位になると上司に相談しますが。

「あ~、もう1億円くらいだったらいいよ。無視しよ。来期修正すればいいよ。」なんて発言は経理部では普通です。

自分の重要性の基準値を上げたい。
→株式投資がんばる。

「1億円なんて重要性低いから無視しよう」なんてプライベートでも言ってみたいです(笑)。

なんか会社組織にいると金銭感覚おかしくなる時ってありませんか。会社では億単位のお金を使う立場に立つ人もいます。開発プロジェクトのマネージャーとか。

大きな組織なら1億円なんて軽い。思い切って1億円投資して損しても別にいいやって割り切れる。こういう面もあります。1億円は株主の大切なお金には違いないわけだし、無駄に使っていいわけでは決してありません。でも、組織の規模が大きくなれば、同じ金額でもその相対的な重要性が低くなるのも事実です。

個人としての重要性の基準値も少しずつ上げていきたいです。「1億円くらい重要性低いからどうでもいいよ」と言える日は絶対にこないです。バフェットやジェフ・ベゾスばりに経済的に成功しないと、その領域に達することは不可能。

僕で目指せるのは「1万円くらい軽いもんだよ」って言えるレベルかな。これくらいまで、何とか重要性の基準値を上げたい。そのためには利益を増やすこと。監査と一緒です。利益が増えれば(心理的な)重要性の基準値が上がります。

個人にとって利益とは「年収-生活費」。生活費はそんなに削減できないです。すでにそこそこ質素に暮らしているので。であれば年収を上げるしかない。といっても、サラリーマンだから短期間で大きな昇給は期待できません。

・・・んならやっぱ株か。
米国株にがんばってもらおう。

株式投資をがんばって続けて年間の株式利益・配当を高めるしかない。株式収入は給与収入と違って伸び率が単利ではなく複利です。それを利用して株式利益を育てたいです。現時点では運用資産2000万円で年間(期待)利益140万円(益回り7%、PER約14倍)。

運用資産2000万円を大きくしたいというより、株の年間利益140万円を大きくしたい思いの方が強いです。もっと言えば配当です。今の配当は80万円~90万円くらい。まあ、そのためには必然的に資産額を大きくする必要がありますけどね。

ただ、利益を大きくしたいという思いが強すぎると高益回り(低PER)や高利回り株ばかりを狙ってしまいがちなので、そこは気を付けたいです。シーゲル教授は『株式投資の未来』の中で、高いリターンを残した銘柄は市場平均をやや超えるPERだったと言ってました。

ついつい低PER銘柄に吸い寄せられがちだけど、IBMのように(少なくとも今のところは)痛い目に遭うこともあります。高PER株を根気強く保有した方が、長期では報われるような気がします。まあ、バランスかな。

長期的な目線を持って、自分の重要性の基準値を引き上げたいです。ただ長期的過ぎるのも嫌だ。人生は有限だから。「1万円くらい軽いな」って思えるようになりたい。なるべく早くそうなりたい。でも焦りは禁物。Grow Rich Slowlyの精神を忘れずに投資を続けます。