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「のれん」は非償却が正しいがそれは理想論。現実と向き合うしかない。

   

今日(2018年10月26日)の日経によると、FASB(米国会計基準を作る団体)は「のれん」を償却することを検討しているとのこと。

世界には主に3つの会計基準があります。日本基準、米国基準、IFRS(国際会計基準)です。今のところ、日本基準だけは「のれん」を20年以内に償却する決まりになっています。米国基準とIFRSは非償却です。

会計基準 のれんを・・
日本基準 償却する
米国基準 償却しない
IFRS 償却しない

最近IFRSで「のれん」の償却を検討していると報道がありましたが、やはり米国基準でも同じ動きがあるようです。

IFRSと米国基準は別の基準なわけだし一致している必要はありません。ですが、これだけグローバルに資本が飛び回る時代ですから、世界の主要な会計基準であまりに会計処理が異なるのは健全ではないという思いは各当局の共通認識としてあるはずです。IFRSと米国基準が世界の主要2大会計基準です。

のれん償却は多額になりがちで利益率に大きなインパクトを与えます。S&P500構成企業の「のれん」残高は計340兆円もあります。これを償却するかしないかでPLの見た目は大きく変わります。

米国基準とIFRSとで「のれん」の会計処理が異なるのは、あまりよろしくないと思います。なので、IFRSで議論が出ると米国基準でも議論が出てくるのは自然なことだと思います。

 

 

ちょっと「のれん」について話したいです。
もはや雑談ですが、よかったら聞いて下さい。
話が長くなったらすみませんm(__)m

そもそも、「のれん」とは何でしょうか?
このブログの米国銘柄分析記事でもしょっちゅう登場するワードですよね。

「のれん」とは企業を買収した時に発生するもので、被買収企業の簿価純資産と買収対価の差額です。

と言っても何を言っているのかピンとこないかもしれません。

要は純資産の簿価と時価の差額です。(簿価)純資産100億円の企業を500億円で買収したら「のれん」は400億円(500億円-100億円)となります。買収対価とはつまり純資産の時価評価額です。

支配権を取得するM&Aでは、大抵その時のマーケットプライス(株価)に一定のプレミアムを乗せて買収価額とします。例えば、最近ジョンソン&ジョンソンがドクターシーラボを買収すると発表しましたが、買収対価は現在の市場価格に50%以上のプレミアムを乗せた金額になる予定です。

どうしても欲しい企業に対して熱烈なラブコールを送って買収するケースが大半なわけですから、大抵は買収金額は被買収企業の純資産額を超えます。つまり「のれん」が発生します。ちなみに余談ですが、買収金額が純資産額を下回ることも稀にあって、その時は「負ののれん」というものが発生し即時に収益処理します。監査法人時代に一度だけ出会ったことがあります。

「のれん」の中身とは一体何なのでしょうか?

簿価純資産と時価純資産(株式時価総額)の差は何を意味しているのでしょうか?

これは非常に概念的で難しいところです。超過収益力とかブランド価値とか色んな説明がなされます。別にどの説明が正しい誤りというのはないと思います。どうせ絶対の答えなんてわかりませんから。

繰り返しになりますが、「のれん」が大きいとは簿価純資産と時価純資産(株式時価総額)の差額が大きいということです。純資産の簿価と時価の比率を示したメジャーな指標があります。PBR(株価純資産倍率)です。

PBR=株価 / 一株当たり純資産(BPS)。つまり、
PBR=時価純資産 / 簿価純資産です。

PBRが高い企業を買収しようとすると、「のれん」も大きくなります。純資産が小さいにもかかわらず、高収益が期待され株価も高く評価されている優良企業を買収しようとすると必然「のれん」も大きくなります。

M&Aで狙われるような企業は大体が優良企業です。投資銀行がターンアラウンドを目的にボロ企業を買うこともありますが、事業会社が一般的に買収対象として狙いを定める企業はビジネスがしっかり回っている将来有望な企業であることが大半です。だから、M&Aでは「のれん」が多額に出てしまうのはやむを得ません。

たとえば、ソフトバンクが2016年に英ARM社を買収しましたが、その買収対価は約3.3兆円でした。そのうち「のれん」になったのは約3兆円でした。つまり逆算で考えるとARM社の純資産は約0.3兆円だったということです。孫さんは簿価純資産0.3兆円の企業に3.3兆円の金を払ったということ。PBRで言えば11倍です。

PBR11倍は確かに高いですが、優良米国企業にはこれくらいの銘柄は普通にあります。マイクロソフト、コカ・コーラ、スリーエム、アップルなどはPBR10倍前後です。仮にコカ・コーラを買収しようと思えば、プレミアムを加味すればPBR11倍以上になることは確実です。つまり、ソフトバンクのARM買収よりもさらに高い比率が「のれん」になると予想されます。

歴史ある優良企業ほど収益の割に純資産が小さい傾向にあり、結果としてPBRが高くなります。このような企業が買収されると、今まで可視化されていなかった大きな無形価値が「のれん」としてバランスシートに見える化されます。

「のれん」とは買収をきっかけに現れるものですが、本質的には元から企業内部に存在するものです。M&Aに伴ってそれが可視化されるだけです。

その可視化された企業の無形価値はどう評価すべきなのか?

日本基準のように償却すべきなのか?
それとも、今の米国基準やIFRSのように非償却(ただし減損はあり)にすべきなのか?

理想論だけ言えば、私は非償却が正しいと思います。

「のれん」の償却は建物や機械装置の減価償却とは違います。工場を建設したらゼネコンへの支払い額は即時費用にはならず、一定の年数(30年など)で徐々に費用化していきます。この手続きを減価償却と言います。

なぜ、減価償却をするのか?

工場が稼働して企業の売上に貢献する期間は長期に及ぶと予想されるからです。30年くらいは稼働して製品を作って、売上を生んでくれると期待できます。会計の世界ではキャッシュフローの動きをそのままPLに落とすのではなく、費用と収益がなるべく対応するようにPLに反映していきます。2018年に支払った300億円であっても、2048年まで30年かけて年10億円ずつ費用化していきます。

固定資産台帳を見ると、自分が生まれた頃に購入された資産を見つけることがあって何だか感慨深い気持ちになります。

工場や機械はどれくらいの期間で償却すべきかという論点はありますが、償却すること自体に異論は出ません。工場の償却年数として10年か20年かいやいや50年がいいか、ここは人によって色んな意見があると思います(実際は法人税法の年数に合わせて償却するのが普通)。ですが、償却するしないは議論になりません。償却することは当然のこととされます。

なぜか?

物理的な実態のある建物や機械はいずれ劣化して価値が無くなるとわかっているからです。物理的な摩耗もあるし、機械だと機能的な陳腐化もあるでしょう。いずれにしても、形ある物体である以上その価値は有限だという点は誰もが認めるところです。だから一定の年数で償却します。

では「のれん」はどうでしょうか?

「のれん」とは被買収企業が築いてきた目に見えない価値です。その中身が何のかは企業によって様々です。コカ・コーラ社の場合は、黙ってても世界で売れ続けるそのブランド力、過去のマーケティング活動の蓄積が「のれん」として表れているのかなって思います。まあ個人的な解釈です。正解はありません。

「のれん」は工場建物とは違います。企業はゴーイングコンサーンを前提としています(継続企業の前提)。50年後に会社清算することを前提としている企業はありません。倒産しない限り、永続的にビジネスを続けることが当然です。

つまり「のれん」の価値も永続する可能性があります。

仮に(あり得ないけど)コカ・コーラ社を買収すると考えてみて下さい。そこで生じた「のれん」は償却すべきでしょうか。コカ・コーラ社が保有する「のれん」を20年以内で費用化することが正しいでしょうか?

わかりません、、わかりませんがコカ・コーラブランドが今後20年で廃れるとはとても想像できません。

じゃあ、償却せずにバランスシートに置いたままにすることが正しいのか?

そうですね、私は「のれん」は非償却にして、収益性が落ちた時に減損することが理論的な会計処理だと思っています。コカ・コーラが品質問題で世界で信頼を失って、世界中でコカ・コーラ製品をボイコットするような事態が起これば、「のれん」を減損すべきかもしれません。今まで通り売れ続けているのであれば、「のれん」は減損も償却もする必要はないと思います。

だって、思い出して下さいよ。

「のれん」はもともと企業内部に存在するわけですよ。それがM&Aで可視化されるだけです。可視化されただけで、今まで当然に非償却だった(可視化されてないから当然非償却)「のれん」を急に償却して費用化するのはメチャクチャおかしな話です。今もコカ・コーラ社には多額の「のれん」がありますが、それは償却されていません。だって、そもそもバランスシートに載ってませんから償却しようがないです(可視化されていない)。

だから、僕は「のれん」非償却(ちゃんと減損テストすることが前提)が正しいという立場です。中でも「消費者独占力」のある優良企業を買収して生じるのれんは、非償却にすべきだと思います。だって減価しないから。

ですが、、「のれん」非償却というのは理論的ではあっても実務的ではないのです。頭でっかちはいけません。実務の世界と理論の世界は違います。日経の経済教室で大学教授が語っているような理論が、実際のビジネスの現場、政治の現場で通用するとは限りません。理想論は置いておいて、今目の前にある課題に向き合わなくてはなりません。

「のれん」を償却するというのは、一つの落としどころです。

ホントは定額償却なんて全くもって理論的ではありません。買収される企業は大抵優良企業です。ARM(ソフトバンク)にしろ21世紀フォックス(ウォルトディズニー)にしろシャイアー(武田薬品工業)にしろエトナ(CVSヘルス)にしろ。そんな優良企業の「のれん」が毎年減価していくという前提が正しいわけがありません。

でも、仕方ないんです。
なぜなら、ちゃんと減損できないから

ビジネスには失敗もあります。買収した企業のビジネスがうまいこと行かないこともあるでしょう。M&Aは難しいです。買収したビジネスが思ったよりキャッシュを生まず投資を回収できないと判断したら、その時は「のれん」を減損しなくてなりません。

ここが理想論です。普段は非償却で「のれん」の価値が棄損したら減損しろって言っても、「のれん」なんて目に見えないわけだし、本当に価値が劣化しているかどうかは客観的には分かりません。監査法人もわかりません。そりゃ、明らかに大赤字を垂れ流していたら即減損になりますが、微妙なケースも多いです。

そういう微妙なケースでは、経営者は往々にして減損を嫌がります。減損しなくて済むような将来キャッシュフロー表を作ってきます(経理部に作るよう指示する)。どうせ予想なんだし、よほど不合理でない限り誰も反論できません。こうやって減損を恣意的にコントロールする場面なんて、監査法人でも経理部でも嫌と言うほど見てきました。

CFOが「減損すべきです」と言ってもCEOが「嫌だ!」と言えば議論は終了です。それはしゃーないです。決算書は経理部が作りますが、それはあくまで作業ベースの話です。決算書とは経営者の意見です。だから、経営者がNOと言えば減損はできません。もちろん、監査法人が割って入ってくれば話は別ですが・・。

そこに弊害があるというのがIFRSの見解だろうし、米国基準もそれに追随する可能性があります。

「ちゃんと減損できないなら、もう十把一絡げに定額償却しちゃえ!」ってことです。ここが落としどころだということです。「のれん」を定額償却することが理論的に正しいなんて、当局の誰も思ってないはずです。

しゃーない。理想と現実は違います。これから議論がどうなるか予断はできませんが、償却に変わる可能性も十分あると思います(IFRSも米国基準も)。

 

 

すみません、なんかごちゃごちゃ語ってしまいました。償却するもしないも所詮会計処理の問題に過ぎません。企業の実態は何も変わりません。投資リターンにも影響しません。ただ「のれん」を償却するとなると利益は急減するので、時系列での財務分析がやりづらくなります。その辺だけ注意しとけば、投資家として特に心配する必要はありません。

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