長期投資家にとって無視できないマクロ経済動向があります。
インフレです。

インフレとは物価が上昇することであり、通貨価値が下落することと同義です。

投資リターンは物価上昇を超えないと意味がありません。年率10%のリターンは高いように感じるかもしれませんが、それはインフレ率次第です。インフレ率が2%程度なら、物価上昇考慮後の実質リターンは8%(10%-2%)になるので年10%のリターンでも十分高いです。

インフレ率が8%あれば、実質リターンは2%(10%-8%)しかないことになるので、年10%のリターンでは満足できないでしょう。

短期投資であればインフレ率なんて気にする必要ありません。よほど経済不安定な国でなければ、短期間で目に見えて物価が上がることはありませんから。短期投資では名目リターン=実質リターンです。

でも、長期投資家はそうはいきません。何年以上が「長期」と言えるのか厳密な定義はありませんが、まあ30年を超えれば長期と言えるのではないでしょうか。30年超の長期投資を前提としているのであれば、インフレ率を無視して投資リターンを測ることは不合理です。どれだけ名目リターンが高かろうと、同じくらいインフレ率も高ければ実質リターンは低くなります。長期投資では「実質リターン=名目リターン-インフレ率」です。

マーケットは企業の将来の利益を予想して株価を値付けしますよね。それと一緒で、マーケットは将来のインフレ率を予想して株価を値付けします。マーケットは現在のインフレ率には興味がありません。マーケットが関心を持っているのは将来のインフレ率、つまり期待インフレ率です。

期待インフレ率が変化すると株価も動きます。
期待インフレ率の変動によって株価はどう動くでしょうか?

答えはこうです。
期待インフレ率が上昇すると株価は下がる。
期待インフレ率が下落すると株価は上がる。

なぜ、期待インフレ率と株価は逆相関なのでしょうか?
ここ是非、理解しましょう!
そんなに難しい話じゃないので安心して下さい。

長期投資ではなるべく心の平穏を保って、マーケットに居続けることが大切です。投資の不安を少しでも和らげるためには、株価が一時的に暴落している時にその原因を冷静に理解できることが大切です。

期待インフレ率と株価の関係は結構大事な点だと思いますので、今回取り上げます。

 

一定の実質リターンを保証するためには、インフレ率が上昇すれば名目リターンも上昇する必要がある。名目リターンを上昇させるためには株価は下落する必要がある。

冒頭でも述べましたが、(長期)投資リターンは実質ベースで考える必要があります。

実質リターン=名目リターン - インフレ率

マーケットは合理的に株価を値付けしています。合理的というのは、ある株式の株価はその株式のリスクに見合ったリターンがもたらされる程度の価格に落ち着くという意味です。株式が一定のリターンを生むのは、将来の利益(配当)が常に一定のリスクで割り引かれているからです。投資すると儲かるような株価になっているから、株式投資は儲かります。

米国株の実質リターンは概ね7%程度でこれまで推移してきました。暴落直前であれ戦時中であれ、どんなタイミングで投資したとしても、50年以上持ち続ければ概ね7%程度の実質リターンを投資家は得ることができました。

米国株は7%程度の長期リターンを得られる程度の株価に収まってきたということです。株価は日々大きく上下していますが、不思議なことに長期で見れば年率7%程度(実質)のリターンになるように推移してきました。これは不思議な現象です。結局マーケットは賢いということでしょうか。時にはマーケットが判断を誤ることもありますが、長期で見れば適切にリスクを織り込んでいるということです。

ここで大事なことがあるのですが、マーケットは実質ベースで年率7%程度になるように株価を値付けしています。

実質ですよ実質。マーケットはきちんとインフレを織り込んでいます。過去100年、米国株は実質ベースで年率約7%のリターンだったのです。名目7%じゃなくって実質7%です。

実質リターンが年7%で固定だとしたら、インフレ率が上がれば上がるほど名目リターンは高くなる必要がありますよね。

インフレ率が2%なら、実質7%のリターンを得るには9%の名目リターンが必要です。
(7%=9%-2%)

インフレ率が5%なら、実質7%のリターンを得るには12%の名目リターンが必要です。
(7%=12%-5%)

インフレ率が8%なら、実質7%のリターンを得るには15%の名目リターンが必要です。
(7%=15%-8%)

①実質リターン(②-③) ②名目リターン ③インフレ率
7% 9% 2%
7% 12% 5%
7% 15% 8%


実質リターンが年7%で固定だとしたら、インフレ率が上がれば上がるほど名目リターンは高くなる必要がありますよね。③の数字が上がれば、②の数字も上がってますよね。

繰り返しますが、、実質リターンが固定ならインフレ率が上がれば名目リターンも上がる必要があります。

株式の名目リターンが上がるには、株価が下落してPERが下がる必要があります。(PERの逆数である)株式益回りが上がる必要があります。

だから、期待インフレ率が上がると株価が下がります。期待インフレ率が上がると、より高い(名目)リターンが得られないと株式に投資する経済的意味がないとマーケットが判断するので、株価は下がります。

 

きちんと知識を持って、来るかもしれない株価暴落に備える

現在のS&P500のPERは約20倍(益回り5%)で、期待インフレ率は多分2%くらいです。仮に期待インフレ率が1%上昇して3%になったとすれば、PERは16~17倍程度まで落ちる必要があります。PER17倍で益回り約6%です。「5%-2%」も「6%-3%」も結果は3%で一緒ですよね。

まあ、これはあまりに計算が単純過ぎますがね。PER16倍になるまで株価が下落することはないでしょうが、期待インフレ率が上昇すれば株価が下がること自体は確実です。

2017年11月現在、米国10年債利回りは2.3~2.4%のレンジで推移しています。2年物利回りとの格差は0.6%しかありません。米国の長期金利は低いと言えると思います。それは投資家の期待インフレ率が低いことを示唆しています。語弊を恐れずに超ざっくり言えば、長期金利=短期金利+期待インフレ率です。

長期金利と短期金利が近似しているということは、期待インフレ率が低いことの表れです。期待インフレ率が低いから、米国株のPERが高くても(益回りが低くても)許容されています。

今後マーケットの期待インフレ率が上がれば、全セクターの株価が暴落するリスクがあります。近々米国株の暴落リスクがあるとすれば、この期待インフレ率の見直しだと僕は考えています。

じゃあ、事前にマーケットから退避しておくか?
いや、それは無理でしょう。期待インフレ率が上昇して株価が下落することを(起こるかわからないけど)事前に予測するなんて無理ゲーです。それができるなら一流ファンドマネージャーになれます。

私たち個人投資家にとっての最適解は、よほど不合理なバリュエーションにならない限りは愚直にマーケットに居続けることです。そのためにはちょっとした株価調整で慌てないことです。今後米国の期待インフレ率が上昇したら、株価は大きく調整する可能性があります。その可能性を頭の片隅に置いておくだけでも、狼狽売りを防げると思います。