株価理論値の算定公式は単純です。

将来のすべての予想配当金を現在価値に割り引いた金額です。

株価公式

公式自体は単純ですが、問題は分子も分母も投資家心理次第で日々変化するということです。

特に分母の「割引率」はやっかいです。

割引率には、投資家たちが予想将来配当の実現可能性をどれほど信頼しているかという心理状況が強く反映されます。

マーケットは不確実性を嫌うといいますね。

不確実性が高まって将来の収益・配当の予測可能性が低下すると、分母の割引率が上昇して株価が下落するのです。

だから、マーケットは不確実性を嫌うのです。

  私に100万円預けてくれる?

突然ですが、
私に100万円を預けてくれませんか。


1年後、必ず110万円にしてお返し致します。
私の低PER米国株バリュー投資戦略を使えば、年率10%とか余裕ですから。
以下の口座に振り込んで下さい。
(三菱東京UFJ銀行 新橋支店 0005-45-7777777) ←口座番号架空です。

だめですか?
では、これでどうですか?


1年後、必ず200万円にしてお返し致します。
近いうちにポケモンの新作アプリが公開されるんですがね、それで一儲けできると確信しているんですよ。
以下の口座に振り込んで下さい。
(三菱東京UFJ銀行 新橋支店 0005-45-7777777)

どうですか?
やっぱりだめですよね?
一生懸命汗水たらして働いた大切お金ですもんね。

これはどうですか?


1年後、必ず1,000万円にしてお返し致します。
実はゴールドマンで働いている同級生がいて、そいつから秘密のIPO案件を貰える予定なんです!
以下の口座に振り込んで下さい。
(三菱東京UFJ銀行 新橋支店 0005-45-7777777)

もしかしたら、1000人いたら一人くらいは振り込んでくれるかな。

でも、健全な常識をお持ちのあなたはどの条件であっても100万円を振り込まないはず。

あなたはなぜ私に100万円預けてくれないのですか?

①のパターンでは100万円が1年後に110万円で、収益率は10%です。
資産運用としては成功と言えますよ。
インデックス投資の平均収益率は6%~7%ですが、それをアウトパフォームしてますよ。

②にパターンに至っては収益率100%ですよ!
凡人が株式投資で叩き出せるパフォーマンスではありません。

なぜ年率10%~100%もあるのに、あなたは私に100万円を預けないのか?

それは、一言でいうと、

「お前、誰だよ!!」
ってことです。

皆さんからしたら、”Grow Rich Slowly” とかいう変な題名でシーゲル流米国株投資最高!とかほざいている、たまに上から目線のこの生意気なブロガー誰だよって感じですよね?

しかも社会人経験10年にも満たない、30歳にもなっていない人生経験乏しい若輩です。
っていうか、読者の皆さんからしたら私が本当に20代の社会人かも怪しいと思っているかも。

だって証拠はどこにもない。

自分で言うのも何ですが、私はまじめで誠実で会社の同僚からもそれなりに人望はあるつもりですし、月~金サラリーマンとして普通に仕事を頑張っていますよ。

で、どうです?
こんなまじめで誠実な(自称)私に、10%の収益率と引き換えに100万円を預けてくれますか?

②はどうでしょう。
100万円が1年後に200万円ですよ。

収益率は100%
PEファンドのKKRも驚きの高収益率ですよ。

だめですか?(しつこい笑)

③はどうですか?
1年間で100万円が1,000万円ですよ。
10倍です。 テンバガーです!

話が進まないので、③で妥協したことにしてくださいw。

あなたはこう思ったとします。

「どこの馬の骨ともわからん奴だが、100万を1,000万にするとそこまで自信満々で言うなら、100万円を捨てるつもりで預けてやろうじゃないか!」

これはファイナンス的に何を意味しているでしょう?

それは、あなたにとって私という見ず知らずのブロガーに対する割引率が900%もあるということを意味しています。

割引率900%

なぜ900%もの法外な割引率(要求利回り)をあなたは私に要求するのか?

それはあなたが私のことを信頼していないから。

1,000万円という将来キャッシュに対して、とてつもなく大きな不確実性を感じているのです。

そりゃそうですよね、一度も会ったことも話したこともないし、社会的な実績もない無名の私に信頼なんてないですよね。

だからこんなに高いリターンを要求するわけです。

この900%という割引率、要求利回りはあなたの私に対するリスク認識であり、信頼感です。

超ハイリスクで、信頼を置けないと思っているということです。

では、仮に私が会社の同僚に同じことを言ったとしたらどうでしょうか?

①の110万円(年率10%)程度だと駄目かもしれませんが、②の200万円(年率100%)の条件なら私にお金を預けてくれる人も数人いるかもしれません。

同僚が②の条件で私に100万円を預けてくれたとします。

これは同僚の私に対する割引率が100%ということを意味しています。

割引率100%

見ず知らずのあなたは900%もの利回りを要求するのに、会社の同僚はその9分の1の100%の要求利回りしか求めない理由は何でしょうか?

それは、会社の同僚は私という人物を知っていますし、ある程度信頼しているからです。

同じ会社に勤めているしLINEも登録してあるし、預けた100万円を持ち逃げされることはないだろうという考えもあるでしょう。

信頼感の差が割引率の差となっているのです。

割引率100%というのはまだ高いかもしれませんが、同僚とはいえ赤の他人だし銀行預金のように安心してお金を預けることはできない、せめて2倍にはしてもらわないと割りに合わないと思っているということです。

  21世紀の平均PERが上昇する訳とは

バフェットは自分が買うと決めた企業の株の価値を算定する時、その企業の将来利益の現在価値を計算する時に使用する割引率は無リスク資産の割引率だと言っています。

株式は確定利付きの債券と違って将来配当に不確実性が伴うので、普通は一定のリスクプレミアムを株式投資家は要求します。

でもバフェットはリスクプレミアムを要求しません。
(それはリターンを要求しないという意味ではない。)

なぜでしょうか?

それはバフェットは投資先企業のビジネスモデルや経営陣の能力・人柄などを徹底的に調査して、投資する価値があると確信してから株を買うからです。

普通の投資家にとって、ウェルズファーゴ、IBM、コカ・コーラが今後30年も収益を生んで配当を支払い続けてくれるかは不確実に感じるものです。

確かに高収益優良企業かもしれませんが、それでも将来何が起こるかはわからないし不安です。

でもバフェットは違うんです。

経営陣との人間関係も築いていて、将来のビジネスモデルについてディスカッションもしている。

持っている情報量も圧倒的。

そんなバフェットにとって、ウェルズファーゴやコカ・コーラが今後30年間も変わらずキャッシュを生み出し続けることに何ら不確実性はないのです。

バフェットは、優良企業の株式は永久債券のようなものだと言っています。

ある企業の将来配当をどれほど不確実に感じるかは、一義的に決められるわけではなく投資家によって異なるということです。

不勉強投資家の割引率 >>>> 勉強している投資家の割引率 >>>> バフェットの割引率

S&P500の20世紀の平均PERは16倍程度です。

21世紀、平均PERは上昇して20倍を超える可能性があると言われています。

それはネット証券によって個人が低コストで安心して株を買えるになったという要因もあります。
それだけではなく、ネットで多くの企業情報を個人でさえも容易に入手できるようになったこともPER上昇の一因だと思っています。

機関投資家だけでなく、個人投資家もヤフーニュースやWSJなどで企業のビジネス情報を十分入手して分析することができる。

そうすると、投資家全体として企業の将来配当に対する不確実性が低下します。
リスク認識が低下するわけです。
結果として、割引率が低下するのです。

割引率とは将来配当に対する信頼感ということです。

だから、21世紀の株価の平均PERは上昇して然るべきなのです。

歴史に学ぶことは大切ですが、世の中は変化しています。

20世紀的な考えに縛られて、「PERが20倍は割高だそんな株買わない!」なんて言っていたら一生買う機会は訪れないかもしれません。

いいか悪いか、ネット社会の影響で21世紀の平均PERは20世紀より高くなっていると覚悟しておくべきです。