やはり2018年は2017年ほど株式投資家に優しいマーケットにはなってくれないみたいです。ボラティリティは高まり、2月にはNYダウは一時10%以上も下落し調整局面入りしました。3月に入ってからは、トランプ政権が鉄鋼・アルミニウムに対する関税、中国輸入品に対する最大600億ドルの関税を発表したことによる貿易戦争のリスクから、株式マーケットはまた荒れ気味で落ち着きません。

2月に株価が下がり始めたきっかけとなったが債券安です。米10年国債利回りは2018年初時点では2.4%ほどだったのが、あれよあれよと言う間に上昇し3月後半の今では2.8%~2.9%近辺です。

債券利回りを上昇させた要因の一つが期待インフレ率の上昇です。物価が上がると債券利回りも上がらないと購買力を維持できません。期待インフレ率の上昇は債券利回りを押し上げます(債券価格は下落)。今年はインフレ率がどうなるか要注目です。マーケットも注視しています。雇用統計では非農業部門雇用者数よりも平均時給の方に注目が集まっています。賃金が上がれば物価も上がる可能性が高いからです。

マーケットは何でも将来の予測を商品価格に織り込みます。株価は企業の将来の利益を見越して値付けされていますが、利益は将来のインフレ率(期待インフレ率)によっても変動します。マーケットは今のインフレ率ではなく、期待インフレ率がどうなるかに興味関心があります。

じゃあ、期待インフレ率ってどうやって測ればいいのか?

ブレークイーブン・インフレ率(BEI)を見ればいいです。

あまり聞きなれない横文字で恐縮ですが、今年はインフレ率に注目が集まっているので紹介します。BEIは以下の式で算出されます。

BEI=普通国債利回り-物価連動国債利回り

一般的な国債利回りから物価連動国債の利回りを控除した値は期待インフレ率を示します。

物価連動国債って名前は聞いたことあるかと思います。米国では1997年から発行が開始されました(日本では2004年から発行開始)。物価連動国債とは、その名の通り物価水準に連動して元本が増減する国債です。

国債って普通は、元本(償還金額)は固定で期中に利息を受け取るだけですよね。もちろん債券マーケットでの評価額は常に変動しますが元本自体は変動しません。物価連動国債は利息があるのはもちろんですが、元本も変動します。インフレ率が上がれば元本も上がります。インフレ率が上がれば一般債券の投資家は損しますが、物価連動国債の投資家は損しません。インフレ相当分国債元本も上昇するからです。

物価連動国債の利回りは通常は一般国債利回りよりも低いです。なぜなら元本が物価に連動する分、債券価格が高くなっているからです。一般国債はインフレ率が上がっても元本が変動しないため、将来のインフレ率を織り込んで債券価格が安く取引されています。

理屈としては、期待インフレ率が変動しない限り一般国債と物価連動国債の期待リターンは同じになります。物価連動国債は期待インフレ率通りにインフレが起こればその分元本が上昇しますし、一般国債は期待インフレ率が債券価格に織り込まれている分利回りが高くなっています。

インカムゲインかキャピタルゲインかの違いでしかありません。一般国債はインカムゲインでリターンを得て、物価連動国債はキャピタルゲインでリターンを得るイメージです。期待インフレ率が変動しないなら、両者のトータルリターンは等しくなります。

つまり期待インフレ率相当分、一般国債の方が利回りが高いということです。だから一般国債利回りから物価連動国債利回りを差し引くと期待インフレ率になるというわけです。

2018年3月現在の実際の利回りを見てみましょう。
普通米国債利回り(10年):2.9%
物価連動国債利回り(10年):0.7%

一見すると物価連動国債の方が利回りが低くて不利に見えますが、物価連動債はインフレ率相当元本が上昇するので両者のリターンは理論的にはトントンになります(期待インフレ率が変動しないならば)。

ここから算出されるブレークイーブン・インフレ率(BEI)は
BEI=2.9%-0.7%=2.2%
です。

2%を超えていますね。これはあくまで”期待”インフレ率でしかありませんから、実際のインフレ率が継続的に2%前後で推移するのかFRBは監視することになります。ちなみに2017年はBEIは一時1.6%台まで沈みました。それが2%を超えるまで上昇してきました。これが米債券価格を押し下げた要因の一つです。

(出典:ウォールストリートジャーナル)

最近、WSJなどでちょくちょくこのブレークイーブン・インフレ率(BEI)が登場するので、用語の意味を理解しておくとスムーズに報道を消化できますね。ブレークイーブン・インフレ率は期待インフレ率と読み替えてOKです。