私の勝手なイメージで恐縮ですが、会計財務周りには以下の3つ学問があってそれぞれ担当する時間軸が異なります。

未来:ファイナンス論
現在:財務諸表論
過去:簿記論

この中で株式投資に最も馴染みあるのがファイナンス論です。株式投資を勉強したい人は簿記ではなくファイナンスの本を手に取った方がよいと思います。一方で、勉強が楽しいのは簿記かなって思います(最初は苦痛だけど)。

株式投資の勉強したいならファイナンス論

株式投資を始めてから、会計周りの勉強に興味を持ってくれた方もいるかもしれません。

別に会計とか財務とか勉強しなくても、正しい株式投資の知識を身につけることは可能です。会計財務の勉強をシコシコ頑張ったところで、別に投資リターンなんてそう上がらないと思います。特にBuy&Holdの長期投資では。

割安に放置されている銘柄を見つけて投資するいわゆる”バリュー株投資”を実践したいと思えば、やはり最低限の会計財務の勉強は必要だとは思いますが。

まあそういう利害関係は置いておいて、やっぱり勉強して知識が増えると日経やWSJのニュースなんかもスムーズに理解できるようになって楽しいと思います。

「楽しい」っていう感情って大事ですよね。人生できるだけ明るく楽しく過ごせるに越したことはありません。株式投資はあくまでもお金を稼ぐための手段という人が大半だと思いますが、そんな株式投資もできれば興味持って楽しくやれるといいですよね。

上で記した3つの分野の中で、株式投資の理解を深めるのに最も有益なのはファイナンス論だと思います。

株価とは多くの投資家が将来の配当をあれやこれや予想して、その結果がマーケットで成立したものです。株式投資とは企業のビジネスの未来に投資することです。株式投資、というか投資とは基本的に未来志向です。不確実な未来の社会を信じて、それにお金を投じる行為が投資です。

ファイナンス論は、資本市場や金融資産の理論価格、企業の資本政策(コーポレートファイナンス)などを学ぶ分野です。ファイナンス理論も基本的に未来志向です。

株式投資を勉強したいと思った人は最初に簿記の勉強などに走りがちですが、株式投資を学ぶことが目的であれば簿記はすっ飛ばして、ファイナンスから勉強し始めるといいかなって思います。

簿記を知っていた方がファイナンスの理解も早いとは思いますが、いきなりファイナンスの勉強から入ってもそれほど問題はないと思います。

ファイナンスって基本的にキャッシュを中心に考えます。
キャッシュにあれこれ色を塗るのが簿記です。色を塗らなくても絵は描けます。
簿記を知らなくてもファイナンスの勉強は何とかなります。

勉強するって人生を楽しくするし素晴らしいことだとは思いますが、あまりに時間を掛け過ぎるのも良くないかもしれません。時間は貴重な有限資源ですから。

手っ取り早く株式投資についての知識を増やしたいなら、簿記のテキスト読むよりファイナンスの本を読んだほうがいいと個人的に思います。

簿記は地味だけど面白いよ!

ところで、ファイナンス論って難しい様に見えて素人が学ぶ範囲はそこまで深くないです。もちろん、私はそんな専門的に深いところまで勉強しているわけではないので、あまり勝手なことは言えないですが。

学問としての深さという意味では圧倒的に簿記の方が深い気がします。

簿記論と財務諸表論は少し時間軸が違います。簿記論は過去で、財務諸表論は現在というのが私が持ってるイメージです。

財務諸表論は出来上がった財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書)をどう分析して活用するかについてがメイントピックです。財務諸表はすでに出来上がっていることが前提です。

一方で、簿記論はその財務諸表を作成するまでのプロセスがメイントピックです。一つ一つの取引をどのような会計仕訳で記帳していくのかということですね。

株式投資を学ぶ上で手っ取り早いのはファイナンス論だと言いました。ですが、勉強し始めて段々と面白くなって嵌ってしまうかもしれないのが簿記だと思います。

簿記って所詮過去の取引を記帳しているだけと言えばそれだけです。まあ極端に言えば、個人のお小遣い帳と変わらない面があります。

なんですがね、所詮過去の取引の記帳に過ぎない簿記なんですが、これが意外に奥が深くて勉強し出すと結構熱が入っちゃう人もいるかもしれません。

複式簿記ってすげえな~って今でもたまに思います。どれだけ複雑な取引でも常に貸借バランスさせるって当然に思えてすごい発想だと思うんですよね。

簿記って最初は暗記すべきことが多いし、その独特な概念に慣れるのが大変です。

借方は左側で、貸方は右側。
資産は借方、負債と純資産は貸方、収益は貸方、費用は借方、、、こんなの暗記するしかないです。
理屈じゃないから。

ただ最初の壁を乗り越えると、あとは原理原則が同じなので理解の速度が上がる気がします。最初に基本的な知識の土台が出来上がると、あとは下手したらテキスト読まなくても自分で仕訳を考えることができたりします。

簿記ってね、会計ってね、何が面白いかって言ったらどんな事も残酷なまでに感情を取り払って、あらゆることを数字で抽象化することです。
「え、、これほど会社の未来を左右するでっかいイベントなのに、たったの仕訳3本で終わりなの!?」みたいな感じ。

例えば、最近ネット通販大手のアスクルの倉庫で大規模な火災が発生しました。これによってアスクルの売上高は前年同期比で26%以上も減少しました。

従業員、経営者、消費者、そして株主すべての関係者にとって悲しい出来事です。従業員は一時的に職を失うかもしれないし、経営者は経営責任を取る必要があるし、株主は金銭的な損失を負担する必要があります。

死者が出たとの報道は聞いておらず不幸中の幸いだと思いました。

で、このアスクルでの大規模火災によってどのような会計仕訳が起きると思いますか?
私はアスクルの経理部ではないので正確にはわかりませんが、多分こんな感じです。

(金額は適当、保険金は無視)

建物(倉庫)と在庫が消失するので、資産の減少として建物や在庫が貸方(右側)にきます。
その見合いの損失が同額借方(左側)にきます。

こんな簡単な仕訳で火災による損失は処理されます。
もちろん、この仕訳1本作るために経理現場では膨大な情報収集と監査法人との摺り合わせが必要ですが。

でも仕訳としては基本この程度で終わりです。
これが簿記の残酷でありかつ面白いところです。火災による社員や経営者、株主の悲しみの感情なんて一切無視です。サラッと数本の仕訳で処理は終了です。

これが会計が極限まで情報を抽象化する学問だと考える所以です。物事を抽象化するとは、余計な付随情報の一切を取り除くことです。贅肉を取り除いて骨だけにすることです。

彼氏が彼女に50万円の婚約指輪を買いました。コンラッド東京のレストランで食事(4万円)をして、綺麗な夜景の見える部屋で彼女に指輪を渡してプロポーズをしました。
(※私の友人の実話)

さて、この時彼氏の家計で起きる会計仕訳はどうなるでしょうか?

宿泊代を無視すればこんな感じでしょうか。

費用(指輪+食事) 54万円 / 資産(預金) 54万円

結婚指輪代とレストランでの食事代の合計54万円が費用として借方(左側)にブックされて、預金という資産が減少するので預金が同額貸方(右側)にブックれます。
以上です。

ここに「愛」とかそんな要素は出てこないのです。なぜなら、簿記・会計とはそういった感情を一切排してすべてを決まった科目と数字のみで表現するものだからです。彼女に対する愛があるから費用ではない、みたいな理屈は通用しません。

簿記、会計はここまで物事を抽象化してしまうから普通は勉強してて眠くなります。それが普通だと思います。

でもなんかね、その眠さを通り越すとどんなダイナミックな取引でもサラッと簡単に数字で抽象化してしまう簿記に畏敬と尊敬の念を抱きはじめて、そしてドンドン会計の勉強が楽しくなっていきました。個人的な体験談に過ぎませんが。

グーグル、ファイザー、エクソン・モービル、ボーイング、マクドナルド、ウェルズ・ファーゴ、プロクター&ギャンブル、ネクステラ・エナジー、AT&T・・・
どんなビジネスをやっている企業であっても、複式簿記を駆使すれば業績や財務状態を数字で表現できます。

簿記、会計って地味だけど意外に面白いですよ。