僕の投資方針にかなりの影響を与えたケインズの言葉があります。ケインズって、あの英国の経済学者のジョン・メイナード・ケインズです。

その言葉がこちら。

人生は短すぎる。人間の性格は短期の結果を熱望し、すぐに金儲けはしるおかしな風潮があり、遠い将来の利益に対する割引率は高利。

ジョン・メイナード・ケインズ

この最後の一文にビビっときたんですよね~。遠い将来の利益に対する割引率は高いか、確かにそれはありそうだって思いました。長期的に粘り強く株式投資を続けた人が(少なくとも米国市場では)報われてきたことの理由が、この1文に詰まってる気がしたんです。

株価は将来配当の割引現在価値の合計です。将来の配当の集まりが株価です。各年度の配当に適用される割引率は違う可能性があるということです。明日の配当の割引率は低いけど、30年後の配当の割引率は高いのかもしれません。まあ、それは人の心理として自然なことかもしれません。誰だって30年後のキャッシュなんて明日のキャッシュより信用できないでしょ。あとそんなに待ちたくないでしょう。

 

米国株は1900年から長期的に見れば、常にインフレ調整後で6%前後のリターンをもたらしてきました。名目リターンではもっと高いです。なぜ株式が実質6%のリターンを常に投資家にもたらしてきたのか、この理由は誰もわかりません。

企業が全体として常に利益を上げてきたから(要するに資本主義経済が崩壊しなかったから)、投資家も利益を得られたのは当然という意見もあろうかと思います。確かにそれはその通りかもしれませんが、企業が利益を得ることと株主が利益が得ることは必ずしもイコールではありません。

今後10年間ガンガン儲かる企業の株を買っても、買値が高過ぎたら投資家は儲かりません。常に実質6%のリターンを提供してきたというのは、6%くらいは儲かる程度の株価にいつも落ち着いていたということです。

マーケットが熱狂する時、悲観する時、色々と場面はあるわけですが、総体として平均して見ると概ね6%くらいのリターンを長期投資家が得られるくらいの株価で推移してきたということです。

なんで、株価は常に一定程度抑えつけられているのか、その理由の一つが「遠い将来の利益に対する割引率は高利」と言えるんじゃないかな~と思ってます。僕は初めてこのケインズの文章を読んだとき10秒くらいフリーズしました。

で、この「遠い将来の利益に対する割引率は高利」が事実だとしたら、長期投資対象として特に有望視できるセクターがあると考えます。2つ取り上げます。景気安定株(生活必需品セクター)ハイテク株(情報技術セクター)です。

 

景気安定株(生活必需品セクター)

株価は将来の配当が織り込まれていると言われますが、実際は怪しいです。業績が景気や市況によってグワングワン変動する企業の場合、そもそも将来の配当レベルが読みずらいです。そのような企業の株価はどうしても目前の配当水準を根拠に株が買われるケースが多いと感じます。最近だとボーイングですかね。

一方で、景気にかかわらず四半期業績が安定している企業の株価は、遠い将来の利益(配当)も株価に反映されやすいのかなと思います。「業績は平均CAGR?%で成長し続ける」という仮定をアナリストが設定しやすい気がします。

そんな遠い未来の配当も株価に反映させやすい景気安定株の株価は、長期投資家にとって割安になりやすいのではと思います。あくまでも長期投資家にとってです。短期的な利ザヤを稼ぐには適しません。長期で保有すると以外に株価の上値余地があったことが判明するんじゃないかと。

なぜなら、ケインズが言ってたように、遠い未来の配当に適用される割引率が高い可能性があるからです。

そんな高い割引率で株価が値付けされていたら長期投資家にはラッキーなことです。長期間辛抱強く保有し続けて遠い未来が現実に近づくにつれて、その高い割引率は段々と低くなっていくのですから。そうすれば、株価は上がります。「あれ、成熟企業の割に意外にグイグイ株価上がるな~」なんてことになりがちじゃないかと思うわけです。

ということで、景気安定株(生活必需品セクター)を推します。具体的には、ジョンソン&ジョンソン(JNJ)を挙げておきます。

 

ハイテク株(情報技術セクター)

ハイテク株は金利上昇に弱いと言われます。
それはなぜでしょう?

ハイテク企業、テクノロジー企業は一般的に成長企業が多く、高いEPS成長が期待されていることが多いです。株価は目前の配当よりも、大きく成長した将来の配当に依存しがちです。将来の配当は現在に割り引かれるので、金利上昇(割引率上昇)はハイテク株に特にネガティブという理屈です。

いくら将来の成長を期待していると言っても、遠い遠い未来(30年後とか)の配当に適用される割引率は高くなっている可能性があります。将来の配当が大きく成長するだろうと期待するのはいいんですが、結局同じ投資家人間ですからあまりに遠い未来の配当は信用できないし、何よりそんな何十年も待ちたくないと思うでしょう。

だから、ハイテク企業の株価って成長力の割に実は株価は割安になりがちなんじゃないかって思うのです。

「2017年、ハイテク株がこんなに値上がりしてきたのにこんなこと言うのか!?」って感じるかもしれませんが、今のバリュエーションでもハイテク株はまだまだ仕込み時かもしれません。というか、もうちょっと一般論として、どのような相場状況でも成長期待が高いハイテク株の株価は割安に放置されがちなんじゃないかと密かに思ってます。

しかも2000年のITバブル崩壊の記憶がまだ投資家の脳裏に残っている時代です。より一層、ハイテク株には慎重になっている人が多いかもしれません。

ハイテク企業といっても、毎年の業績がグラグラ変動するような企業ではこの理屈は通用しません。生活必需品セクターほどではないにしても、比較的景気に左右されずに業績が安定している企業であることが条件です。でないと、遠い未来の利益(配当)を株価に織り込むのが難しくなりますから。

具体的な銘柄を挙げるとすると、アップル、マイクロソフト、フェイスブック、アルファベット、ビザなどです。無配のフェイスブックとアルファベットは正直判断難しいですが。

 

100年、200年変わらないもの→人間心理

この100年で技術は大きく進歩し、私たちの生活水準は信じられないほど向上しました。私みたいな社会人歴10年未満の若輩者が、暖房の効いた部屋でベッドに座りながらノートPCでブログを書いている時代です。

インターネット、スマホの登場などに代表される情報革命は世界の国民の日常生活を一変させました。

これからはAI、IoTで益々世界は変わっていくでしょう。先日のブロガーオフ会で出た話では、2020年には私たちに日常生活で実感できるくらいAI技術が多く活用されているそうです。技術は指数関数的に発展していきます。色々と課題はあるでしょうが、そうやって生活が便利になることは素直に喜ばしいことだと思います。

一方で、これまでの100年もこれからの100年も不変だと言えることもあります。
それが、人間心理、人の感情です。

私たちのDNAに書き込まれている情報はたった数百年で大きく変わるわけありません。今こうやって地球で日々生きているわけですが、人類の長い歴史を考えれば私たちが生きる80年なんてクズのように小さなものに過ぎません。動物は環境に順応すべく少しづつ進化していきますが、200年、300年じゃ無理です。

人の感情が今後も変わらないと言えるなら、ケインズの言葉には普遍性があります。再掲します。

人生は短すぎる。人間の性格は短期の結果を熱望し、すぐに金儲けはしるおかしな風潮があり、遠い将来の利益に対する割引率は高利。

ジョン・メイナード・ケインズ

 

長期投資を考える時、「再現可能性」って大事だと思いませんか?

S&P500は過去200年右肩上がりの歴史があるから、今後も右肩上がりだろう。これも一つの「再現可能性」を高める論拠になります。過去の傾向が続く保証はないけど、200年も続いたならこれから50年も大丈夫でしょう~くらいには思えます。

ただ、これは理屈がちょっと弱いところがありますね。

技術進歩が激早い昨今の世の中で「再現可能性」があるな~って思えるのは、人間心理を根拠にした法則です。人間心理って絶対変わりませんから。なるべくたくさんお金欲しい、美味しいステーキ食べたい、美女とデートしたい、もてたい、出世して偉くなって権力を得たいとか。

100年後も200年後も、ナンパテクニックの本質は何も変わってないと思います。(あ、僕はナンパテクニックの「ナ」の字も知りませんけどね)。

ケインズの言葉も人間心理を突いた法則なので、きっと21世紀も通用するはずです。誰だって、遠い将来の利益には高い割引率を無意識のうちに設定しているんですよ。そりゃ当然ですね。将来は不確実ですし、将来まで待つのは億劫ですし。

長期投資とはこの人間心理を逆手に取った投資法なのかもしれません。「インデックス投資だからって、これまでの100年のようにこれからの100年も儲かる保証はないぞ!」なんてたまに言われます。まあ何事も100%確実なことは言えませんが、私はインデックス(長期)投資はこれからもリターンを生むと確信しています。なぜなら、人間心理はこれまでの100年と何も変わっていないはずだからです。

S&P500企業の中でも特に有望だと思うセクターが、上で挙げた景気安定株(生活必需品セクター)とハイテク株(情報技術セクター)です。