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IFRS普及で投資家が知るべき”諸刃の剣”な有価証券の会計処理

   

突然ですが、この日経記事を読んで意味を理解できますか?

アサヒホールディングスは10月25日、子会社を通じて出資する中国食品大手の非上場「頂新ホールディング」の株式評価損371億円を計上する。

アサヒは2016年12月期から国際会計基準に移行する予定で、今回の株式評価損の純利益の影響はない

2016年10月26日の日経新聞より抜粋

最初の文章で371億円の株式評価損を計上すると言っておきながら、結局純利益には影響しないと。

多くの人にとって意味不明ではないでしょうか?

会計を仕事としていないであろう多くの社会人株式投資家の方々にとって、複雑な会計処理を勉強する意味は薄いと私は個人的に思っています。それだけの勉強時間を捻出するなら他のことに大切な時間を使ったほうがいいと思います。

BSPLを最低限読める程度の会計リテラシーで十分です。キャッシュフローを見れば誰でも企業の収益性はわかります。

利益は意見、キャッシュは事実です。

ただ、今回のアサヒに関する新聞記事で出でくる株式評価に関する会計処理方法は知っていて損はないと思ったので取り上げます。

日本会計基準とIFRS(国際会計基準)では有価証券の処理方法が大きく異なります。


  有価証券の会計処理

最近コーポレートガバナンスが声高に叫ばれ、金融機関を始め意義の薄い持合株式は減少傾向です。

ですが、まだ旧来の持ち合い株が完全になくなったわけではないし、ビジネス上ベンチャー企業など他の株式会社や上場企業の株式(あるいは出資金)を保有していることは普通です。

このような企業が保有する有価証券(株式や出資金)の会計処理はどうなっているのでしょうか?

細かいことは割愛します。書きすぎても理解しがたい文章になるからです。会計に詳しい人にってはちょっと突っ込みどころがあるかもしれませんがご了承ください。

日本会計基準

日本の会計基準では、ざっくり言うと株式の評価方法はこうなります。

普通の株価の上下・・・時価評価するが評価損益は純利益に反映しない
大きな株価の下落・・・時価評価して評価損益を純利益に反映する
株の売却・・・株の売却損益を純利益に反映する

まとめるとこうなります。

時価評価する? 純利益に反映する?
普通の株価上下 Yes No
大きな株価の下落 Yes Yes
株の売却 Yes Yes

つまり、常に時価評価はするけど日々のちょっとした株価変動(~30%)くらいだったら、その評価差額は損益に反映させる必要はないということです。この評価差額は直接バランスシートの純資産に計上されます。

なぜちょっとした変動だと損益に反映させなくていいかというと、別に短期的なトレーディング目的で保有しているのではなく長期的なビジネス関係構築のために株を保有しているのだから、日々の株価変動で企業の業績が動くのは不合理だからです。

ミスターマーケットに企業の業績が左右されては、投資家に誤解を与える可能性があるということです。

一方で、あまりに大きく株価が下落した場合、例えば10億円で購入したA株の株価が3億円まで下落したら、さすがにその評価損7億円は損益に反映させる必要があります。

これはいくらビジネス上の長期保有目的とはいえ、50%以上も株価が下落しているのであればさすがに投資家にその評価損をPLで報告しなさいということです。50%以上もの下落はもはやミスターマーケットのいたずらの範疇ではないということです。

最後に、株を売却した時は我々個人投資家のイメージ通りです。淡々と売却損益をPLに計上します。

 

国際会計基準(IFRS)

ここからが本題です。

今後は日本もIFRSの適用が進んでいくと予想されます。今後IFRSに移行すると決定している会社も含めると実に時価総額ベースで25%もの日本企業がIFRSを採用しています。

IFRSでの有価証券の会計処理は特殊です。

それは、時価評価損益や売却損益を純利益に反映するかしないかを自分で任意に選択できるというものです。

どう思いますか?
かなり特殊ですよね。

しかも銘柄別に選択できるのです。ただし、一度選択したら継続適用が必須です。

A株は純損益に反映する!、でもB株は株価が下落しそうだから純損益に反映しない!、C株は純損益に反映する!という無茶苦茶な会計処理が認められています。

規定としては純損益に反映するか否かを選択できます。

しかし、実務上はほとんどの企業がすべての株式について純損益に反映しないという選択をしています。

つまり、IFRSになると企業が保有する株式の評価損益も売却損益も一切損益計算書の純損益に反映されない可能性が高いのです。

ここは覚えておいて損はないと思います。

だから、文頭のアサヒの記事も、前提としてアサヒがIFRS適用に当たって株式の評価方法として「純損益に反映しない方法を選択している」という決定が背景にあるのです。

IFRSの処理をまとめるとこうなります。

時価評価する? 純利益に反映する
普通の株価上下 Yes No
大きな株価の下落 Yes No
株の売却 Yes No

 

日本基準 vs IFRS

純損益の反映の有無を、日本基準とIFRSを比べるとこうなります。

 (純損益に反映する ?) 日本基準 IFRS
①普通の株価上下 No No
②大きな株価の下落 Yes No
③株の売却 Yes No


ちょっとした日々の株価変動を損益処理しない点は、日本基準もIFRSも同じです。


株価が大きく下落したとき、日本基準ではその評価損はPLに反映されますが、IFRSでは反映されないのです。アサヒはIFRS適用を見越して、非上場株の減損処理をしてきたのかもしれませんね。繰り返しになりますが、IFRSだとその減損処理はPLの純損益に反映しなくてもいいですからね。


さらに違和感を感じるであろう点は、IFRSでは株を売却した時に発生する売却損益もPLの純損益に反映しなくていいということです。

 IFRSは諸刃の剣

有価証券の時価評価差額や売却損益を純損益に反映しないと選択することは、企業にとって諸刃の剣です。

なぜなら、今回のアサヒのように株式評価損を計上する場面では損失を計上しなくていいのでお得ですが、逆に大きく値上がりして利益が出ている時もその利益をPLに計上することはできないからです。

これから日本企業もグローバル企業の大半はIFRSになるはずです。

IFRS適用で最も大きな影響はのれんを償却しないことですが、この論点は結構有名なので多くの人が知っているし頻繁に日経でも取り上げられています。

でもこの有価証券の会計処理方法の違いは、あまり日経等で記事にならない割に結構PLインパクトのある論点です。

IFRSでは有価証券に関連する損益は一切PLに出てこない可能性が高い、という事実は覚えていおいて損はないです。

  米国は今のところ関係なし

なお、米国株投資家の皆さんは、米国会計基準の方が気になるかもしれません。米国会計基準は日本会計基準に近いです。大きな株価下落や株式売却損益はきちんと純損益に反映されます。

米国SECは現時点では、米国内の上場企業にIFRSを適用することを禁止しています。なので、米国企業のPLを見る時にこの有価証券の会計処理に注意する必要はありません。

今後SECが米国企業にIFRS適用を認める可能性もあると思います。

会計基準を統一してグローバルでの企業間比較可能性を高めたいという投資家の要請は強いです。JTとフィリップモリスの業績を比較したい時もありますよね!?

米国企業にIFRSが適用されるときがきたら、米国株投資家の皆様もこの記事をまた思い出して頂けますと幸いです。

 - 投資理論・哲学