何事かと思った!

金曜の夜、ベッドの上で氷結レモン飲みながら何気なくスマホで米国市場の様子を覗いたら、アルトリア(MO)やブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTI)、フィリップモリス(PM)の株価が暴落している。

「んんん、何が起こった???」

特にMOの下げがきつい。
私が株価を見た時は前日比16%も下げていました。

最初、「ああ、またシステムエラー」かって思いました。
今月初め、ナスダック指数の株価がエラー表示されるという事故がありました。あの時はマイクロソフトが一時50%下落という表示が出たりして投資家を困惑させました。

あの時と同じで株価の表示エラーかなと思いました。
だって、アルトリアは最近好調な決算発表を行ったばかりです。

でも、たばこ銘柄だけ株価が異常表示されるなんて、、、
そんなシステムエラーあるわけない!!
とすぐに気付きましたw。

訴訟かトランプツイートかと、色々と推測を巡らせていました。

グーグル先生に教えを請いました。
「アルトリア 急落」「たばこ銘柄 株価」とかで検索しまくり。
でも何も情報は出てこない(28日深夜時点)。

英語はちょい苦手なんですがアメリカの情報をサーチするしかないと思い、「Altria group stock down」といった慣れないキーワードでググりました。

そしたらすぐに見つかりました。
“FDA”、”nicotine”といった単語が散見される記事がトップにきてました。

「ああ、FDAのニコチン規制か・・、なるほど。」
と納得して布団に入りました。

 

 

 

朝起きてスマホで株価を見ましたが、やはり大幅下落で取引を終えています。

やはり原因は、米食品医薬品局(FDA)がニコチン含有量規制を検討しているという報道でした。

28日のNY市場の主要なたばこ銘柄の終値は以下の通りです。
()内は前日比騰落率

フィリップモリス(PM) → 118.5ドル(+0.3%)
アルトリア・グループ(MO) → 66.9ドル(▲9.5%)
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTI) → 64.9ドル(▲7.0%)

PMの株価が下落していないのは、PMは米国外でビジネスをやっているためです。FDAの規制は当然米国内でしか適用されません。PMは一時6%ほど下落していましたが、マーケットは「いやいやPMは大丈夫でしょ」ってすぐに冷静になったようです。

アルトリア・グループ(MO)は100%米国内でビジネスをしているので、もろにFDAの規制の影響を受けます。
それでMOの株価は前日比9.5%安と暴落しました。

そもそも、フィリップモリスとアルトリア・グループとで会社分割したのは、こういった米国の厳しい規制や訴訟慣習のリスクを切り離すためでした。まさに今回のようなイベントのために分離したようなものです。

WSJでは、すでに日本語翻訳済みの記事がアップされています。

米食品医薬品局(FDA)は28日、たばこのニコチン含有量について、中毒にならない水準への引き下げを義務付ける新規制を検討していると述べた。たばこ業界の大幅な規制見直しの一環だ。

さて、アルトリア・グループの株価が上記の通り下落しましたね。
これがマーケットの判断です。まだたったの1日ですが。

マーケットは将来のMOの利益(配当)が今回の規制で、それなりに減少するだろうと見込んでいるようです。

それは既存のタバコの販売制限による減収リスクもあるでしょうし、FDAの指導に対応するための追加コストによる費用増加もあるでしょう。

私は某メーカーの本社経理に勤めていますが、過去に米国子会社の品質システムにFDAからダメ出しを受けて品質改善活動を余儀なくされたことがありました。その時、その経理周りを見ていました。

その時に掛かったFDA対応費用は半端ない金額でしたよ。指摘を受けたラインで生産している製品は一時出荷停止だし、専門コンサルタントを高額なフィーで長期間雇わなきゃいけないしで。その子会社の年間利益は吹っ飛びました。固定資産は全額減損しました。のれんも減損しました。

私はたばこ業界について詳しくないので、今回のFDA規制がMOの業績・将来配当にどれほど悪影響を与えるのかわかりません。マーケットは一時的に10%安という反応を示したという現実が目の前にあるだけです。

これがMOへの投資機会なのかわかりません。

ただ、こういうリスクこそが株式投資のリターンであることは間違いないと思います。

株価とは、将来配当を現在価値に割り引いた金額です。
割引率とはマーケットリスクです。

MOの株価が下落したのは分母が減少したから?
それとも、分子が上昇したから?

それはわかりません。
マーケットとは個々の投資家の集合体です。
マーケットとは人です。

各投資家が未来をどう予測しているのか、それを定量化することはできません。

ただ、ざっくり言えるのは分子にも分母にも影響を与えているかな、ということです。

FDAの規制は、MOの将来利益(配当)は少なくともプラスには効かないでしょう。
また、FDA規制の影響が不透明なためMOの将来に不安を感じてリスク認識が高まっているとも言えるでしょう。

分母の割引率、マーケットリスクが上昇しているとしたら、それはMOへの長期投資のチャンスと言えるかもしれません。

長期株式投資とはリスクを取り続けるという仕事です。
リスクとはマーケットのリスクです。

マーケットがビビッてリスクを取りたがらない時に、我こそはとリスクテイクをすることでリスクテイカーとしての仕事の価値は高まります。それは最終的に金銭的なリターンとなって返ってきます。

マーケットのリスクが高いということは将来本当に衰退してしまう可能性もあるということで、そうなれば投資家は損失を被ります。
それは仕方ないことです。その不確実性を受け入れることは不可避です。

かつてフィリップモリスの投資リターンが高かったのは、常に訴訟リスクを抱えており、PMの将来配当にはリスクがあると見做されていたからです。でも、実際はフィリップモリスは増配を続けて株主に報いてきました。

「フィリップモリスは危険な投資対象と周りは思っているけど、僕はそうは思わない」という少数派の意見が時を経て現実のものとなるとき、そのマイノリティ投資家は超過リターンを手にすることができます。

近年は、たばこ銘柄にはかつてほど高い投資リターンを期待でいないと感じています。
たばこ銘柄のPERは市場平均より1割ほど高い状態です。

WSJによると、2000年前後のタバコ会社のPERは生活必需品セクター平均の3分の1程度だったそうです。
最近のIBMくらいに投資家期待は低かったのです。

投資家として政府規制や、訴訟リスクを喜ぶべきとまでは思いません。
やはり短期的であれ自分の持ち株の株価が下がるのは苦しいことです。

ただ、何度も言って恐縮ですが、株式投資のリターンの源泉とはリスクです。
マーケットのリスクが高まっている時に、勇気さえあればリスクを取れるのが個人投資家のメリットでもあります。

きちんと分散投資をしてリスク管理をしつつも、投資家が悲観的になっている領域にちょっと多めに資金を振り向けることで、投資リターンは上がっていくかもしれません。

いくら悲観的セクターを狙うとは言え、過去10年の営業CFやフリーCFがマイナスになっているような企業への投資には注意すべきです。特に長期投資では。

アルトリア・グループは超キャッシュリッチな優良企業なので、FDA対応のためのコストを難なく捻出できるはずです。

タバコ銘柄に少し長期投資妙味が出てきたのかもしれません。
どれだけ規制が強まろうと、タバコは売れ続けると思います。
タバコは社会から必要とされ続けると思います。