ゴッホの「ひまわり」の価値

美術品というのはかなり特殊なマーケットを形成します。どこが特殊かと言うと、供給数が1つしかない点がです。レプリカは除くとして、本物の作品はこの世に一つです。大量消費社会の真逆に位置するのが美術品です。

ゴッホの「ひまわり」って有名ですよね。中学生の時、美術の評価が「2」だった僕でも知ってるくらいです。


ゴッホの「ひまわり」の価値は53億円です。

この53億円どこから来た数字かと言えば、1987年に安田火災海上保険(現在の損保ジャパン日興興亜)が落札した値段です。会計っぽく言えば取得原価です。今市場に出回ったら、どれくらいの値が付くのかはわかりません。

あなたはゴッホの「ひまわり」に53億円の価値があると思いますか?

1987年で53億円ですから、インフレを加味して現在の価値に直せば70億円くらいにはなるでしょうか。いくら低インフレの日本とは言え。

先ずそんなに払う金がねーよってなるでしょうし、仮に大金があっても1つの絵画作品に70億円も払う気はなかなかしませんよね。よほどの美術品コレクター、マニアでない限り、買う人はいないと思います。

美術品は金と一緒で価値保存に有用という意見も聞きますが疑問です。万が一、火事でも起こればパーになるし、盗難リスクもあります。保管場所にも気を遣うでしょう。売りたいときに売れず流動性も微妙です。

価値保存としての機能なら、ゴッホの「ひまわり」よりもS&P500ETFの方がよっぽど優秀だと思いますね。

とこんな感じで、1億人いたら9999万9999人はゴッホの「ひまわり」に53億円(30年前の物価水準で)も払う気はしないと言うでしょう(てか、払う財力がない)。

でも、それで問題ないんです。
1億人の中にたった一人でも「53億円払うぞ!」と言ってくれる人がいればいい。1枚の絵にこれだけの価値を認めてくれる人がたった一人でもいればいいんです。

なぜなら、どうせ商品は一つしかないからです。

これが美術品マーケットの特徴です。

供給が1つしかないから、たった一人でも価値を認めてくれる人がいればそれだけでマーケットが成立するのが美術品です。

もっとも高値を付けた人の言い値が、その美術品の価値になります。

物の価値(金銭評価)なんて超曖昧です。人が価値があると感じてお金を払ってもよいと思えば、それが経済的な価値になります。

周りの意見、評価なんてどーでもいいです。どうせこの世に一つしかないわけですから。「そんな子どもが描いたみたいな絵なんて、せいぜい1万円の価値しかねーよ」って周りが言っても関係ないです。誰か一人でも「いや、53億円の価値がある!」と認めてくれれば、それだけで価値が上がります。

どんな商品であれ、価格は需要と供給のマッチング・ポイントで決まります。美術品は供給数が1つだけですから、対応する需要も1つだけで済みます。

美術品に普遍的価値とか不要です。
たった一人の主観的価値さえゲットできればいいのです。

でも不思議なことに、この主観的価値が世に広まると、なぜか客観的価値まで付いてくるんですよね~。

なんか、みんなつられて「あ、確かにゴッホの「ひまわり」は素晴らしい作品だよな。うんうん、53億円の価値があるのも納得だ。」とか思ってくるから不思議です。

 

アップル株の価値

米国株の話です。

今、NY市場でもっとも時価総額が大きい企業がアップル(AAPL)で1兆ドルを超えました。現在の株価は227ドルで発行済み株式数は4,829,926,000株です。

これだけの膨大な数のアップル株が存在するわけです。
1株2万円以上もします。

ゴッホの「ひまわり」とは大違いです。ゴッホの「ひまわり」は世界にたった一つしかありませんが、アップル株は世界に48億もあります。

供給数は48億もあるということ(実際に売り注文が入っている株はもっと少ないでしょうけど)。

48億株もあるわけですから、たった一人の言い値でアップル株の価値は決まりません。あなた一人が「アップル株の価値は250ドルはある。俺は250ドル払ってもいいぞ!」と言ったところで、アップルの株価は250ドルにはなりません(その買い注文はソッコーで約定するでしょうけど)。

株式は美術品と違って個別性がなく、同じモノが大量に流通しています。だから一人の意見で価値が決まらない。大勢の投資家から価値を認めてもらわないと、価値(株価)が上がらないのが株式の特徴です。

時価総額が大きい銘柄になればなるほど、多くの投資家の評価を得る必要があります。株の供給数が多いからです。

 

さらに、株式の価値には特殊なところがあります。

それは、将来、答え合わせがあるという点です。

ゴッホの「ひまわり」は53億円の価値があると当時の安田火災が宣言して、実際にカネを払ったから53億円の価値があることになりました。それに対して誰もケチを付けることはできません。実際にゴッホの「ひまわり」の価値が53億円なのか、1000億円なのか、実は1万円しかないのか、んなことわかりません。

一人でも価値があると言えば(実際にカネを払うことが前提)、美術品の価値はその人が払った金額になります。それ以上でもそれ以下でもない。そこで議論終了。

株は違います。みんなが「アップル株は227ドルの価値があるぞ!」って思ってるから、今のアップル株の株価は227ドルになっています。

それが正しいのか間違っているのか、本当は現時点で300ドルの価値があってもおかしくないのか、いやいや実は150ドルくらいが適正株価なのか、その答えは将来わかります。

アップルの今後の業績によって明らかになっていきます。
答え合わせがあります。

つまり何が言いたいかと言うと、アップル株の本当の価値を決めるのは大勢の投資家ではなく、世界に大勢いるアップルの顧客だということです。

投資家が提出した答案(アップルの株価は227ドルだという答案)を、顧客が先生として答え合わせしてくれます。答え合わせにはちょっと時間が掛かります。

ちなみに、その顧客の一人である私はこれからもiPhoneを買い続けるつもりです。アップルに貢ぎ続けます。私のようにアップルに貢ぎ続ける顧客がどれだけいるか。これがあなたが保有するアップル株の本当の価値を決めます。

株の最終的な価値を決めるのってお客さんです。多くの人は、株の価値は投資家が決めるもんだと思っている節があります。確かに短期的にはその通りです。でも、長期的な株の価値を決めるのは投資家ではありません、お客さんです。お客さんに良い商品・サービスを提供し続けている企業の株の価値は、嫌でも勝手に上がっていきます。

あなたが投資している企業が、常にお客さんから必要とされている優良企業であるならば、一時的に投資家の評価が下がっているからって狼狽売りしない方がいいです。お客さんの支持がある限り、株の価値は維持されます。逆に、お客さんから見放されていると感じたら、株を手放すことも検討した方がよいかもしれませんね。