2016年11月にトランプ氏が大統領に選出された時に、米長期金利(10年債利回り)はキュイーンと急上昇しました。1.7%から2.6%まで一気に駆け上がりました。しかし、2017年は秋頃の2.0%台を底として長期金利は横ばいで推移しました。

そして2018年、10年債利回りはトレンドラインを突き破って上昇しています。先日発表された消費者物価指数(CPI)が前年同月比+2.1%とアナリスト予想の+1.9%を上回ったことを受け、2月15日現在の利回りは2.9%まで上昇しています。3%が視野に入ってきました。

さて、債券利回り上昇は相対的な株式の魅力を低下させます。無リスクのリターンが上がるなら、リスクを取ってまで株で運用しようとする投資家が減ります。その結果、株価は売られがちです。

ただ、金利上昇が一概に株式相場に悪影響というわけではありません。個人的な解釈ですが、金利上昇には「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」があります。

最近の債券相場と株式相場の動きを見ていて思っていることがあります。それは、今回の金利上昇はどちらかと言うと「良い金利上昇」で、今後リセッション入りする可能性は低く、株式相場の上昇局面はもうしばらく続きそうかな~ということです。

なぜ「良い金利上昇」だと思っているのか、なぜ上昇相場がもうしばらく続くと思っているのか、簡単ですが個人的見解を書きたいと思います。

 

そもそも長期金利(10年債利回り)って何? どうやって決まるの?

長期金利ってよく新聞やニュースに出てくるワードですよね。
そもそも長期金利って何でしょうか?

短期金利は分かりやすいです。アメリカならFRB(連邦準備制度理事会)がその誘導目標を決定します。現在のFF金利(短期金利)目標は1.25%~1.50%です。今後徐々に切り上がって行く予定です。


これが、今後のFF金利の見通しです。2018年は3回の利上げが濃厚で、そうなれば年末にはFF金利目標は2.25%となります。

こんな感じで短期金利は分かりやすいです。FRBがこれ!って宣言してくれますから。FRBは、持続的に経済が成長できかつ物価が高騰しない金利を設定しています。

では、長期金利ってどうやって決まっているのでしょうか?
長期金利=10年債利回りだと思ってください。

長期金利はFRBがこれ!って決めるわけじゃありません。長期金利は(10年債利回り)はマーケットで決まります。マーケットで日々債券が売買されているわけですが、その債券価格から計算される利回りが長期金利となります。

債券投資家は何を基準に債券(10年物)を取引しているのでしょうか?
長期金利(10年債利回り)が上がる時って、どんな時でしょうか?

これは私のテキトーで勝手な長期金利の定義なのですが、長期金利(10年債利回り)とは10年後の短期金利です。

そう無理矢理考えることがあります。もちろん、全くもって厳密じゃないですよ。でも、「長期金利=10年後の短期金利」って簡便的に考えると思考が整理されることが多くて、こう仮定を置くことが多いです。

長期金利(10年債利回り)=10年後の短期金利です。
(思考を整理するために、簡便的にそう考えます。)

最近、長期金利が上がっていますが、これは投資家が10年後の米国の短期金利(FF金利)がさらに上昇するだろうと予測しているということを意味します。

将来10年後の短期金利(FF金利)が今より引き上げられているのはどんな時でしょうか?
2つあります。

①今後の経済成長スピードが上がる
②今後のインフレ率が上がる

この2つです。
①供給サイドと②需要サイドで分けています。

ざっくり言って、FRBが金利を上げるのは景気が好調で経済が過熱している時ですよね。逆に、金利を下げるのは景気が悪化している時です。リーマンショックの後、米国の短期金利は4%台から0%台まで引き下げられました。

また、物価が急激に上昇している場合にもFRBは金利は引き上げます。たとえ、その時の経済状況が良くなくても、物価上昇の兆しがあればFRBは利上げすることがあります。FRBの使命の一つは「物価の安定」です。その使命を脅かすインフレ率上昇にFRBは敏感です。

最後にちょっと教科書的な話ですみませんが、長期金利の構成要素を式で示します。

長期金利=短期金利+①実質経済成長率+②期待インフレ率+タームプレミアム

タームプレミアムはここでは無視するとして、①実質経済成長率と②期待インフレ率の2つが上で説明したことです。経済が成長すれば長期金利は上がります。(期待)インフレ率が上がれば長期金利は上がります。

 

「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」

金利上昇には「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」があると思っています。

「良い金利上昇」とは、①実質経済成長率が上がることで金利が上昇する場合です。経済成長率が上がるってことは企業利益が上がるってことです。この場合、金利上昇に負けることなく企業収益(配当)も増えるので、株価は底堅く推移します。

概して金利上昇による借入コスト増よりも企業収益の増加率の方が高いため、①実質経済成長率UPに起因する金利上昇の場合、株式相場は強含んで推移すると考えられます。これが僕が考える「良い金利上昇」です。

 

「悪い金利上昇」とは②期待インフレ率が上がることで金利が上昇する場合です。もっと言うと、期待インフレ率のみが上がって、それに伴う経済成長(企業の利益成長)が見込まれない状況での金利上昇です。

これはスタグフレーション的な状態とも言えます。スタグフレーションとは、物価上昇と経済停滞が並存している状態のことを言います。インフレ率が上がるけどそれに企業収益が追いつかないとしたら、それは株式投資家にとって由々しき事態です。インフレ率が上がる分実質リターンが下がっちゃいます。

②期待インフレ率の上昇による金利上昇は「悪い金利上昇」です。②期待インフレ率が上がっても、①経済成長率も上がれば大きな問題ではありません。しかし、②期待インフレ率のみが単独で上がっていくならそれは「悪い金利上昇」と言えます。株価はダラダラ下がる展開が予想されます。

 

2018年初からの金利上昇は、どちらかと言うと「良い金利上昇」だ!

さて、2018年は年初からグングンと債券利回りが上がっています。特に2月2日に発表された1月の雇用統計が投資家マインドを変えました。平均時給が前年同期比で3%近く上昇し、インフレ懸念が高まりました。米国は賃金上昇が続ければ、後を追って消費者物価も上がる傾向にありますから、懸念は当然と言えます。

長期金利の式を再掲します。
長期金利=短期金利+①実質経済成長率+②期待インフレ率+タームプレミアム

最近の金利上昇が、②期待インフレ率の上昇に一部起因していることは間違いないでしょう。②期待インフレ率が上がることによる金利上昇は「悪い金利上昇」だと言いました。

しかし、①実質経済成長率も同様に高まっていると感じます。つまり、将来のインフレ率が上昇する兆しはあるけれども、企業収益はそれに負けずに成長していく可能性が高いんじゃないかってことです。

なんで、僕がこんなことを思っているのか?

それは、2月始め金利が急上昇した最初は全セクターが売られましたが、最近になってハイテク系など景気循環株は買われて、生活必需品などの景気安定株は売られているからです。

これは直近1カ月(1/16~2/15)のXLP(生活必需品セクターETF)とXLK(ハイテクセクターETF)の株価推移です。がXLP、がXLKです。

グラフの真ん中あたりが雇用統計が発表された2月2日で、両者とも急落しています。しかし、その後は金利は上昇し続けているにもかかわらずXLKは上昇しています。XLPの株価は冴えないままです。

こんな短期間の株価推移でマクロ経済動向を判断するのは無理があるかもしれませんが、ハイテク系銘柄の株価が金利上昇に負けることなく反発しているのは朗報だと思います。

ハイテクセクターって基本的には金利上昇に弱いです。利益成長率が高く将来の配当が株価を支えていますが、金利が上昇してしまうとどうしてもその将来配当の現在価値が下がって株価が落ちます。

でも、ハイテクセクターの株価は堅調です。なぜ堅調かと言えば、確かにインフレ懸念はあるんだけど、それに負けないくらい経済成長率も高まる(ハイテク企業の利益も成長する)とマーケットが期待しているからです。

ちなみに、経済成長期待が高まっているのにXLP(生活必需品)の株価が冴えないのは、たとえ経済全体が成長しても、コカ・コーラやプロクター&ギャンブルなどの利益はそれほど伸びないからです。やはり生活必需品ですから、景気が良くなっても急激に売上がアップすることはありません。なので、生活必需品セクターに投資している人は、何が原因であれ今の様な金利上昇局面は耐え忍ぶ時です。

年初からの金利上昇は①経済成長率、②期待インフレ率、両方が作用していると思います。インフレ懸念は確かに出てきましたが、企業収益はそれ以上に伸びそうな感じです。インフレインフレと最近よくニュースになりますが、そんな急激に物価は上がりませんよ。消費者物価だって2%上昇しただけです。一時的なノイズが数値を歪めている可能性もあります。楽観過ぎるのは危険かもしれませんが、それほど急激なインフレは心配はしていません。

一方で、企業収益の成長は今後も続きそうです。S&P500平均の2018年予想EPSは157ドルと、前年比で10%以上伸長する見込みです。減税の恩恵は大きいです。

②期待インフレ率上昇は確かにありますが、①経済成長率上昇の方が勝っていると感じます。直感ですけど。そういうわけで、米国の長期金利は上昇してきましたが決して悪い兆候ではないと思います。もうしばらく、上昇相場は続くと予想しています。

物価が上昇してもそれに負けることなく企業収益(配当)も成長してきました、歴史的に。そうやって、米国株は実質7%前後のリターンを達成してきました。その大きな流れは今後も変わらないと思います。短期的な相場の波はこれからもあるでしょうが、過去を学んだ上でしっかり前を向いてマーケットに踏みとどまりましょう。荒波に動じることなくリスクを負担し続けたことに対する報酬を得る日は、いつか必ずやって来ます。