キャッシュを見ることがPLを見るより大切です。

1990年後半以降の会計ビッグバン以降、確かに会計処理は企業の実態を表すように進化し続けてきました。

連結会計、退職給付会計、減損会計、税効果会計などによって企業の実態はより適切に財務諸表に反映されるようになりました。

でもそれと引き換えに、投資家は会計を理解しにくくなりました。

勉強すればいいだけ?
確かに意識高い系の人はそう言うかもしれません。

でも会計の勉強なんて地味でつまらないわけです。
僕は学生時代に会計士試験に合格するくらい本気で会計の勉強をしましたが、正直言って主なモチベーションはお金でした(笑)。試験に受かって大手監査法人に就職すればとりあえず給料いいだろうと、先のことは後で考えよって感じです。

だって家が貧乏だったから、とにかくお金が欲しかったんだもの。切実ですよ。

金銭的モチベーションがない人が本気で会計の勉強をするのはかなり困難だと心底思います。

株式投資に興味を持ちだすのはバフェットみたいな奇才でなければ普通社会人になってからでしょうが、社会人はとにかく時間がないわけです。

貴重な時間を割いてまで中途半端に会計の勉強する必要はないんです。なぜならキャッシュフロー計算書という便利な代物があるからです。

人生は一度。大切な時間を有意義に使ってください。

  フリーCFの本質

さて、キャッシュフロー計算書を見て優良企業か否かを判定する基準はいくつかあります。

先ず、営業キャッシュフローが一番大事。本業で稼いだキャッシュ。この営業CFの売上高に占める比率を営業CFマージンと呼びますが、これが継続して15%できれば20%を超えていれば超高収益企業です。

もう一つ大事なのがフリーキャッシュフローです。

みなさん、何度も耳にしたこと、目にしたことあると思います。

フリーキャッシュフローって何でしょうか?

公式だけを示すことは簡単です。
フリーCF = 営業CF – 設備投資
フリーCF = 税引後営業利益 + 減価償却費 – 運転資本増減 – 設備投資

公式を覚えるのも大事ですが、フリーCFの本質もたまには考えてみてはどうですか。

なぜフリーって言うのでしょうか?

フリーマーケットのフリーがfreeではなくfleaなのは有名な話。自由市場ではなく蚤の市です。安心して下さい!、フリーCFの”フリー”は普通のfreeです。

英単語のfreeは、「自由な」「束縛のない」「自発的な」「暇な」「無料の」など多様な意味があります。

フリーCFの”フリー”は「自由な」「縛られない」という一般的な意味です。

ではフリーCFは何に対して自由なのでしょうか?

これは某有名経営大学院の先生が言っていた非常に私の記憶に残っている言葉でして、皆様にもご紹介します。

フリーキャッシュフローの”フリー”とは、

フリー from 資本構成 

なんだと。

フリーCFは資本構成から自由なのです。資本構成に縛られないキャッシュなのです。

企業のバランスシートの右側は負債とエクイティの二つで成り立っています。フリーCFはこの2者、つまりバランスシートの右側すべてに帰属するキャッシュということです。

事業活動を通じて稼いだのがフリーCFです。そしてそのフリーCFを原資として債権者と株主にキャッシュが還元されていくということです。

フリーCFは債権者・株主が自由に使えるお金だということです。

もちろん好き勝手できませんよ。債権者は契約に基づいた利息と元本しか受け取れません。債権者に支払った残りはすべて株主に帰属するお金ですが、これだって債権者保護の為に分配金規制がありすべてを株主に配当できるわけではありません。

そのような法規制はあるものの、経済的にはフリーCFとは債権者と株主に帰属するキャッシュだということです。

これを理解していれば以下のような疑問は絶対に浮かばないはずです。

「支払利息はフリーCFを計算するとき、除外するんだっけ?」
「配当金はフリーCFに含めるのかな?」
「法人税はフリーCFから除外するんだっけ?」

支払利息も配当金もフリーCFには含めません。
法人税はフリーCFから除きます。

税金支払後、利息・配当金支払前のキャッシュがフリーCFです。

なぜなら、フリーCFとはフリー from 資本構成だからです。

フリーCFを原資として債権者に利息を株主に配当金を払うんだから、当然フリーCF自体は利息・配当金控除前ですし、税金は支払った後でなければなりませんよね。

株式投資家として認識すべきは、多額のフリーCFを稼ぐことができる企業に投資することは大切なのですが、フリーCFは株主だけのものではないということです。

先ずはフリーCFから債権者がお金を取るのです。そして債権者が吸い取った後の残りがあなた株主のお金です。

ハイレバレッジで多額の負債がありしかも高利率だった場合、フリーCF自体は多くても株主に残るお金は僅かだったという事態もあり得ます。

そういう意味でも、バフェットが言っているように多額の負債を抱えていない企業というのは安心できます。
保守的な財務政策をとっている会社のキャッシュフロー計算書であれば、フリーCF ≒ 株主のお金と言えるわけです。

フリーCFが多いことだけを見て安心するのではなく、そこから債権者どもがどれだけ取っていくのかという視点も持っておきたいところです。

以上、フリーキャッシュフローの雑学でした。

まあ正直言って、こんなフリーCFの意味を理解したところであなたの投資パフォーマンスは0.1%も上がらないです。

まあいいじゃないですか。知識ってそんなもんでしょ。

人生とは死ぬまでの暇つぶしなわけですし、これを余計な知識と言ってしまえば世の中の多くのことも余計な知識です。どうせ死んだら一緒、墓場には何も持っていけません。

こんな余計な知識も、ふとした時に意外に役に立つかもしれないよ。