先日、バロンズに「グーグル親会社のアルファベットは割安である」という主旨の記事が掲載されていました。その記事の中にこんな文章があり、考えさせられました。

アルファベットのバリュエーションは コカ・コーラ (KO)や プロクター・アンド・ギャンブル (PG)などの消費財大手と同等だが、それらの企業よりもはるかに成長率が高い。

バロンズ

アルファベットとコカ・コーラやプロクター&ギャンブルのバリュエーションは同じくらいですが、利益成長率は圧倒的にアルファベットの方が高い。普通に考えれば、アルファベットの方が魅力的だろうという論調です。

アルファベットの2018年予想PERは約25倍、コカ・コーラの2018年予想PERは約22倍です。ややアルファベットの方が高めですが、両社ともS&P500平均の予想PER17倍を超えて20倍~25倍のレンジにある点で共通です。バリュエーションは同等と語っているバロンズに誤りはないと言えます。

デジタル広告市場の拡大という追い風を受けるグーグルを傘下に持つアルファベットと、成熟した飲料市場で、しかも最近は炭酸飲料の出荷量減少という逆風に晒されているコカ・コーラとでは、将来の利益成長力にはかなり格差があると思われます。将来を予測する前に先ずは過去を振り返ってみます。

以下はアルファベット(GOOGL)コカ・コーラ(KO)のFY08からのEPS推移です。何も調整していないGAAPベースのEPSです。

◆アルファベット

◆コカ・コーラ

FY17が両社とも凹んでいるのは、税制改革による一時費用によるものなので気にしないで下さい。アルファベットは毎年グングン利益が成長していることが分かりますよね。綺麗な右肩上がりです。一方で、コカ・コーラは途中デコボコしながらも概ね横ばいで、成熟企業といった印象です。

バロンズはこの点を指摘しています。アルファベットとコカ・コーラを比べれば、前者の方が今後も利益成長が高いのは明らかでしょう。そんな2社のバリュエーションが同等なのはなぜか、、アルファベットは割安に放置されているのはではないか。こんなところでしょう。

確かにアルファベットの利益成長を考えれば、PER25倍というのは比較的安心して投資できるように感じます。少なくとも急に半値に暴落するような危険なPERではないし、KOやPGのような利益成長が緩慢な企業に投資するより魅力的だというのも納得です。

しかし。

それでも、私は長期投資対象としてアルファベットではなくコカ・コーラを選びます。

 

高いPERには2つの理由がある

PERが高い企業はマーケットの利益成長期待が高いとしばしば言われます。それは間違いじゃありません。

でも、こんな疑問が出てきませんか?

「じゃあ、なんで利益成長率が低いコカ・コーラのPERはこんなに高いの?」って思いませんか。

その疑問は自然です。KOやPGなんて急に利益が成長するなんてことあり得ませんよ。飲料や日用品の需要は安定こそしていますが急には増えません。あなたが1年間に飲む水分量が来年急に増えることはありませんよね。世界人口は2100年に掛けて右肩上がりで増加すると国連は予測していますが、急に増えるわけじゃありません。

コカ・コーラのPERが高い理由は、将来の利益成長に対する投資家期待が高いからではありません。将来利益の”安定さ”に対する期待が高いからです。

一般論として、高いPERには大きく2つの要因があります。
①将来の利益”成長”期待が高い
②将来の利益”安定”期待が高い

どちらもPERを押し上げる要因です。「①利益がグングン上がっていくだろうという期待感」だけじゃなくって、「②利益は景気に左右されず安定しているだろうという期待感」もPERを押し上げます。なぜなら、高いブランド力があり景気循環に関係なく高収益を得られる企業の株なら、多少割高でも買いたいと思う投資家が多いからです。

コカ・コーラなどキャッシュフローが安定している株はもはや債券とさえ言われます。確定利息を得られる債券と同等と見なせるほど将来のキャッシュフローが安定している銘柄ということです。

 

「②将来の利益安定期待が高い」という理由でPERが高い場合、投資リターンは期待できないはず。

PERが高くても即割高と判断するのは早計です。「①将来の利益”成長”期待が高い」という理由でPERが高くなっている場合(20倍以上とか)、その期待値を超えて成長する可能性もあります。

だからこそ、バロンズは予想PER25倍のアルファベットが割安な可能性があると語っているわけです。S&P500平均の予想PERが17倍ですから、それと単純に比較すれば25倍というPERは高いです。それでも特に広告ビジネスの成長余地を考えれば、アルファベットのPER25倍は割安だろうというわけです。

一方で、「②将来の利益”安定”期待が高い」という理由でPERが高くなっている場合、利益の割に株価は割高で将来の投資リターンは期待できないと思うべきです。利益が安定しているとマーケットが思っているということ、投資家が安心しているということ、その安心感は投資リターンを押し下げます。ファイナンス的に言えばローリスク・ローリターンということです。

先ほどコカ・コーラのように毎年の営業CFが安定している株は、もはや債券と同等と見なされる時もあると言いました。債券ですよ債券。債券と同等ってことはそれくらいリターンが少ないということです。債券の期待リターンが株式よりも低いというのはご存知かと思います。

だから、僕はバロンズの意見に納得しています。アルファベットとコカ・コーラとであれほど利益成長力に差があるにもかかわらず、両者のPERはほぼ同等なわけです。PERだけで判断できるわけじゃありませんが、普通に考えればアルファベットの方が投資対象として魅力的です。

魅力的とは曖昧な表現でした。より高いリターンを求めるならアルファベットの方が好ましいように思います。リターンはほどほど(配当だけでもいい位)でもいいから安全に投資したいならコカ・コーラが好ましいでしょうかね。

これが自然な発想です。バロンズが同程度のPERの景気安定銘柄(KOやPGなど)よりもアルファベットを推奨する気持ちはよくわかります。

 

それでも、僕がコカ・コーラを選ぶ理由

ここまで言っておきながら、僕はコカ・コーラ株を売却して(今200万円弱保有)アルファベット株に乗り換える気はありません。それは、別に高い投資リターンを放棄して安定リターンでいいやと思っての判断ではありません。上の発言と矛盾しているようですが、コカ・コーラの方が長期での投資リターンは高いと信じているからです。

将来利益に対する”安心感”から高いPERになっている銘柄は債券と同等と評価されており、期待リターンは低いはずだと言いました。確かにそうなのですが、期間が超長期になると話が変わってくると思っています(ファイナンス的な根拠はないHiro個人の考えに過ぎませんが)。

コカ・コーラは利益安定度ばかりに注目されてPER22倍という株価が成立していますが、将来の利益成長力は過小評価されている可能性があると思っています。つまり、高いと思われているコカ・コーラの22倍というPERですが、遠い遠い未来の利益成長余地まで考慮すればもっと高いPERでもいいのではないかということです。

これは国連が公表している世界人口予測です。

2018年現在の世界人口は約74億人ですが、これが2050年には98億人に、2100年には110億人を超えると言われています。人口動態はかなり正確に予測できますから、大きくは外さないでしょう。

こういった世界の人口増加に伴うコカ・コーラの利益成長を今のKOの株価は織り込んでいるのでしょうか?

今まで貧しかったアジアやアフリカ諸国で所得が向上し、衛生環境が改善していきます。1日2ドル未満で生活している人を絶対的貧困層と言いますが、実はまだ世界人口の半分が絶対的貧困層にいます。

想像できますか?
2ドルって200円ですよ。200円で何が買えるでしょうか?コンビニでおにぎりとお茶を買うだけでも200円じゃ足りません。

今貧困層にいる人たちにとって、コーラやマックのハンバーガーは超高級品です。こういった層が少しずつ絶対的貧困層から脱していきます。そうすれば、確実にコカ・コーラやペプシコ、マクドナルド、P&Gの製品に対する需要は増えるはずです。これらの生活必需品セクターのハイブランド企業は、今後の世界人口増加の恩恵を受けるのはもちろんですが、それ以上に全体的な所得向上の恩恵を受けると思います。

過去10年で見ればコカ・コーラのEPSはほぼ横ばいですが、長期的にみればまだまだ右肩上がりの途中だと思います。そういった将来の利益が今のコカ・コーラの株価に反映されているかと言われれば、恐らくNOだと思います。これは推測ですがね。

世界の所得が増えればアルファベット(グーグル)などハイテク企業にも恩恵はあるでしょうが、先ず優先的にお金が回るのは飲料や食品などの生活必需品だと思います。そこを改善することがもっともQOL向上に繋がるでしょうから。

同じPER20倍~25倍のレンジにあるコカ・コーラとアルファベット(グーグル)。シンプルに考えればアルファベットに投資妙味を感じるかと思います。それは正しいと思います。短中期でコカ・コーラ株がアルファベット株をアウトパフォームするのは厳しいだろうと見ています。友人に「KOとGOOGLでどっちがオススメ」と聞かれたら、「GOOGLかな」って答えると思います。

なぜ自分がKOを選んでいるのにそう答えるかと言えば、KOを選んで後悔しないためには相当長期間ホールドし続ける強い決意が必要だからです。それが可能か分からないのに、安易に「KOが長期ではオススメだよ」と友人には言えません。

こんな理屈(屁理屈?)から、私は高PERのコカ・コーラ株を保有しています。長期で本当に高いパフォーマンスが実現するのか、、絶対の自信はありません(^^;)。だからポートフォリオに組み込む割合は最大でも10%にしています。