投資判断で参考にするバリュエーション指標の一つにPERがあります。PERは株価が一株当たり利益(EPS)の何倍かを示した指標で、株価 / EPSという数式で算出されます。PERだけで割安割高を判断することは先ず不可能ですが、そうは言っても投資先のPERは一応確認しておきたいものです。

しかし。

ことバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)への投資判断において、PERは全く使い物になりません。バークシャーへの投資を検討するときは、PERはほんの小さな参考情報程度として扱いましょう。

 

2018年から有価証券の会計処理が変更になり、バークシャーの利益は大きくブレることになる。PERは無視した方がいい。

バークシャーが発表した2018年第1四半期決算はサプライズでした。11億ドルの純損失だったのです。サプライズだったのはその理由です。2018年決算から保有上場株の時価変動を損益処理する方法に会計処理を変更しています。バークシャーが好んでやっているわけではなく、新たな会計基準(ASU2016第1号)の要請に嫌々従っているだけです。

法律なので仕方ありません。バークシャー投資家はこの会計基準変更は覚えておいた方が良いです。影響が甚大です。今後、バークシャーのPLの見え方が様変わりします。

バークシャーは2000億ドル近い上場株を保有しています。2018年5月現在の主要銘柄は、アップル(14.6%)、ウェルズファーゴ(14.5%)、クラフト・ハインツ(13.2%)、バンク・オブ・アメリカ(10.5%)、コカ・コーラ(9.6%)などです。

投資家のあなたはよーくお分かりだと思いますが、3カ月~1年もあれば株価なんて平気で10%近く変動することありますよね。そうやってボラティリティの高い相場にしがみついて長期で保有することで、高いリターンを得られるのが長期投資というものですよね。

バークシャーの保有上場株の時価総額は約2,000億ドルですが、仮に10%時価が変動したら200億ドルもの損益が生じることになります(税効果は無視)。200億ドルですよ・・。バークシャーの最終利益はここ3年ほど240億ドル程度です。2017年は450億ドルの最終利益となりましたが、これは税制改革の一時的な利益が押し上げているだけで実質的には240億ドルほどです。

まあ、ざっくり200億~300億ドルがバークシャーの利益だと思ってください。そこに、今後は上場株2,000億ドルの時価変動による評価損益がアドオンされるわけですよ・・。いやいやいや、、こんな損益計算書はもう使い物にならんですよ。仮に10%時価が下落して200億ドルの評価損がPLに反映されたら、他の事業で生み出した利益のほぼ全部を吹き飛ばします。

でもご存知の通り、バフェット氏・マンガー氏は長期投資家ですよね。株価が下がったからって、慌ててコカ・コーラ株やウェルズ・ファーゴ株を売るような人じゃないですよね。数か月間の株価変動に基づく時価評価差損益は、実質的にバークシャーの業績に影響を与えません。なのに、これをPL処理するのは適切とは言えないと思います。でも、アメリカの会計基準がそうなったんだから従うしかありません。法律はきちんと順守しないといけません。

これから先、バークシャーのEPSを予測するのは不可能です。アナリストはもちろんのこと、バフェット本人ですら不可能です。なぜなら、バークシャーのEPSを予測するということは、バークシャー保有の上場株の3カ月後(ないし1年後)の株価を予測するに等しいからです。んなの無理に決まってるじゃないですか。

あ~、この会計処理はほんっと反対です。今までバークシャーは保有株からの配当金だけをPL処理してきました。今後は配当だけじゃなくって、キャピタルゲイン(ロス)までもがPL処理されます。

反対反対言っても仕方ありません。こんな日本の末端投資家の声がFASBに届くはずもありませんから。事実を受け入れて、投資家として判断を誤らないように対策するしかありません。

今後、バークシャーの当期損益は株価によって大きくブレることになります。よって利益(EPS)をベースにバリュエーションを判断することは事実上不可能です。つまりPERは全く役に立ちません。一応PERを見ておくのは良いと思いますが、ほんの参考程度にしましょう。

仮にPERを使うのであれば、株式評価損益の影響を除外したEPSを自分で算出して補正したPERを見ましょう。私は米国株銘柄分析でバークシャーも取り上げていますが、2018年更新版からは必ずこのキャピタルゲイン(ロス)の影響を除外したPERを記事に残そうと思います。