米国企業のCEOの報酬は日本のそれと一桁、いや二桁違います。ウォールストリートジャーナルによると、2018年度のS&P500採用企業のCEO132人の報酬の中央値は1,236万ドルでした。日本円で13億円を超えます。

(ウォールストリートジャーナルより)

ウォルトディズニーのロバート・アイガー氏のCEO報酬は6,600万ドルとのこと。ちょっと想像できない金額ですね・・。

社会の貧富の格差が拡大する中、高額報酬を受け取るCEOに批判的な向きもあります。しかし、経営者報酬の金額は株主総会で承認されているわけで、株主からそれだけのお金を払ってでも必要とされている仕事と言えます。会社はトップ次第ですから、S&P500を構成するような大企業のCEOの報酬が高いのはおかしな話とは思いません。

ネットフリックスとバチバチ争っているウォルトディズニーのCEOには、高額な経営者報酬を払う価値があるというのはわかりやすいです。自社で動画配信すべきか、それともネットフリックスにコンテンツを提供してロイヤリティ収入を得るべきか、その判断が今後数十年のディズニーの業績を左右します。コムキャストと競いながらの21世紀フォックス資産買収というビッグディールもありました。

一方で、仕事の割に給料を貰い過ぎていると思われがちなCEOもいます。

それは業界再編もほとんどない成熟企業のCEOです。これら企業のCEOは淡々と既存ビジネスを回して、その資金をいつも通り粛々と株主に還元しているだけです。傍から見ると大した仕事をしているようには見えません。いや、CEOには強いリーダーシップが求められるし、どんな企業のCEOでもスケジュールびっしりで多忙を極めていることはわかっています。あくまで外から見ると、目だった功績がないように見えるという話です。

バフェットは「バカでも経営できる企業を探しなさい」と言っています。「バカ」とはちょっと表現が悪いですが、言いたいことはシンプルでわかりやすいビジネスに投資しろってことです。

「バカでも経営できる企業」のCEOに10億円単位の報酬を払う価値はあるのでしょうか。過去の遺産のおかげで儲かっているだけで、もはや今の経営陣の手腕に依るところが小さい企業はいくらでもあります。そんなストックを持つ「バカでも経営できる企業 」のかじ取りに、10億円もの金を払う意味はねーだろっていう主張をたまに見かけます。

しかし、僕はそういう意見には賛同できません。淡々とブランド製品を売り続けて、株主還元を続けているだけの企業であっても、そのCEOは十分な報酬を受け取る権利があると思います。株主として高額な報酬を払うことに同意します(役員報酬はもちろん株主負担です)。

淡々と自社株買いしているだけ。
いや、でもその財務判断に百万ドルの価値があると思うんです。金があるからって調子に乗って全く関係ないビジネスに手を出したりせずに、素直に株主に資本を返すことに大きな意味があると思います。

株主としてそのニーズは大きいです。株主の財産をきちんと管理して守って欲しいということです。あ、それは常に株主還元しろって意味じゃないですよ。必要な投資はしっかりしてもらいたいです。最近IBMがレッドハットを買収して、当面の自社株買いを停止すると発表しました。その経営判断が株主にプラスかどうかは将来にならないとわかりませんが、自社株買いの停止自体は別に反対ではありません。M&Aと自社株買い、どちらの方が株主利益を増やすのかは未来にならないとわかりません。

大きなM&Aとかでニュースにならないと、CEOはもらっている給料の割に大した仕事をしていないと思われがちです。特に米国企業のCEOは報酬がべらぼうに高いですから。

ただ、それはなんて言うか、一種のバイアスですよ。飛行機が墜落したら大きく報道されます。滅多に起こることではないからです。一方で、安全に飛行を終えても何のニュースにもなりません。「ボーイング767 JAL303は13時に羽田を出発し15時に無事福岡空港に着陸しました!」なんてニュースは報道されません。当たり前のことだからです。安全にお客を輸送して当然です。

いつものように淡々と真面目に仕事をこなし、東京から福岡まで数百人のお客さんを輸送したパイロットは大した仕事はしていないのでしょうか?

いや、立派に仕事していますよね。
ただ目立たないだけ。

成熟企業のCEOは飛行機のパイロットみたいなものです。何事もなく安全快適な空の旅をお客さんに提供して当然。パイロットは相応の高給を受け取るだけの仕事をしています。CEOは既存製品を淡々と売って利益を稼いで、その株主資本を適切に配分する。結果だけ見ると、稼いだカネをただ株主に返しているだけに見える時もあります。でも、その仕事には大きな付加価値があります。

資本主義である以上、何であれ値付けはそこそこ合理的になるものです。本当に価値がないならCEO報酬は下がるはずです。10億円の報酬を払ってでも優秀なCEOを株主が求めるのは、それだけのお金を払う価値があると判断しているからです。米国大企業の時価総額は数十兆円単位に及びますが、それだけ多額の株主資本を管理するのは重責ということです。それが、たとえ成熟企業であっても。